鼻中隔手術の目的は,鼻閉改善という機能改善である。本邦では,鼻の機能と形態は別の疾患として治療されてきた。しかし機能と形態は表裏一体であり,別々に治療するべきではない。機能および形態を同時にバランスよく治療する方が,機能改善度および患者満足度は高くなる。そのため現在は,一回の手術で機能と形態の改善を目的とした鼻中隔外鼻形成術(open sepotorhinoplasty,以下OSRP)が行われるようになった。しかしOSRPの適応判断には明確な基準となる検査,基準値などはなく,OSRPの手術手技も多岐にわたる。本稿では,当院で施行しているOSRPの適応判断および手術方法について解説をする。
嗅神経芽細胞腫は稀な鼻腔腫瘍である。5年生存率が86%と比較的緩徐に進行する一方で,晩期合併症に関する報告は限られている。今回我々は,嗅神経芽細胞腫の陽子線治療後の晩期合併症として,副鼻腔炎と髄膜炎ならびに汎下垂体機能低下症を発症したと考えられた一例を経験したので文献的考察を含めて報告する。
症例は80代女性。10年前に他院で右内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を施行。その後嗅神経芽細胞腫の診断で,陽子線治療を施行され,再発なく半年ごとの経過観察となっていた。
来院1週間前から頭痛を自覚し,慢性副鼻腔炎を疑い他院で対症療法が行われた。4日後,意識障害を来し,他院にて髄膜炎との診断にて入院の上抗菌薬加療を行うも症状改善乏しく,慢性副鼻腔炎が原因の可能性が考慮され手術加療目的に当院当科紹介受診した。副鼻腔炎ならびに細菌性髄膜炎を疑い診断的治療目的にESSを施行し,術後翌日には意識状態の改善を認めた。また入院経過中,汎下垂体機能低下症による中枢性尿崩症を来し,陽子線治療の晩期合併症が疑われた。嗅神経芽細胞腫に対する陽子線治療後の晩期合併症の報告は限られている。しかしながら陽子線治療が保険収載され,今後増加が予想される。治療前に予め説明し,長期の経過観察を行うことが必要である。
鼻性髄液漏は正常構造の破綻により髄液が鼻内に漏出している状態を示し,治療は多くの場合で外科的治療が選択される。今回,治療に難渋した鼻性髄液漏の症例に対し,内視鏡下で瘻孔を閉鎖しえたので報告する。
本症例は,他院でSternberg’s canal型髄膜脳瘤術後の鼻性髄液漏に対し,内視鏡下鼻内瘻孔閉鎖術を行うも髄液漏が持続した症例である。受診時,鼻内内視鏡で持続的な水様性鼻漏を認めたが,明らかな瘻孔は同定できず,瘻孔は髄膜脳瘤の手術を行ったSternberg’s canalと推定された。術中所見ではSternberg’s canalの外側縁と考えられた部位が架橋した骨組織であり,その前方外側にも骨欠損が続いており,同部位を閉鎖することで髄液漏は停止した。
本症例の治療は,瘻孔部位の正確な同定が困難であり,瘻孔部位を可能な限り明視下におく手術アプローチの工夫が必要であった。翼口蓋窩アプローチに加えてEMMMに準じた切開から鼻涙管を温存したうえで,下鼻甲介を離断し上咽頭方向へ偏移し上顎洞内側壁を広く開放した。それによって蝶形骨洞外側の瘻孔に対しても良好な術野の展開および手術操作が可能となった。鼻涙管閉塞の症状も認めず,術後経過は良好である。
2017年に唾液腺腫瘍WHO分類が改訂され,乳腺相似分泌癌(Mammary analogue secretory carcinoma: MASC)が初めて分類されるようになった。今回,耳下腺腫瘍摘出術施行後にMASCと診断された3症例を経験したので報告する。症例1は30歳の男性,症例2は43歳の女性,症例3は39歳の男性である。いずれも術前の細胞診では悪性所見は認められず,採取検体からの遺伝子染色体解析の結果,MASCの診断となった。
今回の3症例からMASCの病理学的特徴や臨床的特徴について,過去の報告例も踏まえて考察を行った。治療は手術が第一選択になることは変わりないが,MASCの染色体転座をターゲットとした分子標的薬の実用化の報告もあり,手術以外の治療に関しての選択肢となり得る可能性がある。MASCに対する知見を広めることが重要と思われる。
Oncocytomaは,oncocyteと呼ばれる細胞の腫瘍性増殖と考えられており,正常人の腺組織の導管部,線条部,介在部と線房部に多中心に存在している。
Oncocytomaが悪性転化するとoncocytic carcinomaと呼ばれるが,その出現頻度は,約16%であると報告されている。治療としては原則的には切除が望ましく,経過観察とした場合でも,腫瘍の悪性転化が疑われた場合には手術加療が必要となる。
症例は86歳,女性。左顎下部の腫瘤を主訴に受診し,左顎下腺と耳下腺に腫瘍性病変を認めた。左顎下腺腫瘍に対し全身麻酔下にて左顎下腺腫瘍摘出術を行ったところ,oncocytomaの診断であった。心疾患の既往があり,全身麻酔リスクもあったことから,左耳下腺腫瘍に対しては経過観察としていたが,徐々に増大,疼痛も伴うようになったため5年後に左耳下腺腫瘍摘出術を施行した。病理結果から粘表皮癌と診断され,経過観察の方針としたが,術後1年の時点で再発は認めていない。
頸部多発腫瘍を認めたとき,その内1つがoncocytomaと診断された症例でも,他の腫瘍は別の組織型や悪性であることも考慮し,早期手術が望ましい。経過観察とする場合でも,悪性の可能性も常に考え,厳重な経過観察が必要である。
2019年6月,固形がんに対して,がん遺伝子パネル検査が保険適用となった。保険適用されているがん遺伝子パネル検査は,「FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル」,「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」および,「FoundationOne® Liquid CDxがんゲノムプロファイル」である。対象は,固形癌に限られ,頭頸部領域では,頭頸部癌,甲状腺がんなどが検体提出されている。リンパ腫などの血液がんは,分子背景の違いから,現在のがん遺伝子パネル検査の対象外であるが,特に,診断,予後予測の観点から有用であり,今後は,血液がん用のがん遺伝子パネル検査により,分子背景に基づいた個別化医療が行われていくと考えられる。