ペプチド基を含む両親媒性分子のキャストフィルム中には多重水素結合がβ-シート構造として観察できる。このキャストフィルムは透明で自己支持性もあるのだが,大変脆い。このことは,キャストフィルムの機械強度を向上させるために,β-シート構造を固定する相互作用も必要であることを示している。そこで,我々はペプチド基の側鎖を利用することにした。ペプチドがβ一シート構造を形成しているとき,隣接アミノ酸の側鎖はシートの表と裏に位置しているが,方向はシート面にたいしてほぼ直角である。このため,異なるβ-シートの側鎖同士は噛み合うので,ペプチドがロイシンで,かつ3残基以上あれば,独特な入れ構造を形成しβ-シート構造同士を固定すると考えられる。この作用をロイシンファスナーと呼ぶが,β-シート構造ができなければ生じない作用である。我々の系ではモノマーが自己組織化して超分子を形成した後,その構造が水素結合で固定されてβ-シート構造を作り,そのβ-シート構造はロイシンファスナーでさらに構造化されて,ついには超分子ポリマーを形成する。すなわち,水素結合とロイシンファスナーは階層的に作用している。この論文の中で,我々は素構造となる分子を階層構造化すれば,共有結合で素構造を連鎖しなくても柔軟な自己支持性フィルムになることを示した。
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