The Japanese Journal of Antibiotics
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71 巻, 6 号
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総説
  • 藤村 茂
    2018 年 71 巻 6 号 p. 259-271
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

    感染症に対する抗菌薬の適正使用は,これまで病院内における注射用抗菌薬の使用法に主眼が置かれてきたが,内閣府よりAMR対策アクションプランが公表されて以来,外来における経口抗菌薬の不適切使用を是正する方向にシフトしてきた。これによりウイルス性疾患が想定される症例に対し,不必要と思われる抗菌薬の処方数が減少した。これからの感染症治療は大きく変貌し,今後セルフメディケーションによって対処する機会が増えてくることになるだろう。

    一般市販薬の多くは,発熱や頭痛,咽頭痛などの対症療法薬であるが,下痢症状の改善を目的とした乳酸菌や酪酸菌などを含むプロバイオティクスも用いられている。最近では,プロバイオティクスによる感染症治療を補助する役割が注目されており,さらに宿主免疫を賦活させインフルエンザなど各種ウイルス性疾患の感染予防や症状の軽減化が期待されるバイオジェニックスが発売されてきている。プロバイオティクスやバイオジェニックスには,感染症を完治させる効果は示されていないが,国民一人一人が取り組む新しい感染症予防として注目されている。

原著
  • 舘田 一博, 大野 章, 石井 良和, 村上 日奈子, 山口 惠三
    2018 年 71 巻 6 号 p. 273-298
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

    我々は,1994年以降,継年的に抗菌薬感受性サーベイランスを実施している。今回は2016年に日本国内65施設から分離された臨床分離株27菌種11,705株を用いて,フルオロキノロン系薬(FQ系薬)を中心とした33薬剤を対象に抗菌薬感受性試験を実施した。

    呼吸器感染症の主要原因菌種であるStreptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Moraxella catarrhalis, Haemophilus influenzaeは,FQ系薬に対し高い感受性を保持しており,特にsitafloxacin(STFX)は99.8%以上の感性率を示した。一方,マクロライド系薬に対する耐性率は,S. pneumoniaeで72.9%~77.3%, S. pyogenesで30.6%~32.5%と進行していた。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性H. influenzaeの分離頻度は55.9%と高率であったが,2010年以降の経年的な上昇は認められなかった。腸内細菌科細菌はFQ系薬に対して高い感性率を維持したが,Escherichia coliにおいては中等度耐性を含めた耐性株の分離頻度はSTFXで12.7%,levofloxacin(LVFX)で34.2%であり,LVFXでは経年的な上昇が継続していた。一方,Klebsiella spp.に関しては,E. coliとは異なりFQ耐性率は低く,94.3%以上の感性率を維持していた。メチシリン耐性Staphylococcus aureusのFQ系薬に対する感性率はSTFXで69.3%,その他のFQ系薬に対して14.6%~17.7%であったが,メチシリン感性S. aureusのFQ系薬に対する感性率は83.0%~99.1%であった。Enterococcus faecalisのFQ系薬に対する感性率は82.4%~92.4%であり,Enterococcus faeciumに対しては8.0%~21.6%であった。Pseudomonas aeruginosaのFQ系薬に対する感性率は,尿路感染症由来株が91.2%~94.2%,呼吸器感染症由来株が90.1%~94.6%といずれも90%以上であり,特に尿路感染症由来株ではFQ系薬に対する耐性率の経年的な減少が認められた。多剤耐性P. aeruginosaの分離頻度は尿路感染症由来株で0.8%(4株),呼吸器感染症由来で0.5%(3株)であった。Acinetobacter spp. はFQ系抗菌薬に対し88.4%~93.8%と高い感性率を示し,imipenem耐性株が3.3%(15株)存在したが,多剤耐性Acinetobacterは認められなかった。Neisseria gonorrhoeaeのceftriaxone(CTRX)に対する感性率は100%であり,2010年および2013年に認められたCTRX耐性株は2016年には認められなかった。今回,初めて感受性調査を実施した嫌気性菌に対しては,STFXのMIC90は0.5~4 μg/mLであったが,その他のFQ系薬の抗菌活性は比較的弱かった。

    以上の結果より,臨床での使用が15年以上経過したLVFX, ciprofloxacin(CPFX),tosufloxacin(TFLX),pazufloxacin(PZFX)の4つのFQ系薬に対し,メチシリン耐性staphylococci, E. faecium, E. coliは耐性率が33.2%~89.3%であったが,過去の成績と大きな相違は認められず,著しい耐性化の進行は見られなかった。一方,N. gonorrhoeaeではLVFX, CPFX, TFLXに対する耐性率が100%と2013年の74.1%より上昇していた。その他の菌種では,S. pyogenesでPZFX, Proteus mirabilisでCPFX, TFLXに対する感性率が80%を下回ったものの,その他では80%以上の感性率が保持されていた。また,2008年に上市されたSTFXは,MRSAおよびE. faeciumを除き,87.3%以上の感性率を示した。

