プロセスシミュレーションは,各単位操作から成るプロセスの最適条件を明らかする,あるいは個々のプロセスを理論的に検証することができる。著者は,シミュレーションを通して,リグニンから1,3-ブタジエン(1,3-BD)を合成するプロセスを開発してきた。マスバランスおよびエネルギーバランスを基に計算した収支(balance of payment;BP)をプロセスの経済性指標として用いた。これは,単位重量のリグニンを処理した場合の収入を表す。プロセスシミュレーションにより,提案する3つのプロセスのうち,ジメチルエーテル(DME)を経由するプロセスが最も高い収支を示すことを明らかにした。望ましい1,3-BD合成プロセスは,リグニンガス化,DME合成,n-ブテン合成,および異性化/脱水素から構成される。リグニンガス化発電を競合プロセスとみなし,収支を基に1,3-BD合成プロセスの改良を図った。シミュレーションを通して,DMEからのn-ブテン収率向上が技術的課題であり,競争的な経済性を持つためのn-ブテン合成用触媒の性能を明らかにした。得られた知見は,実験検証の有効な指針となっている。プロセスシミュレーションと実験検証は,バイオマス変換プロセスの実用化を加速する上で,補完的な役割を持つ。
セルロースは地球上最大の非可食バイオマス資源である。セルロースから一連の有用化学品へと変換するにあたり,セルロースからレブリン酸メチルおよび乳酸メチルに変換する触媒反応を開発した。どちらの反応も多段階の反応となるが,構成するそれぞれの素反応に最適な触媒を開発し,それらを協奏的に作動させることで効率良く反応が進行した。レブリン酸メチル合成にはブレンステッド酸とルイス酸の組み合わせが,乳酸メチル合成には異なるルイス酸の組み合わせが功を奏した。本稿では,バイオマスリファイナリーにおいて高いポテンシャルがあるレブリン酸および乳酸合成に関する研究開発,また,コハク酸,ブテン,BTX(ベンゼン,トルエン,キシレン),ペンテン酸およびアクリル酸に変換する最近の技術動向を紹介する。
地球温暖化に代表される環境問題の深刻化にともない,炭素循環型社会,カーボンリサイクル技術などの必要性は近年急激に増しており,また石油利用に代わる資源,技術が求められている。このような需要を満たすものとして,バイオプロセスによるバイオマス利用が挙げられる。本稿ではその技術の1つとして,微生物を用いたガス発酵による化学品生産を紹介したい。利用するガスはバイオマスの熱化学処理による合成ガス化により得られ,リグニンなどの難分解性資源や有機性ゴミなども利用可能にする。ガス発酵は酢酸生成菌と呼ばれる,水素,一酸化炭素,二酸化炭素といったガス体の基質を利用し生育する一群の微生物によるものである。本稿では,酢酸生成菌がガス基質を利用する代謝の仕組みとともに,ガス発酵による様々な物質生産の例を紹介し,今後の展望について議論する。