筆者は,長年,機能性界面活性剤の開発研究に携わる過程で,分子構造-界面活性相間という考え方から脱却し,目的とする物性を確実に発現できる分子設計技術の開発という視点で研究を遂行してきた。本稿では,これらの一連の研究の中から2つの研究:(1)界面活性剤複合系で起泡力増強を行うノニオン界面活性剤の開発,(2)サステナブル時代に対応できる汎用アニオン界面活性剤の開発で行った分子構造のデザインの考え方を紹介する。
微粒子で安定化されるエマルション(Pickeringエマルション)における最も重要な物理化学的因子の一つは,微粒子の油/水界面に対する濡れ性(接触角)である。単一の微粒子を用いて望まれる特性を有するPickeringエマルションを得るためには,微粒子表面の化学的あるいは物理化学的な最適化が必要となるが,応用的な利用に際してしばしば制限や問題が生じることがある。一方,2種類の微粒子を混合して用いることにより,相乗的な効果を発現させることが可能である。例えば,疎水性微粒子と親水性微粒子の相対的な濃度を調節することにより,エマルションの転相現象を誘起させることができる。しかし,微粒子の組み合わせによっては,エマルションの合一に対する不安定化や解乳化が生じる場合がある。本稿では,2種類の微粒子の混合物によるPickeringエマルションの安定化について,微粒子の濡れ性に注目した分類の提案と,これまでに報告されている安定化あるいは不安定化のメカニズムについて概説する。
エマルションは,互いに混ざり合わない油と水が混合した液体である。そのため,一般にエマルションの調製には界面活性剤などの乳化剤が使用される。一方で,界面活性剤の原料であるパーム油の生産量に限りがあることや界面活性剤の世界的な需要の拡大により,界面活性剤を使用したエマルション製品の製造が困難になることが懸念されている。そのため,界面活性剤などの乳化剤を一切使用しない乳化技術,すなわち,界面活性剤フリー乳化が強く求められている。本稿では,界面活性剤フリーエマルションの現状と今後の可能性について紹介する。