バイオマテリアル分野の歴史を紐解くと,体の中に人工物を投与・埋植した際に起きる免疫反応をいかに回避するかというところが原点となっている。21世紀に入るとがん免疫(がんワクチン)の分野の研究が急速に進歩し,むしろ生体の免疫を活性化してがんを攻撃するようなバイオマテリアルの開発が行われるようになってきた。さらに近年,自己免疫疾患の増加や新型ウイルスの流行などを背景に,新たに免疫反応を積極的に寛容するバイオマテリアルの開発が求められるようになっている。本稿では,このような多彩なバイオマテリアル開発の最近の研究例について概説し,特に死細胞(アポトーシス細胞)の有する巧みな免疫寛容作用に学ぶ革新的な免疫制御バイオマテリアル開発戦略について紹介する。
植物由来のナノ素材であるナノセルロースは,ナノ繊維の特徴にセルロースの特性が反映された優れた材料特性を示すため,環境負荷の小さい機能性素材として注目されている。しかしながら,ナノセルロースの実用化を推し進めていく上では,ナノセルロースならではの特徴を活かした用途を見出すことが欠かせない。本稿では,ナノセルロースに含まれるセルロース以外の成分に着目し,木質を構成するヘミセルロースやリグニンの局在と,これら成分がもたらす効果について紹介すると共に,木質とは異なる多様な成分で構成される農業副産物から調製したナノセルロースの特徴と,農業副産物由来であることを活かしたナノセルロースの食品用途への可能性について紹介する。
エアロゾルフロー法を用いて,様々な種類のリグニンを前駆体とする,真球状リグニン粒子を高収率かつ高生産的に合成することに成功した。バーナー型のインパクターによって,粒径が約30nmから2μmの範囲で分画された粒子が乾燥状態で得られた。得られたリグニン粒子は,鉱物油または水中における高剪断処理をした後も,形態に変化はなく優れた機械的特性を有しており,様々なアプリケーションにおいて望ましい特性であると言える。また本系のリグニン粒子を水中油滴型(O/W)ピッカリングエマルションの安定化に応用した結果を示す。クラフトリグニン由来のリグニン粒子を用いた場合,粒子濃度がわずか0.1%でも十分に高いエマルション安定化効果を発揮し,オストワルド熟成,合一による相分離の変化は2か月以上の期間,ほとんど観察されなかった。以上の結果は,エアロゾルフロー法によるリグニン粒子は,優れた乳化作用を有し,高いコロイド安定性を与えることを示している。
本報告では,乾燥状態の真球状リグニン粒子を,粒子径を制御しながら高い生産性で合成する,新しいナノマテリアル調製法を提案する。本提案の有機性ナノ粒子を用いた新たな用途展開が想定されるが,ここでは,その一例として,界面活性剤を含まない乳化システムへの応用について報告する。