トライボロジーは機械システムを円滑に動作させる上で重要な役割を担っている。最近では,SDGsに向けた取り組みの中で,機械システムのエネルギー効率向上と環境負荷低減を実現するための有効な手段として,潤滑油の性能向上に大きな期待が寄せられている。潤滑油は基油と添加剤からなり,基油は主に粘度特性を添加剤は摩擦表面との相互作用特性を担っている。本稿では,潤滑メカニズムの観点から,潤滑油の役割と主な構成について概説する。
潤滑油は「機械の血液」と呼ばれており,機械を動かす上で重要な構成要素である。潤滑油は主にベースオイル(基油)と添加剤から構成されており,潤滑油の基本性能はベースオイルによって大きく左右されるため,非常に重要な役割を担っている。本項では潤滑油におけるベースオイルの役割について解説すると共に,潤滑油を取り巻く法規制への対応の一例として,潤滑油の高引火点化による消防法への対応およびその効果について紹介する。
自動車メーカー各社は電気自動車開発を強化する一方,様々な技術を結集させ,内燃エンジン車両の燃費改善検討も行われている。省燃費性の高いエンジン油の開発もその一つである。低粘度基油の使用によりエンジン油を低粘度化し,粘性抵抗を低減することで燃費向上を図るというものである。その際,摩擦低減に寄与する添加剤を配合することで更に省燃費性を高めることができる。本稿では,摩擦低減剤の一つとして広く用いられているジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Molybdenum Dialkyldithiocarbamate; MoDTC)について述べた。
切削油剤とプレス油の日本における変遷と,切削油剤とプレス油の作用機構について解説する。また,切削油剤ならびにプレス油は,作業環境の改善のために非塩素化が進められている。プレス加工では硫黄系極圧剤やリン系極圧剤,金属清浄剤を併用することで,塩素系に匹敵する性能が得られることが知られている。しかしながら,使用できる化学成分の規制は,今後厳しくなると考えられる。最近,酸素以外のヘテロ元素を含まないポリマー型極圧剤が開発されたので,このポリマーの絞り・しごき加工特性についても解説する。また,プレス油の開発においては,ラボレベルで加工特性を評価できるシミュレータが必要と考えられるため,開発した絞り・しごき加工時の凝着のシミュレータについても解説する。