洗浄の速度論は,一次反応式をベースにするものなどが提案されてきたが,近年確率密度関数法という新たな手法が開発された。これは汚れの付着力と洗浄力の双方が正規分布に従うという仮定の下,洗浄力分布の標準偏差と平均値の2つのパラメータで洗浄力を表すものである。これまでの研究で洗浄力と洗浄率とを関連付けることによって洗浄率の予測を可能とすることが認められた。パラメータσrlは洗浄メカニズムに関連し,その推定に使えることも分かった。もう一つのパラメータµrlは洗浄力に直接関連するパラメータであるが,ある洗浄条件を変えた場合の差分Δµrlを用いると2つの洗浄要素間の相互作用が相加効果,相乗効果,相殺効果のいずれであるかを判定することができる。洗浄分野を含む広い範囲で応用可能な分析ツールになり得ると考えられる。
赤外分光やラマン分光法の利点は,非破壊的で,試料の抽出,精製を必要とせず,脂質,脂肪酸,タンパク質等の構造情報が直接的に得られることにある。特に表面特性解析に優れる減衰全反射-フーリエ変換赤外吸収分光法(ATR-FT/IR)を用いることにより,人工汚染布の同一表面上に付着した油性汚れ成分,およびタンパク質汚れ成分を,同時かつ直接的に分離する定量分析が可能である。本稿では,洗浄力の定量評価のためのATR-FT/IRを用いた新しい分光学的手法の有用性について,検証結果を示しながら解説する。
洗顔料やクレンジング化粧料等のスキンケア洗浄剤は,余分な皮脂やメイク等への高い洗浄力だけでなく,顔に使用する剤型でもある為,特に肌に優しい低刺激な洗浄成分が求められる。そこで我々は,リーブオンタイプのスキンケア製品にもよく使用される安全性の高いポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE)に着目し,洗浄成分として使用した際のスキンケア効果について検討を行っている。各種評価の結果,PGFE配合の洗浄処方は,肌バリア機能への影響が少なく,また角層の多重剥離抑制効果を示し,さらに角栓を小さくして毛穴周りの角層タンパク質のカルボニル化レベルを低減させる効果を示した。本稿では,PGFEの持つ洗浄性,自己会合性,保水力とタンパク質への吸着挙動という観点から,洗浄剤処方配合時により製品価値を高めるスキンケア効果について紹介する。
皮脂中の脂質過酸化やそれに続く角層タンパク質のカルボニル化といった皮膚表面での酸化ストレスは,皮膚の性状や外観に影響を及ぼすため,化粧品科学の分野において,長年,重要な課題とされてきた。皮脂は毛穴を通って角層表面に広がっていくため,皮脂中の脂質過酸化状態を考えるにあたって,毛穴の中の酸化反応を無視することはできない。そこで,皮膚表面での酸化ストレスを制御するためには,皮脂,角層,毛穴および毛穴に詰まっている角栓を合わせて,一連の酸化ストレスの対象物として理解する必要がある。本稿では,角栓が酸化ストレスへ与える影響,および角栓洗浄による酸化ストレス低減を介した皮膚外観への効果について紹介する。
口腔環境を衛生的に保つことは,う蝕や歯周病などの口腔疾患を予防する上で有効であり,口腔の健康に関連したQOL(口腔関連QOL)の向上に関わると考えられる。口腔環境を衛生的に保つために,日々のハミガキによりステインを除去することは極めて重要である。本研究では,ステイン除去効果が知られており,市販歯磨剤に配合されているピロリン酸ナトリウム(PPNa)に着目し,ステイン除去メカニズムの解明を行った。その結果,歯面モデルに付着したステインに対してPPNaを作用させるとステインの膜厚が増加した。また,ステインを形成するタンパク質とポリフェノール類の凝集物の粒子径が小さくなった。この結果から,PPNaが有するキレート作用により凝集に関わるCaを捕捉し,凝集物を分解したと推察した。また,ステインの膜厚が増加することで物理力がかかりやすく除去されやすい状態にしていると考察した。さらに,界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)との併用効果についても検討を行い,相乗的にステイン除去力が向上することを明らかにした。