オレオサイエンス
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3 巻, 11 号
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総合論文
  • ナノ物性計測への応用
    古沢 浩, 伊藤 耕三
    2003 年 3 巻 11 号 p. 583-589,581
    発行日: 2003/11/01
    公開日: 2013/06/01
    ジャーナル フリー
    脂質ナノチューブは, カーボンナノチューブと違って, 外孔・内孔ともに親水性である。そのため, いくつかの潜在性をもっている。一つは, 生体系・微小管の代替品としての可能性である。そしてもう一つは, 内孔という一次元ナノ空間を, 化学反応や生体分子輸送の場として使用できるかもしれないという将来性である。本稿では, この脂質ナノチューブをマニピュレーションする方法を, 2つ紹介する。一つは, 顕微授精などで用いられる微小注射針を利用する方法である。この方法を用いると, ガラス基板上に, 単離したナノチューブを自由自在に任意の方向へ配列固定することが出来る。この我々の発見したマニピュレーション法は, 応用上有望であると思われる。例えば, 半分ほどチューブを注射針から出した状態で固定できれば, ナノピペットが作れるかもしれない。一方, もう一つのマニピュレーション法は, レーザピンセットを用いた方法である。これにより, 例えば, 一本のナノチューブを弓状に曲げることが出来る。そこで, この曲げた状態でレーザスイッチを切ったときの, 元の直線形態へと緩和する所要時間から, チューブの剛性 (ヤング率) を求めた。その結果, 微小管とほぼ同程度のヤング率をもつことがわかった。このことからも, 脂質ナノチューブは, 微小管・代替品としての可能性を持っていることが示唆される。さらに, ヤング率の温度依存性も調べた。この結果から, ベシクルへの形状転移温度よりも手前で, チューブが柔軟化する (すなわち, 壁面脂質の面内秩序が緩む) ことが明らかとなった。
  • カップ状ベシクルの形成
    末崎 幸生
    2003 年 3 巻 11 号 p. 591-597,581
    発行日: 2003/11/01
    公開日: 2013/06/01
    ジャーナル フリー
    名大宝谷らによって脂質と蛋白質 (タリン) の混合水溶液系で穴のあいたカップ型のべシクルが観測された (1997) 。カップの形はタリンの濃度の関数として可逆的に変化し, 蛍光顕微鏡によってタリンはカップの縁に吸着していることが確認された。筆者は統計力学を用いてタリンの溶媒水とカップの縁への吸着平衡を解析し, カップ形成は自由エネルギー的に準安定な会合体であることを示した。脂質と胆汁酸の混合系は生理学的医学的に重要であり, 古くからその会合体についての研究が行われてきた。しかし, その会合体は円盤型ミセルか球型ベシクルだと信じられてきた。その大きさは0.1ミクロン以下であり光学的に見えないのである。筆者は脂質タリン系の解析を拡張してこの系でもカップ型ベシクルが準安定な会合体として存在し得ることを示した。
  • 山本 潤, 西山 伊佐, 新居 輝樹, 横山 浩
    2003 年 3 巻 11 号 p. 599-607,582
    発行日: 2003/11/01
    公開日: 2013/06/01
    ジャーナル フリー
    今日では液晶は, 液晶ディスプレイや機能性有機材料として, 工業的に幅広く利用されている。一方, 生体には多くの液晶組織が存在し, 少なからず生命活動のメカニズムの一端を液晶の性質が支えていることには疑う余地がない。生物学の進歩により, ゲノムというメモリ情報に関しては, 膨大な情報の蓄積が行われたが, 生命というコンピュータの構築および動作原理は何一つとして解明されていない。生体組織は, 意思を持たないミクロな分子が, 階層的な構造を幾層にもわたって積み重ねることにより, 自発的に構造化され機能性を発揮する。液体が構造を維持できないことと, 固体が運動に不適切であることから, 生体が液晶で作られていることは, まったくの必然に思える。
    他方, これまで, ディスプレイに代表される “液晶” の使用法は, エネルギー的な基底状態である, 最も一様で, 欠陥の無い単結晶な状態に限定されてきた。しかしながら, 逆に, “非整合性” をあえて液晶秩序中に人工的に設計して注入し, 液晶秩序がこの “非整合性” を自発的に回避する力を利用して, 様々なサイズの超構造を形成させることが可能である。このようなシステムを, “ナノ構造液晶” と呼ぶ。事実, 生体の液晶構造の基本要素である2分子膜は, 複数の分子種を含む複合膜であり, 膜たんぱく質やコレステロール等, 様々な不純物を含んでいる。この意味で, ナノ構造液晶は, 生体内の階層構造をつくる, 最も基本的なメカニズムのプロトタイプとも言える。
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