グリシドール脂肪酸エステル(GE)は,食用油に見出された新たな微量成分であり,体内で既知の危害性成分であるグリシドールに変換される可能性が指摘された。ドイツや日本の食品安全行政機関は,①精度の高い定量分析法の開発,②安全性評価,とくに体内動態,③メカニズム解析と低減化の必要性を示した。本研究では,GEのリスク管理に貢献すべく,これら3つの課題に取り組んだ。その結果,世界に先駆けた直接定量法の開発,ヘモグロビンアダクト法を利用したヒトのGE摂取によるグリシドール暴露量の評価,GE生成の温度依存性と活性白土処理を用いたGE低減法を示すことができた。これらの研究成果は,油脂産業界におけるGEのリスク管理に向けて,有用な知見を提供できるものと期待される。
食品の国際貿易においてコーデックス委員会の重要度が増してきている。コーデックス委員会 は1963年にFAO及びWHOにより設立された国際的な政府間組織で,現在は187ヶ国及び1地域政府間機関(欧州連合)が加盟し,消費者の健康保護と公平な食品貿易を主目的に食品安全の国際規格を策定しているリスク管理組織である。本稿では食品中の汚染物質に関するコーデックス食品汚染物質部会(CCCF)の取り組みと,その科学的根拠となっているFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)によるリスク評価について紹介する。さらに,かび毒,アクリルアミド,無機ヒ素及び鉛など,CCCFにおいて近年議論されている食品安全に関する課題を取り上げ,概説する。
食品の安全性を確保するためのリスク分析は日本の規制システムの中で定着してきたように見える。現在,リスク分析には2つのやり方があり,1つは閾値ありアプローチであり,リスク分析以前からある安全と危険の二分法に回帰してしまっているように見える。もう1つは,閾値なしアプローチであるが,最近まで食品安全分野では利用されてこなかった。その理由は遺伝毒性があると分かった時点で厳しく使用禁止措置がとられてきたからである。しかし近年,遺伝毒性発がん性物質は,非意図的な汚染物質や副生成物の中に多数見つかっている。本論文では4つの物質のリスク評価書をとりあげ,リスク分析の中での扱われ方をレビューし,3つの新しいツールを取り上げる。最後に,エビデンスに基づく政策決定に資するために必要なアプローチを提案する。
これまでの接着・接合技術開発は,強固に接合することが信頼性の観点から重視されてきた。持続可能社会ではリサイクルを基調とした資源分別のために解体しやすいモノづくりが要求されており,接合部を簡単に分離できる新しい接着・接合技術の開発が求められている。本稿では,接着・剥離を自在に行っている生物の接着のしくみ及びそれをモデルとしたバイオミメティックな接着技術開発の現状について紹介する。