各種の両親媒性物質がコロイドの分散性に影響を与えることはよく知られており,粒子の凝集を引き起こす増感剤になったり,分散状態を安定化させる分散剤になったりする。一概に両親媒性物質といっても,低分子の界面活性剤から高分子のタンパク質や多糖類など多種多様であり,コロイドの分散性に対する効果は個々の状況に則して考える必要がある。本稿では固体微粒子が液相中に分散したサスペンション(特に負に帯電したポリスチレンラテックス)の分散安定性に対する低分子のイオン性界面活性剤添加の効果と,乳化能を有するタンパク質(ウシ血清アルブミン,β-ラクトグロブリン,β-カゼイン)によって安定化されたO/Wエマルションの分散性に焦点を当て,各々の両親媒性物質が表面に吸着することによって粒子の分散状態に与える影響を解説する。
分子構造や分子量の異なる界面活性剤やシランカップリング剤などを用いた,水中や有機溶媒中のナノ粒子の表面修飾や構造設計法は,ナノ粒子間相互作用と凝集・分散挙動の制御に応用されている。 表面修飾状態が適切であれば,表面修飾後に乾燥したナノ粒子は,様々な溶媒に分散することが可能になる。 非凝集の均一分散したナノ粒子分散液からは,ナノ粒子分散高分子複合体など様々な機能性素材の製造が可能となる。表面構造設計によるナノ粒子間相互作用の変化は,コロイドプローブAFM法により評価が可能である。この方法で得られた相互作用を示すForce curveから,表面修飾した界面活性剤や分子のナノ粒子分散機構を考察する。
高分子,固体粒子単独,予め高分子を吸着した固体粒子,あるいは凝集構造を制御した固体粒子で安定化されるエマルションの安定性やそのレオロジー挙動の乳化剤の違いによる影響に着目して解説する。高分子による乳化作用は高分子の絡み合い濃度が閾値になることが示唆される。乳化剤に関係なく乳化剤濃度の増加は,液滴径を減少させ,エマルションの安定性や動的弾性率を高くする。
コロイド粒子分散系の安定性に関するDerjaguin-Landau-Verwey-Overbeek(DLVO)理論によると,コロイド粒子間に働くvan der Waals引力と静電斥力のバランスによって分散系が凝集するか分散するかが決まる。この理論は表面構造をもたない剛体粒子を対象にしている。一方,細胞等の生体コロイド粒子は高分子電解質等のsoft matterで覆われたいわゆる柔らかい粒子であり,従来のDLVO理論と異なる新しい相互作用の理論が必要になる。本総説では,古典的なDLVO理論からはじめて生体コロイド粒子間相互作用のモデルである柔らかい粒子の相互作用について述べる。
気/液臨界点(臨界温度:374℃,臨界圧力:22.1 MPa)近傍では,水は常温・常圧下とは著しく異なる性質を示す。例えば,常温・常圧下では80前後の水の比誘電率は,400℃,25 MPaでは2と,炭化水素に匹敵する値にまで低下する。その結果,水と炭化水素は自由に相溶するようになり,逆に無機塩の溶解度は著しく減少するまで低下する。そのような極限環境では,コロイド粒子の分散安定性も大きく異なってくる。本稿では,高温・高圧下でのコロイド分散液の振る舞いに関する研究結果を紹介する。加えて,臨界点(臨界温度:241℃,臨界圧力:6.1 MPa)近傍の超臨界エタノール中で,シリカ表面間に現れる超長距離の斥力相互作用に関する最新の研究成果もあわせて紹介する。