今日では液晶は, 液晶ディスプレイや機能性有機材料として, 工業的に幅広く利用されている。一方, 生体には多くの液晶組織が存在し, 少なからず生命活動のメカニズムの一端を液晶の性質が支えていることには疑う余地がない。生物学の進歩により, ゲノムというメモリ情報に関しては, 膨大な情報の蓄積が行われたが, 生命というコンピュータの構築および動作原理は何一つとして解明されていない。生体組織は, 意思を持たないミクロな分子が, 階層的な構造を幾層にもわたって積み重ねることにより, 自発的に構造化され機能性を発揮する。液体が構造を維持できないことと, 固体が運動に不適切であることから, 生体が液晶で作られていることは, まったくの必然に思える。
他方, これまで, ディスプレイに代表される “液晶” の使用法は, エネルギー的な基底状態である, 最も一様で, 欠陥の無い単結晶な状態に限定されてきた。しかしながら, 逆に, “非整合性” をあえて液晶秩序中に人工的に設計して注入し, 液晶秩序がこの “非整合性” を自発的に回避する力を利用して, 様々なサイズの超構造を形成させることが可能である。このようなシステムを, “ナノ構造液晶” と呼ぶ。事実, 生体の液晶構造の基本要素である2分子膜は, 複数の分子種を含む複合膜であり, 膜たんぱく質やコレステロール等, 様々な不純物を含んでいる。この意味で, ナノ構造液晶は, 生体内の階層構造をつくる, 最も基本的なメカニズムのプロトタイプとも言える。
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