こめ油は,一般的なビタミンEであるトコフェロールに加えて,スーパービタミンEとして注目されるトコトリエノールを含む数少ない植物油である。しかし,現行のビタミンEの分離は,高温での多段分子蒸留を主体とするプロセスで行われているため,熱による分解損失によって回収率が低く,沸点の差による分離選択性が低いため不純分混入量が大きく,これらがコスト高の原因となっている。特に,熱安定性の低いトコトリエノールの分離は困難であり,普及の大きな障害となっている。この問題解決を目的として,様々な分離プロセスの開発が行われている。本稿では,超臨界抽出や吸着・脱離を用いた新たな分離プロセスの特長と適用例を紹介する。
こめ油には不飽和ビタミンEトコトリエノール (T3),フェルラ酸(FA),γ-オリザノール, 植物ステロールなどの食品成分が豊富に含まれていることから,こめ油の健康機能性が注目を集めている。 我々はT3の抗血管新生やテロメラーゼ阻害を報告し,T3が高い抗がん作用を有することを明らかにしてきた。T3は4種の異性体の間で生理活性の強さが異なり,δ-T3が最も高い抗がん効果を示す。T3は通常のビタミンEであるトコフェロールと比較してバイオアベイラビリティが低いため,T3の生理活性を相乗的に高める化合物が精力的に探索されている。本総説では,こめ油成分であるT3とFAを活用した相乗的ながん抑制作用について紹介する。
全粒穀物は肥満,糖尿病予防に有効であることが複数の疫学研究で示されている。玄米は日本型食生活を特徴づける重要な食品の1つであり,精白米に比べて食後の血糖上昇が少ないことや,最近では肥満改善効果も報告されている。玄米の成分で最も研究されているのが,米糠中に含まれる食物繊維やγ-オリザノール等の油溶性成分であるが,肥満や糖尿病に対する玄米の効果は研究するに値する余地がまだ多く残っており,玄米中には未知の機能性成分が含まれている可能性が考えられる。最近我々は,米糠中の油溶性画分に含まれるトリテルペンアルコール及びステロール(TASP)画分に,高脂肪食依存性の肥満を抑制する作用,及び食後高血糖を抑制する作用を見出すに至り,ヒトにおいても食後高血糖を抑制することを明らかにした。更にその作用メカニズムとして,TASPは消化管ホルモンであるGlucose-dependent Insulinotropic Polypeptide(GIP)の食後血中濃度の上昇を抑制すること,及びグルコース輸送体であるSodium-dependent Glucose Transporter 1(SGLT1)の細胞膜へのトランスロケーションを阻害することを見出した。玄米由来のTASPは,米糠より工業的に生産することができ,これを応用した機能性食品を開発することにより,肥満や糖尿病の予防・改善に大いに役立つことが期待される。本稿では,米糠油中のトリテルペンアルコールの生理作用,及びその作用メカニズムについてこれまでの知見を総括する。