耳鼻咽喉科展望
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65 巻, 5 号
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カラーアトラス
綜説
  • 松本 文彦
    原稿種別: 綜説
    2022 年 65 巻 5 号 p. 180-186
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    耳下腺良性腫瘍の手術は比較的頭頸部外科領域では頻繁にある手術の一つである。しかしながら,悪性腫瘍の可能性や術後の顔面神経麻痺などの合併症を考慮すると,適切な診断と手術手技が必要である。術前の細胞診と超音波検査で診断を行うことが一般的であるが,術前の細胞診の結果と最終病理診断では術前に良性腫瘍を疑っていても一定の割合で悪性腫瘍である可能性があることを認識する必要がある。また,細胞診で鑑別困難な症例においては,より詳細な細胞診の診断と術前の疼痛の有無が鑑別の助けになる。局在診断においては深葉腫瘍を術前から正確に予測することは困難であり,特に頭側や前方に腫瘍がある場合には常に深葉腫瘍の可能性を念頭において手術に臨む必要がある。手術手技に関しては,特に腫瘍の局在によって術後顔面神経麻痺のリスクが高くなることはないので当科では積極的にFacelift incisionを使用して手術を行っている。具体的な手術手技においては各施設での手法があると思うが,耳下腺の周囲からの剥離や顔面神経周囲の操作においていくつかの重要なポイントが存在する。

原著
  • 小泉 舜, Torng Haw, 今川 記恵, 吉田 由記, 櫻井 結華, 力武 正浩, 近藤 由以子, 宇田川 友克
    原稿種別: 原著
    2022 年 65 巻 5 号 p. 187-193
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    近年,高度難聴児だけでなく軽・中等度難聴児の早期発見や療育についても注目が集まっている。高度難聴児は日常生活で保護者が気づくことが多いが,軽・中等度難聴の場合は就学時健診まで気づかれないことも少なくない。よって,耳鼻咽喉科の診療所においても,早期に発見することが重要となる。今回われわれは,診療所でも簡易に軽・中等度難聴児を検出できる方法を検証するために,言語聴覚障害のスクリーニング検査である「ことばのテストえほん」と聴力検査との相関関係を調査した。その結果,ささやき声テストと聴力との相関を認め,難聴の検出が可能と考えた。しかし,ささやき声検査では,軽・中等度難聴児をある程度検出することが可能であるが,合格ラインの設定値によって検出率が変動した。また,ささやき声検査に歪成分耳音響放射を併用することが中等度難聴児の検出において,より望ましいと考えられた。地域の医療機関での難聴のスクリーニング検査として,ことばのテストえほんが普及することで,早期発見・介入することができる難聴児が増加する可能性があると考える。

  • ―JRQLQを用いて―
    高原 恵理子, 金井 憲一, 松根 彰志, 大久保 公裕
    原稿種別: 原著
    2022 年 65 巻 5 号 p. 194-199
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    目的:当院でスギ花粉症に対して舌下免疫療法を施行した患者に対し,治療効果の検討を行った。

    方法:2015年6月から2019年12月までに当院でスギ花粉症に対する舌下免疫療法を開始した患者に対し,毎年の花粉シーズン終了後(6~8月)に日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(JRQLQ)による問診を行った。

    結果:調査期間中のスギ花粉飛散量は,少量飛散年2,032.8個/cm2(2020年),大量飛散年12,051.9個/cm2(2018年)であり,年数により飛散量の違いは著明であった。初診時に問診した「過去3年間を振り返って一番つらかった時の症状」と,毎年の花粉シーズン終了後に問診した「今シーズンで一番つらかった時の症状」を比較したところ,臨床症状スコア・QOLスコアの点数はいずれにおいても治療開始1年目から有意に低下していた(p<0.05)。2年目から5年目についてもほとんどの項目において点数は有意に低下していた。

    結語:スギ舌下免疫療法はスギの花粉飛散量に関わらず治療開始1年目から治療効果が認められ,その後も効果が持続して認められた。

  • 佐久間 信行, 志村 英二, 黒田 健斗, 結束 寿, 小島 博己
    原稿種別: 原著
    2022 年 65 巻 5 号 p. 200-206
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    神経鞘腫は末梢神経Schwann細胞由来の被膜を有する境界明瞭な良性腫瘤で,頸部腫瘤の原因としてはしばしば認められるが,小児における咽頭後間隙神経鞘腫の治療例は本邦では報告例がない。

