バイオサーファクタント(BS)とは,酵母や細菌などの微生物によって,様々な再生可能資源から量産される界面活性物質である。通常の合成界面活性剤に較べて,優れた界面活性を示すことに加えて,高い生分解生や様々な生理活性を示すことから近年注目されている。BSのうち,糖脂質型のものは,生産面でも機能面でも利点があるため,我々は,マンノシルエリスリトールリピッド(MEL),ソホロリピッド(SL),セロビオースリピッド(CL)などの糖脂質型BSについて着目した。各種スクリーニング技術の進展により,様々な親水- 疎水バランスを持つMEL が見出されており,ある種のMELが保湿効果やダメージヘア改善などの機能を示すことが分かった。また,食糧と競合しない非可食バイオマスの一種であるジャトロファ油やマフア油などから,高収率で,SLを量産することに成功した。さらに,BSの新たな用途展開として,SLが各種の溶媒中で,ファイバー状の三次元の超分子構造を構築することにより,低分子ゲル化剤として機能することも見出した。これらのBSのユニークな特徴は,BSの用途の拡張や,新しい応用へと発展するものと考えられる。本稿では,糖脂質型のBSに注目し,特にその生産と機能利用について概説した。
アルキルグルコシドは親水基ユニットとして糖骨格を有する天然原料由来の非イオン性界面活性剤である。一般的な非イオン性界面活性剤であるエチレンオキサイド付加型の界面活性剤に比べて,非常に高い起泡性を示し,これは相状態の観察や気液界面での表面圧測定の結果より,親水基である糖骨格構造に由来する分子の配向のしやすさが影響していると考えられる。また,アルキルグルコシドは蛋白質や肌に対してマイルドであり,水生環境に対しても適合性の高い基剤であることから,安全性や低環境負荷への要求が高まる現況において注目すべき基剤である。本稿では,アルキルグルコシドの物性および特徴的な性能ついてご紹介する。
糖系界面活性剤は再生可能資源から創製され,生体適合性や生分解性を示す。また,糖系界面活性剤は優れた可溶化能や分散性を発揮する。糖系界面活性剤であるショ糖脂肪酸エステルやアルキルグルコシドは有機溶媒中で安定な逆ミセルを形成することができるので,これらの界面活性剤からなる逆ミセルを反応場として金属ナノ粒子を合成することが可能である。本稿では,糖系界面活性剤の分子形状を選択することによる金属ナノ粒子のサイズ制御やワンポットで高濃度の金属ナノ粒子分散液を合成する方法について紹介する。
タンパク質は食品や医薬品分野で不可欠な材料であるが,非生理的環境下では容易に変性し,その優れた生理活性を失ってしまう場合が多い。そのためタンパク質の安定化技術,とりわけ安定化物質の探索が以前より行われてきた。一方,糖を親水基とする糖界面活性剤は食品添加物として広範に利用されているが,タンパク質の変性を抑制する作用も有している。本稿では,タンパク質が曝される各状態・操作における変性機構とともに,糖界面活性剤のタンパク質安定化における有効性について述べる。特に凍結および凍結乾燥過程におけるタンパク質安定化作用について,種々の糖界面活性剤が各種酵素の活性保持に対する影響を調査し,糖界面活性剤の極性基の構造やアルキル鎖長,およびアルキル鎖との結合形態が凍結および凍結乾燥時におけるタンパク質安定化作用に及ぼす影響について考察を加えた。