  • 舟戸祐矢 , 山口康信 , 伊藤国夫
    2018 年 71 巻 6 号 p. 299-309
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

    ゾシン®静注用は,2008年7月に成人と小児における敗血症,肺炎,腎盂腎炎及び複雑性膀胱炎を適応症として承認され,それに伴い2009年1月から2012年3月の期間で本剤の使用実態下での小児における安全性と有効性の検討を目的とした特定使用成績調査を実施した。全国87施設において544例が登録され,安全性は537例,有効性は458例について検討した。

    副作用は537例中88例(100件)に認められ,発現率は16.4%であった。副作用の内訳は,下痢が11.7%と最も多く,肝機能異常,発疹が各1.3%,肝障害が0.7%等であった。重篤な副作用は4例5件で,その内訳は,肝機能異常が2件,下痢,発熱,発疹がそれぞれ1件であった。いずれの事象も回復又は軽快した。

    成人における副作用の発現状況と比較して,小児で特異的に発現する副作用は認められなかったが,下痢の発現率は小児でやや高い傾向にあった。さらに,2歳未満の小児では2歳以上と比べて発現率がやや高かったことより,乳・幼児(2歳未満)に本剤を投与する際には下痢,軟便の副作用について注意することが必要と考えられた。

    有効性評価症例458例における有効率は93.0%であった。感染症診断名別では,肺炎が96.9%,腎盂腎炎が97.7%,複雑性膀胱炎が100.0%,敗血症では74.4%であった。

    本調査結果について,安全性,有効性ともに本剤承認までに実施した臨床試験成績と同様な傾向であった。本剤は,小児に対し今後も各種の感染症診療ガイドラインにおいて推奨されているエンピリック治療薬として有用であると考えられた。

  • 八木澤 守正, Patrick J. Foster, 黒川 達夫
    2018 年 71 巻 6 号 p. 311-333
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

    米国より我が国にPenicillin(PC)とStreptomycin(SM)の製造技術と品質管理上の知識を導入した連合国軍公衆衛生局長のSams准将は,それらの抗生物質医薬品が無効である赤痢,腸チフス,発疹チフスなどの法定伝染病を制御するために,厚生省に働きかけて,第三の抗生物質医薬品としてChloromycetin(CM)を米国より導入させることとした。ほぼ同時期に,米国において開発が進められていたAureomycin(AM)が民間ベースで輸入されることとなっていたので,厚生省はCMとAMの両薬剤の臨床応用を審議する委員会を設けて国内での有効利用を促進した。

    我が国の感染症の状況と医療体制の実態に即したCMとAMの臨床適応法が確立され,法定伝染病が制御されることにより国民の健康維持が著しく改善されたが,それらに続けてAMと同系統であるTerramycin及びTetracycline(TC)とMacrolide(ML)系のErythromycinが米国より導入されて各種の感染症が一層効率よく制御されるようになった。

    我が国独自の製造プロセスによるCMやAMの工業生産が試みられたが,特許上の制約のため国内生産は断念されて,国内供給は米国からの製剤輸入に頼ることとなり,国内製薬会社と国外製薬会社の提携や外資系の製薬会社の設立が進められた。輸入製剤は,1952年3月に制定された「抗菌性物質製剤基準」に基づく国立予防衛生研究所における国家検定により品質管理が行われた。その一方で,我が国で創製されたPeptide系のColistin(CL)やML系のLeucomycin(LM)について,1953年に設立された日本化学療法学会に所属する医師により臨床評価が進められ,短時日のうちに臨床に導入された。各種の抗生物質医薬品が臨床で使用されることにより,従来の肺炎,敗血症,破傷風,結核,赤痢,チフスなどの致死的な感染症の脅威から解放され,我が国の平均寿命が延長されるという恩恵が謳われたが,抗生物質医薬品の繁用に伴って,既存の薬剤に対して抵抗性を示す耐性菌感染症の問題が深刻化した。

    我が国において1957年に発見されたKanamycin(KM)は,PCに耐性の黄色ブドウ球菌,SMに抵抗性の結核菌,CMやTCに耐性の赤痢菌など問題化していた耐性菌による難治性の感染症に対して優れた治療効果を示し,発見の翌年には日本国内で臨床使用が開始され,翌々年には米国及び欧州の臨床に導入されるという驚異的な臨床開発がなされた。KM以後の抗生物質医薬品の研究開発は,耐性菌感染症の治療に有効性を発揮する新薬へと発展し,我が国は世界の主導的な立場に立つこととなった。

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