背景 : 形質細胞性腫瘍は臨床的に骨軟部腫瘍として認識されることがある. 今回, 胸壁に発生して切除された未分化形質細胞腫を経験し, 捺印細胞診が他の悪性腫瘍との鑑別診断に有用であったので報告する.
症例 : 82 歳男性. 約 1 ヵ月前より左前胸壁腫瘤を認め, 増大傾向を示すために切除目的に紹介入院. 胸部 CT で左胸壁に約 10 cm 径の腫瘤を認め, 隣接する肋骨に浸潤所見を認めた. 骨シンチでは左胸壁に限局する集積像を認めた. 肋骨合併胸壁腫瘍切除術が施行された. 術後の血清・尿免疫電気泳動で Bence Jones-κ型 M 蛋白血症の病態が推定された. 患者は紹介元病院に転院した後に多発性骨髄腫に進展して死亡した.
組織所見 : 腫瘍は肉眼的に乳白色髄様充実性を呈し, 第 5 肋骨の一部が腫瘍内で消失していた. 組織学的に中∼大型類円形核と明瞭な核小体を有する腫瘍細胞が髄様に増殖する悪性上皮様腫瘍であり, 核分裂像が多く奇怪な多核巨細胞や核破片 (apoptosis) が目立った. 鑑別診断には低分化癌の転移, 類上皮肉腫, 退形成性の強い形質細胞性腫瘍, びまん性大細胞性リンパ腫などがあげられた.
腫瘍捺印細胞所見 : 腫瘍細胞は結合性に乏しく, 多くが孤立散在性に出現したが, 一見上皮様結合を示す部分もみられた. 核は大小不同と核形不整が目立ち, 多くは単核だが 2 核∼多核もみられ, 大型で好酸性の核小体が目立った. 核偏在や核周明庭, 細胞質空胞変性もみられた.
酵素抗体法 : 腫瘍細胞は kappa+, lambda−, IgG+/−, IgA−, IgM−, CD3−, CD20−, CD79a−/+, CD30−, MPO−, MUM1+, CD138+, CD56+, synaptophysin−, CD99+, EMA+/−, cytokeratin−, vimentin+, desmin−, HHF35−, SMA−, S100−であった.
結論 : 細胞異型の強い未分化形質細胞腫で非典型的な組織像から一見低分化癌の転移や肉腫との鑑別も要したが, 捺印細胞像による観察が診断に有用であった.
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