【背景・目的】吸入抗原感作は喘息病態の重要な要素の一つである.我々はこれまでに外来刺激に対する自然免疫センサーであり,向アレルギー性の作用を有するthymic stromal lymphopoietin (TSLP)の遺伝子多型が喘息発症と関連すること,さらには喫煙の影響を受けながら,吸入アレルゲンに対する感作パターンと関連することを報告した.本研究の目的は,吸入アレルゲンに対する感作パターンに基づいた喘息のフェノタイプ分類を行い,その臨床的特徴を明らかにすること,さらに各フェノタイプとTSLP遺伝子との関連を喫煙の有無によって層別化し検討することである.【方法】茨城県および上士幌町在住の成人喘息患者(N=294),非喘息健常者(N=1571)を対象に問診,血清総IgE, multiple antigen simultaneous test (MAST) -26^[○!R]および呼吸機能測定を行い,茨城地区(N=1651),上士幌地区(N=214)でそれぞれクラスター解析によるアトピー分類を行った.今回は特に喘息患者に着目し, Dust Mite dominant (A, N=82), Multiple Pollen (B, N=14), Cedar dominant (C, N=44), Low reactivity (D, N=154)の4群の喘息フェノタイプの臨床的特徴を検討した.既に喘息との関連が報告されているTSLP遺伝子における機能的single nucleotide polymorphism (SNP)であるrs2289276及びrs3860933と,それぞれの喘息フェノタイプとの関連を,非喘息健常成人を対照とした多項ロジスティック解析により検討した.【結果】喘息A群には若年者が多く,血清総IgE値が最も高く,呼吸機能も低値であった.喘息B群はイネ科花粉をはじめとした多数の抗原に感作され,喘息C群はスギ飛散地域のみで形成された.喘息D群は高齢女性に多く,血清総IgE値と抗原感作の程度が最も低かった.喫煙者において,TSLP遺伝子の機能的SNPs (rs2289276, rs3860933)が喘息D群と有意に関連した(OR 2.11 [1.36-3.30]及び2.11 [1.34-3.33]).【考察】アトピー分類によって臨床的に特徴的な4つの喘息フェノタイプが同定された.アレルゲン感作の関与が少ない成人喘息の発症には,喫煙を介したTSLPの発現亢進が重要な役割を果たしている可能性がある.
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