日本は世界的に見ても不眠大国である。社会構造が常に複雑になり,人手不足や長時間労働などの問題により,睡眠時間を確保することが難しくなっている。このため,何らかの方法で睡眠の質を向上させることが重要になっており,我々はヒトの食事に着目した。特にオメガ3系脂肪酸,リン脂質やコリン化合物などの脂質は中枢機能に関わりがある。本総説において,筆者の研究を交えて脂質摂取と睡眠の関係について紹介する。
睡眠は,代謝調節に重要な役割を果たし,睡眠障害は脂質代謝異常を来す。中でも睡眠呼吸障害は,脂質代謝異常,高血圧や糖尿病と密接に関わっており,心血管病の発症リスクを高めるとの証左が多い。近年,質量分析計を用い睡眠障害による脂質代謝異常の分子的なメカニズムを解明しようという試みがなされている。閉塞性睡眠時無呼吸患者において重症度と脂質分子種プロファイルが関連すること,睡眠時間制限によりいくつかの脂質分子種が変動することが報告されている。質量分析計を用いた脂質代謝産物の包括的解析は,睡眠 / 覚醒調節および関連する代謝プロセスの理解をさらに深め,代謝プロファイリングを利用することで病態および治療効果評価においてバイオマーカー探索に不可欠となると考えられている。本稿では,睡眠と脂質代謝異常との関連について疫学研究および質量分析による研究を紹介する。
近年の多くの研究により,睡眠と全身健康が密接に関わっていることが明らかになっている。 本邦の睡眠問題に起因する社会的経済損失は,年15兆円と試算されており,睡眠を改善することの社会的意義は大きい。本稿では,睡眠の質を向上する機能性表示食品の開発経緯を,素材探索,見出した素材「清酒酵母GSP6」の睡眠の質向上機能・作用メカニズム解析を中心に報告する。加えて,睡眠を介した全身健康(睡眠ヘルスケア)研究の一環として睡眠の質向上による肌質の改善と疲労感の軽減についても紹介する。