日焼け止めやファンデーションなどの日中使用する化粧品は,化粧持ちが強く望まれ,また,マスクなどへの色移りはコロナ禍の以前から消費者が気にするポイントの一つとなっている。ラスティングニーズを解決する技術は様々研究されているが,環境に配慮したアプローチ,すなわち持続可能な素材を使用した解決策はまだ少ない。我々はポリイオンコンプレックスに動的架橋剤を導入したPGP(Polyion complex Gel Particles)という技術を開発し,日焼け止めBBクリームに応用した。調製した処方のin vitro,in vivo試験および消費者による使用試験によって,PGP技術は既存の技術と比較して化粧品の使用性を維持しつつ色移り防止効果や日焼け止め効果の持続性を向上させることが確認された。これはPGPが動的架橋の組み換えによって高いカプセル化能及びフィルム形成能を発揮し,顔料や油溶性のUVフィルターを化粧膜中に内包できること,また動的架橋の組み換えを通したPGPの構造変化により化粧膜がセルフリカバリー機能を持つことに起因する。消費者の強いラスティングニーズに対し,環境に配慮したアプローチで解決できるPGPは,カテゴリーを超えて広く応用可能な技術と考えられる。
オートファジーは,細胞内の物質の分解およびリサイクルを担う,細胞が本来持っている基本的なメカニズムの一つである。近年の研究により,このオートファジーが,健康長寿のコアメカニズムとして機能している可能性が見出され,国際的に注目を浴びている。本稿では,オートファジーについて概説し,その主要な活性測定手法について紹介する。
乳化は化粧品,ハウスホールド製品などの分野における重要な技術である。乳化物は非平衡状態であるため調製プロセスによって生成物が異なり,調製後は時間とともに状態が変化する。さらに油の種類によって乳化特性(生成物の物性,経時での安定性)が異なることが経験的に知られている。このように乳化研究において制御しなければならない変数は多く,その結果として解釈が複雑になるため,工業的応用にあたっては経験則に頼らざるを得ない部分が多かった。本研究では乳化界面の吸着層としてラメラ液晶相が存在する乳化物を対象とし,ラメラ液晶から分離した過剰な溶媒相である水相と油相が形成するO/W乳化物の物性について3成分系の相平衡に基づき検討した。その結果,乳化剤であるポリエーテル変性シリコーンのベシクル(ラメラ液晶が小胞体を形成して溶媒中に分散した状態)を含む水相を油相とともに撹拌することで,均一なラメラ液晶による界面膜を有し,合一に対して安定性の良好な乳化物が得られることが明らかになった。乳化プロセスにおいて,ベシクルから均一な液晶界面膜へ構造転移する過程を凍結レプリカ電子顕微鏡観察像および精密な粒子径解析に基づく界面膜厚の計算などから明らかにした。本稿が化粧品,ハウスホールド製品,食品,医薬品,塗料などの分野の製品における様々な機能性の進化に繋がれば幸いである。
海洋プラスチックごみ問題はもはや一国一地域だけでは解決できない孤掌難鳴な課題であり,多くの関係者と叡智を結集し,協働して解決策を講じて実践していく必要がある。企業アライアンスである「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」(CLOMA)は,2019年1月に設立された。商品のバリューチェーンを担う企業が集まるCLOMAでは様々な知識や技術,ノウハウなどの叡智を結集し,社会システム全体を捉えた実践的な挑戦が可能となる。本稿ではCLOMAの取組み内容とこれまでの活動成果,そして今後の挑戦について紹介する。