    症例は14歳男児。当院初診の14日前頃に断続的な左耳痛を自覚し近医耳鼻咽喉科を受診したところ,咽頭後壁左側の腫脹を認めたため精査目的に近医大学病院を紹介受診した。CT検査にて咽頭後間隙腫瘤を認め,精査加療目的にx日に当院に紹介受診となった。造影CT,造影MRI検査を施行したところ,中咽頭後壁左側に内部不均一で一部造影効果を伴う境界明瞭辺縁平滑な最大縦径38mm大の腫瘤性病変を認めた。術前診断としては迷走神経や舌咽神経由来の神経鞘腫などの良性腫瘍も疑われたものの,受診の1週間程度前からいびきの増大を家族から指摘されるなど,急速に増大している可能性が否定できず,横紋筋肉腫や滑膜肉腫等の悪性疾患も考慮されたため,小児科,放射線科,形成外科と協議し,頸部外切開にて腫瘍の全摘出術を行う方針とした。術後の病理組織検査では,神経鞘腫の診断であった。術後重度な嚥下障害を認めたが,嚥下リハビリテーションにより改善を認めた。

    本症例のように,悪性疾患(特に肉腫)が疑われる場合は被膜間摘出が困難であるため,術前に神経脱落症状についての十分な説明と同意が重要であると考えた。

  • 今井 彩香, 中島 隆博, 月舘 利治, 石井 正則
    原稿種別: 原著
    2022 年 65 巻 5 号 p. 207-215
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    マイコプラズマ感染症は,Mycoplasma pneumoniaeによる肺炎を主体とした感染症であるが,呼吸器感染症以外にも中枢神経系,血液造血器系,循環器系,消化器系,皮膚関節,筋肉などに臓器病変を起こし,多彩な臨床症状を引き起こすことが知られている。耳鼻咽喉科領域では急性咽喉頭炎や急性中耳炎などを来す。マイコプラズマ肺炎に合併した急性上咽頭炎では咽頭扁桃がいちご状に腫大することが報告されているが,いずれも小児の報告である。

    今回われわれは,急性上咽頭炎を合併した成人マイコプラズマ肺炎の2症例を経験したので報告する。当初は細菌感染の炎症を示す急性上咽頭炎の診断でペニシリン系やセフェム系抗菌薬で治療を開始したが,高熱や咽頭痛が改善せず,むしろ咳嗽の増悪が認められたため,胸部画像検査および喀痰マイコプラズマLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法検査を行い,マイコプラズマ感染症の診断に至った。2症例とも経過中に上咽頭のいちご状発赤腫脹が認められ,マクロライド系抗菌薬の投与により,自覚症状および他覚所見ともに速やかに改善した。上気道感染症で通常使用されるペニシリン系やセフェム系抗菌薬での治療にもかかわらず高熱や咽頭痛,咳嗽が遷延し,血液検査でも炎症反応が改善しない場合には,上咽頭所見を再確認すべきである。上咽頭のいちご状発赤腫脹が認められたときは,マイコプラズマ感染症を念頭に検査,治療を進めていく必要がある。

境界領域
  • 井上 なつき, 中島 大輝, 廣田 朝光, 玉利 真由美
    原稿種別: 境界領域
    2022 年 65 巻 5 号 p. 216-221
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    慢性副鼻腔炎(chronic rhino sinusitis; CRS)や気管支喘息は多因子疾患であり,複数の遺伝要因と複数の環境要因の相互作用によって発症すると考えられている。罹患頻度が高く患者数が比較的多い多因子疾患については,多数の症例を対象として網羅的なゲノム解析を行うことによって,病態の解明や創薬の開発に繋がる可能性のある遺伝子が発見されている。

    近年,UK Biobank,BioBank Japan等の大規模ゲノムコホートが行われ様々な知見が蓄積されてきた。CRSやポリープ(nasal polyp; NP)に関連する遺伝要因についても欧米を中心に報告が増えているが,遺伝要因については人種による影響を考慮する必要がある。日本人ないしは東アジア人におけるCRSやNPの遺伝解析は重要であり,日本人における一部の遺伝バリアントの検討についての報告も最近は見られるようになってきた。

    Type2炎症性疾患としては気管支喘息についての研究が先行しており,ヨーロッパ集団での検討では気管支喘息とCRSやNPの遺伝要因との重複が示されている。このような背景を踏まえ,昨今のゲノム医学の現状を紹介する。

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