血管外液としての分泌物の一つである上顎洞内分泌物中の蛋白質を免疫電気泳動的に同定し, 洞内分泌物中の蛋白と血清蛋白との異同, および慢性副鼻腔炎における洞内容中の蛋白の特異性, また, 局所免疫グロブリン (Securetory IgA) の臨床的意義について検討, 考察し, あわせて同一症例にレ線的上顎洞粘膜機能検査, 上顎洞自然口内視鏡所見および上顎洞粘膜病理組織学的所見を施行して, これら三者の, 特にいわゆる不安定期における関連性について検討を加えてみた。
検査の対象は, 慈恵医大耳鼻咽喉科学教室ほか外来受診患者63例で, 性別は男性44例, 女性19例, 年令分布は15~62才である。
対象例63例全例の洞病変を上顎洞粘膜機能検査による6基本型によつて区分したが, 本研究では慢性副鼻腔炎患者を対象としたため, 洞内分泌物の得られぬびまん型については検査の対象より除外した。そして6基本型のうち, 準びまん型, 斑紋型, びまん限局型を不安定期群とし, 限局型, 分散型を高度病変群とに分けて検討した。
上顎洞の15%モリオドールが完全に洞外に排泄されてから, 全例に上顎洞根治手術を行つた。すなわち, 犬歯窩における準備口より内視鏡を直接挿入し, 上顎洞自然口部を撮影したのち, 注射筒を用いて洞内容を吸引, 採取した。採取した洞内容については, 全例ベンチジン法による潜血反応を行い, 血液混入のみられたものは検査の対象より除外した。そして, 上顎洞粘膜を別出し検査資料とした。
上顎洞自然口内視鏡所見は, 川久保, 島田らの分類法に準じて, 正常型・軽度肥厚型・高度肥厚型, 閉塞型, 被覆型の5型に区分して検討した。
この結果, これら三者の関連性について検討したところ次の知見を得た。すなわち,
(1) レ線的機能所見と上顎洞自然口所見とは共にほぼ相関関係が認められた。
(2) 上顎洞粘膜の病理組織学的所見において, 不安定期群では固有層の浮腫が著明であり, 高度病変群では強い結合織増生が著明であつた。
(3) 採取した上顎洞の内容には, Albumin, Haptoglobin, Transferrin, IgA, IgGの種の5種の蛋白が認められた。
(4) 不安定期群の上顎洞内容中には, 高度病変群のものに比してHaptoglobin, Transferrinの欠如するものが認められた。
(5) 上顎洞自然口の所見と洞内容の免疫電気泳動による分析との関係では, 閉塞型, 被覆型に比して, 正常型, 軽度肥厚型, 高度肥厚型においてHaptoglobin, Transferrinの欠如するものが認められた。
(6) 上顎洞粘膜の病理組織学的所見と洞内容の免疫電気泳4による分析との問には, 結合織増生を主変化としたものに比して, 固有層の浮腫を主変化としたものにHaptoglobin, Transferrinの欠如するものが認められた。
(7) 肉眼的洞内容性状と洞内容の免疫電気泳動による分析との問には, 粘液性内容においてHaptoglobinの欠如するものが多くみられ, ついで, 粘膿性, 膿性においてHaptoglobin, Transferrinの欠如がみられたが, 漿液性内容においてはこれらの欠如は全くみられなかつた。
(8) 上顎洞内容中には, 洞内特有の蛋白の存在は認められないようであつた。
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