三半規管や耳石器など前庭系からの情報, 視覚情報や体性感覚・深部知覚情報は, 前庭神経核, 舌下神経前位核等で構成される, neural storeと呼ばれる, コンピュータのCPUに相当する部分に送られている。Neural storeでこれらの感覚情報が統合処理され, 適切な出力が計算され, その出力は外眼筋群や, 大腿四頭筋や下腿三頭筋などの抗重力筋に送られ, 前庭-眼反射による代償性眼球運動, 前庭-脊髄反射による立ち直り反射等が出現し, 身体の平衡が保たれる。またこれらの情報をもとに, 自己と周囲環境との相対的な位置関係, すなわち空間識が形成される。微小重力環境下では耳石器に対する情報の欠落, 体性感覚情報の減少が生じ, 空間識の形成には新たな情報処理過程の構築が必要となる。1998年にスペースシャトル・コロンビア上で行われたニューロラブ計画では, 前庭系に関する様々な実験も行われた。その結果をもとに, 微小重力環境下における空間識形成機構について概説した。
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