食事脂質に由来する不飽和脂肪酸が腸内細菌により飽和化されることを見いだした。新たに見いだされたこの飽和化代謝系の解析を通して,水酸化脂肪酸,オキソ脂肪酸,部分飽和脂肪酸,共役脂肪酸を代謝中間体として同定し,これらの脂肪酸の宿主組織における存在を確認した。また,これらの飽和化代謝中間体の生理機能を評価した結果,初期代謝産物である水酸化脂肪酸が腸管上皮バリアの損傷を回復する機能を有すること,さらには,水酸化脂肪酸,オキソ脂肪酸が核内受容体PPARsやLXRの制御を介して脂肪酸代謝を制御することを見いだした。すなわち,腸内細菌の脂肪酸代謝に依存して腸管内に特異的に生成する脂肪酸分子種が,宿主であるヒトの健康に何らかの影響を与えている可能性が示された。これらの知見は,腸内細菌叢制御と食事脂肪酸組成制御により,腸管内での新たな機能性脂肪酸の産生を介して,生活習慣病予防ならびに健康増進が可能となることを示している。本稿では,腸内細菌脂質代謝を俯瞰するとともに,代謝中間体の生理機能解析,乳酸菌機能を活用する新規機能性脂肪酸生産プロセスの開発を解説する。
腸内細菌は消化管でビタミン,短鎖脂肪酸の生成を担うだけでなく胆汁酸の代謝変換をおこなう。腸内細菌による胆汁酸の代謝変換は消化管の胆汁酸組成変化を誘導し,核内受容体farnesoid X receptor(FXR)シグナルやタンパク分解シグナルを介して宿主の胆汁酸代謝動態の調節に関与する。また近年腸内細菌による胆汁酸代謝変換を介するシグナルが肥満の予防の標的になることが報告された。本稿では,腸内細菌依存的な胆汁酸シグナルの脂質恒常性への寄与について紹介する。