自己乳化は,非平衡状態の非混和性液体を接触させると自発的にエマルションが生じる現象である。筆者は,高分子界面活性剤の共存下で,疎水性高分子を溶解した有機溶媒(分散相)と水(連続相)が形成するo/w(oil-in-water)エマルションから有機溶媒を徐々に蒸発させると,表面高分子修飾ナノ/マイクロ粒子が容易に調製できることを報告してきた。その検討過程において,自己乳化現象を巧みに制御することによって,「一回の機械乳化」のみで「超低密度」多孔質粒子が得られることを発見した。本総説では,「超低密度」多孔質バイオマテリアルを作製する筆者の近年の研究と,今後の展望をまとめる。
S/O製剤とは親水性薬物を疎水性界面活性剤によって被覆することで,油状基剤中にナノサイズで薬物を分散させることができる新しいエマルション製剤である。本総説ではS/O製剤の特徴について紹介し,さらにマルチプルエマルションであるS/O/W型エマルションに焦点をあて,経口,経皮および遺伝子デリバリーなどの分野への応用研究について紹介する。
リン脂質などが水中で形成する脂質二分子膜が閉鎖小胞構造をとった脂質ベシクルは,ドラッグデリバリーシステムにおける薬剤キャリアや機能成分のカプセル化剤として利用できる分子集合体である。筆者らは,water-in-oil-in-water(W/O/W)型のダブルエマルションを基材とする脂質ベシクルの作製法を開発した。本法は,親水性物質を溶解した水滴を含むwater-in-oil(W/O)エマルションを作製するステップ(一次乳化),このW/Oエマルションを用いて二段階目の乳化を行いW/O/Wエマルションを作製するステップ(二次乳化),およびW/O/Wエマルションから油相溶媒を除去し脂質ベシクルを得るステップ(液中乾燥)の3段階からなる。この方法により,親水性物質に対する優れた内包効率と脂質ベシクルの粒径制御を同時に達成することができる。本法で作製した脂質ベシクルは,オートクレーブ処理や凍結乾燥による粉末化処理に対しても比較的安定であった。
筆者らは,直接乳化法と膜透過法と名付けた膜乳化手法を利用し,様々なマルチプルエマルションの新たな製造技術を開発した。直接乳化法によって開発にたどり着いた肝臓がん治療用W/O/Wエマルション型動注製剤では,800例を超える臨床治療が行われ,良好な治療効果が得られている。一方,膜透過法を基礎に調製される肝疾患治療を目指した静注用ナノエマルション製剤からは,in vivoとin vitro研究の中から,細網内皮系回避や細胞ターゲッティングに関する興味あるいくつかの知見が得られた。以上,医薬品に向けたマルチプルエマルションの可能性が大きいことに言及する。