発生過程にある両生類の幼生を観察するためには正常の発生段階表が必要となる。発生過程の幼生を体長や授精後の時間によって分類することもできるが, この方法では各段階内のバラツキが大きくなる。肉眼的に観察し得る体の変化によって分類することが最も適切である。今回, 我々は岩澤によって示されたヒキガエル発生段階表によって各段階に分類し, 聴器の形態を光学顕微鏡的に観察した。
内耳の発生について
孵化する頃 (St.21) には耳板が形成される。耳板は耳胞となる。St.22~26で耳胞は形成される。St.27になると耳胞の背側内方に迷路陥凹が形成される。迷路陥凹はやがて内リンパ管と内リンパ嚢となる。St.28になると耳胞は隔壁によって2つの部分に分かれ, これが卵形嚢になる。同じ頃に卵形嚢から三半規管が形成され, St.34頃に完成する。St.33から34にかけて, 球形嚢のなかに壷斑, 球形嚢斑, 両生類乳頭さらに基底乳頭が形成される。内耳は幼生が自ら泳ぎ摂食を開始する頃 (St.34) にほぼ完成している。
中耳およびその周辺器官の発生について
St.37に, 卵円窓の後部に問葉細胞が集まって卵円蓋が形成される。この凝集は軟骨化して平らな軟骨板へと変化していく。St.41頃までに卵円蓋が完成する。さらに, この卵円蓋に肩甲骨と卵円蓋を連ぐ卵円蓋筋が付着してopercular systemが完成する。このsystemの形成は前肢の形成と関連があるといわれている。卵円蓋が出来上がる頃 (St.41) に, 卵円蓋の前方, 卵円窓膜に接するようにして, 間葉細胞が集合して球状の軟骨を形成する。この球状の軟骨から外側前方に頭の側方にむかって突起が進展していく。この軟骨がコルメラの近位部を形成する。コルメラの遠位部が将来鼓膜となる皮膚の下に腹側にむかって進展して耳小骨桿が形成される。幼生が上陸を開始する (St.43~44c) 頃に, 側頭部ではダイナミックな変化が始まる。方軟骨とメッケルの軟骨が後方へと回転する。鼓室環軟骨が顎関節の近くに方軟骨の後方の突出として形成される。メッケルの軟骨が下顎骨を形成し, 口裂が大きくなり耳胞の外側にあった胸腺も後方へと移動する。耳管および鼓室はこの胸腺移動によって空いた部位を埋めるようにして咽頭粘膜が陥入して形成されているようである。多くの研究者は耳管および鼓室腔が第1鯉嚢由来であると考えている。今回の観察でそのような所見は得られなかった。このようにして, 中耳伝音系は, 上陸して7日目ぐらいまでに完成されるようである。
今回示したヒキガエル聴器発達過程表は, 今後の研究に大いに役立つと考える。
St.21;神経管後期, St.22;尾芽胚中期, St.26;鰓芽中期, St.27;鰓芽後期, St.33;鰓蓋形成後期, St.34;鰓蓋完成期, St.37;趾分化初期, St.41;後肢完成期, St.43;前肢出現後期, St.44c;尾瘤状期, St.45;変態完了期
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