ステロイド外用による皮膚蒼白化現象の機序研究のための実験を行い以下の結果を得た。
1) 兎耳介動脈を摘出し, 収縮刺激実験におけるステロイドの影響を検討した結果, ステロイドは電気刺激による収縮や, ノルアドレナリンおよび高カリウムによる収縮に影響をおよぼさず, 内皮細胞由来の弛緩因子の分泌阻害, プロスタグランジン合成阻害のいずれの機序による血管収縮反応にも影響をおよぼさないことが判明した。
2) ヒトの自律神経系反射の喪失領域への外用実験により, 蒼白化現象は神経の介在なしにも生じることが観察された。
3) 兎耳介皮膚を用いたステロイド外用実験の経時的観察では, 塗布の数分後一過性の血管拡張と, 引き続いて生じる浮腫が観察されたが1時間ほどで吸収された。吸収と同時に血管収縮が観察され始め, 動脈のみならず平滑筋層のない毛細血管や静脈にも管径の縮小が観察され, それは12時間以上維持された。
4) 同じ実験の電子顕微鏡による経時的観察の結果, 塗布の数分後に肥満細胞の顆粒内容の放出が観察された。顆粒の基質物質(プロテオグリカン)は当初, 細胞周囲に限局したが, 1時間後には周囲へ拡散し, 線維束間に沈着した。この物質は9時間後まで血管周囲の線維芽細胞(veil cell)周囲に観察された。
以上よりステロイド塗布は真皮内の肥満細胞からの脱顆粒を惹起するが, 放出された化学物質(ヒスタミンなど)の作用はやや遅れて発現するステロイドの薬理作用により抑制される。その結果, 血管拡張や透過性亢進は吸収されるが, 同時に放出された基質物質(プロテオグリカン)の排除は却って遷延し, 結合組織線維間への沈着をもたらすと考えられた。その結果, プロテオグリカンの水との高い親和性により, 結合組織圧が遷延性に上昇し, 血管の圧迫収縮を生じる機序で皮膚の蒼白化現象が生じると考えられた。
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