近年,種々の脂質成分について分析法の著しい進歩がみられるが,本稿では脂質の立体異性体(エナンチオマー,ジアステレオマー)分析に大きな役割を果たしているキラル高速液体クロマトグラフィー(キラル固定相を用いるHPLC)の最近の進歩と分析の実際を概説する。
組織中に存在する脂質分子種の分布情報を明らかにすることは,その場で営まれる生命現象を理解するための重要な手がかりを与えてくれるものである。我々は脂質分子の位置情報を可視化するための手段として,質量分析イメージングを用いてきた。本手法は従来のイメージング手法では検出が不可能であった脂質分子種の可視化も可能にしており,脂質研究の分野で注目を集めている。本稿では,近年報告された脂質イメージングの研究例を紹介する。
脂質は生体や食品で重要な役割を担う一方で,様々な酸化機構(酵素酸化,自動酸化,光酸化)を経て過酸化脂質となる。脂質の過酸化は,生体老化や疾患,食品劣化に密接に関与していると考えられているが,生体や食品における実際の酸化機構を明らかにできる分析法は確立されておらず,未だ不明な点が多いのが現状である。この問題を解決するために,近年注目されているのが過酸化脂質の異性体解析である。 過酸化脂質は酸化機構ごとに特徴的な異性体となることから,詳細な異性体解析により,生体や食品における脂質過酸化機構の推定ができると期待される。本稿では,著者らが開発した,脂肪酸ヒドロペルオキシドとリン脂質ヒドロペルオキシドの解析方法を中心に,MS/MS やHPLC-MS/MS,キラルHPLC-MS/MS を用いた過酸化脂質の異性体解析に関して紹介する。