ω3系脂肪酸は,心・血管系や脂質代謝系,さらには脳機能維持に深く関与することが良く知られている。ω3系脂肪酸,特にドコサヘキサエン酸は脳に多く含まれ,脳機能維持に重要な役割を担っている。否定的な見解もあるが,ω3系脂肪酸の摂取は,開始する時期や摂取形態を考慮することにより,加齢性認知機能低下高齢者や軽度認知機能障害高齢者の認知機能低下の進行を抑制または遅延させることができ,さらに認知症の発症予防に役立つ可能性がある。
WHOの報告によると,世界の60歳以上の年齢層の20%以上が精神・神経疾患を患っており,最も一般的な精神・神経疾患は認知症とうつ病で,それぞれ世界の高齢者人口の約5%と7%が罹患しているとされている1)。若年層のうつ病との大きな違いは,心疾患,脳血管障害,認知症などと関連している点で2),診断や治療が遅れる可能性があり,場合によっては見落とされ,治療されないこともある。やはり生活習慣改善による一次予防が重要である。栄養学的なアプローチもここ20年ほどの間に多く報告されるようになってきたが,その中でも有望視されているのが,魚介類とその有効成分のω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3)である。観察研究を統合したメタ解析の結果ではリスク低減と関連しており3,4),また,介入研究のメタ解析結果からも軽減効果が認められている5)。本稿では高齢者を対象とした魚介類とω3とうつとの関連を,自験例も含めてそのメカニズムとともに解説したいと思う。
食生活の欧米化は,オメガ3系脂肪酸の摂取機会を減少させ続けており,慢性的なオメガ3系脂肪酸の摂取不足が憂慮されている。高齢化社会では,寝たきりや歩行困難といった自立生活に支援が必要となる要介護者の増加が健康寿命延伸の妨げとなっている。その原因のひとつとして,日常の運動不足や加齢に伴った骨格筋,特に速筋の萎縮が考えられる。今回,筋組織に対するオメガ3系脂肪酸の働きに焦点を当てて,2つの筋萎縮モデルの結果を紹介する。オメガ3系脂肪酸は,後肢ギプス固定モデルと後肢懸垂モデルの2つのモデルマウス共に速筋組織の減少に抵抗性を示した。また,後肢ギプス固定モデルでは,オメガ3系脂肪酸摂取により運動刺激による筋タンパクの合成促進が確認された。このことから,オメガ3系脂肪酸の摂取は,加齢に伴う速筋組織の萎縮を抑制し,高齢者の自立生活を助ける可能性があると考えられた。