【背景】抗菌薬アレルギー(Antimicrobial allergy:AA)の申告の多くは,真のアレルギーでないといわれている.近年,妊婦においても,AA評価は安全に実施できるという報告が増えている.
【目的】AA疑いの妊婦に対する分娩前のAA評価の有用性について,検討することを目的とした.
【方法】対象は,AAを申告しアレルギーセンターに紹介された妊婦とした.問診・皮膚テストを行い,分娩時に使用できる薬剤を選定した.
【結果】合計25症例(のべ24妊婦)が対象となり,最多の被疑薬はセフェム系で13例(52.0%),次いでペニシリン系で9例(36.0%)であった.問診のみでAAを否定された妊婦は5例で,即時型10例,非即時型6例,不明4例であった.分娩時に抗菌薬が必要と判断された21名全員が当センターが定める第一選択薬(βラクタム系)を使用し,手術部位感染を認めなかった.抗菌薬使用によるアレルギー反応は,認めなかった.
【結論】AAを申告した妊婦に対して,分娩前にAA評価を行い,分娩時に安全に第一選択抗菌薬を使用できた.
【背景】スギ花粉大量飛散年(総数12353個/cm2,平年比約4倍)にスギとヒノキ花粉症への舌下免疫療法(SLIT)の効果を検討した.
【方法】シダキュア®治療のSLIT 1年目84例,2年目107例,3年目67例を対象とした.2023年スギ・ヒノキ期の鼻眼と全般症状をVisual analog scale(VAS)で検討した.
【結果】スギ期症状は治療年数が増えると有意にVASが小さくなったが,ヒノキ期にはむしろやや大きかった(悪化).SLIT前でスギ期よりヒノキ期に自覚症状の強い例はわずか0.9-3.6%であったが,SLITにより治療3年目のVASでは,くしゃみ(p<0.01),鼻水,眼痒みと全般症状(p<0.05)でヒノキ期がスギ期より高かった.スギ期全般症状VASは花粉飛散数に影響されず,完治率はSLIT 3年目で影響を受けた.
【結論】大量飛散年でもスギSLITのスギ花粉症効果は高く,経年的に効果が増強したが,ヒノキ花粉症には経年的にVASによる症状の悪化があった.
【背景・目的】アトピー性皮膚炎の長期コントロール指標であるRecap of atopic eczema(RECAP)の日本語版の作成と言語検証を行った.
【方法】翻訳過程は2つの独立した順行性翻訳,英語のネイティブスピーカーを交えた調整,第三者による逆行性翻訳,認知デブリーフィング,専門家によるレビューと修正,原著者による調和が含まれた.認知デブリーフィングでは設問項目のわかりやすさ,包括性,関連性について患者を対象に面接を行った.
【結果】順行性及び逆行性翻訳において言語上の問題は生じなかった.認知デブリーフィングは成人患者10名と小児患者の保護者10名に実施された.国内の専門家を含む研究チームと原著者による協議によって,必要に応じた修正が行われた.日本語版RECAPは多くの患者とその家族にとって理解しやすく,包括的で関連性があった.
【結語】原版との翻訳妥当性が検証された日本語版RECAPが完成した.今後は測定特性についてのさらなる評価が必要である.
【目的】日本における食物アレルギー児のいじめ等の実態を明らかにする.
【方法】2021年7月~8月に昭和大学病院小児科を受診,もしくはアレルギーに関する3つの患者会に所属する小学校4年生以上の食物アレルギー児を対象に,いじめ等の経験の有無とその内容,いじめ等によるアレルギー症状誘発の有無等についてWebアンケート調査を行った.
【結果】66人の食物アレルギー児が回答した.回答者は45人(68%)が男児で,33人(50%)が小学生であった.35人(53%)が生涯を通じて何らかのいじめ等を経験していた.14名(21%)が食物アレルギーが原因のいじめ等を経験していた.2人がアレルゲンを食べることを強制され,アレルゲンを用いたいじめ等により症状誘発を経験した児が1人いた.
【結語】食物アレルギー児の多くがいじめ等を経験していることが明らかとなった.医師や保護者は,いじめ等を受けるリスクを認識することと,教師や食物アレルギーでない子どもへのリスク啓発等対策を早期に実現することが必要である.
近年,食用昆虫が注目され,摂取時のアレルギーリスクも指摘されているが,症例報告は少ない.我々は,アレルギー疾患の既往がないため発症の予見が困難であった食用コオロギによる即時型アレルギーの症例を経験した.コオロギせんべい2枚を摂取後に,くしゃみ,鼻汁,咳,眼瞼浮腫を呈した3歳男児で,エビの摂取歴はあるが食用昆虫の摂取歴はなかった.プリックテストと食物経口負荷試験の結果からフタホシコオロギが原因であることを確認した.IgE inhibition testでは,フタホシコオロギにより蛾,エビ,ヤケヒョウヒダニそれぞれの特異IgE値が著明に抑制された.本例では人生初のアレルギー症状が食用コオロギによって生じており,食用昆虫によるアレルギーのリスクを示す重要な事例である.昆虫アレルゲンには節足動物に共通したトロポミオシンやアルギニンキナーゼが含まれるが,他にも多くのアレルゲンが報告されており,交差反応による感作の可能性もある.昆虫食の普及に伴い,アレルギー発症例が増える可能性があるため,食品表示や予防策の検討をする必要がある.