色材の中で絵画を制作する目的に使われるものを特に「絵具」と言う。「絵具」は,着色剤(顔料)と展色剤の混合物であり,着色剤は,展色剤に溶けるものであってはならない。長い絵画の歴史の中でも,これら絵具の本質は変わっていない。絵画の制作は,画家個人の技法に委ねられており,感性の世界の中で,独自のマチエールが作り出される。絵具は,様々な助剤を用いることにより改良されてきたが,顔料の性能を最大限に引き出すことが,より良い絵具作りにつながると考えている。東京藝術大学油画技法材料研究室との協同研究の成果として油絵具「油一」を発表した。これは,顔料と油だけで練られていた時代のプリミティブな油絵具を,現代の高性能な生産技術を導入することにより,画家の感性に基づく現代の油絵具として完成させたものである。
油彩画における表現技法は,油絵具の性質との関わりが深く,特に媒材である乾性油,揮発性油等の特徴を生かしたものが多い。それらはテンペラ絵具やアクリル絵具には見られない,透明度の高さと可塑性の高さによる技法であり,それぞれ「透層技法」と「アラプリマ」が該当する。今後も油彩画は,油絵具と他の描画材との混合などにより,独創的な表現が可能となることで,さらなる発展が期待できる。
保存修復・技法解明・復元等のために油彩画の科学調査は非破壊かつ非接触で行なわれている。赤外線写真・蛍光写真・X線写真・斜光写真・顕微写真などの撮影技術およびX線・反射スペクトルなどの分光分析技術が油彩画の科学調査に用いられている。写真撮影は油彩画の状態や内部構造を観察するために行なわれ,分光分析は油絵具の成分とその分布状態を測定するために行なわれている。これらの科学調査技術は比較的早い段階で確立され実用に至っている。最近では新しい分析法やデータ解析法も開発・検討されている。このため本稿では従来の調査法に触れながら新たに開発・検討された調査法についても概説する。