免疫性神経疾患, とくに多発性硬化症では血液脳関門の破綻, 炎症細胞の局所への浸潤, 中枢神経系の脱髄があり, 炎症細胞や血管内皮細胞上に発現する接着分子はその病態に関与している. 接着分子のセレクチンファミリーは炎症において血管内腔から炎症局所への白血球の移行であるミグレーションに関与している. そのファミリーの中で特に可逆性接着であるローリングに関与しているsoluble L-selectin (以下sL-selectinとする)の血中濃度を測定し, 免疫性神経疾患とsL-selectinの関連を疾患活動性, 臨床症状などの観点から検討した. 対象は当院および関連施設の多発性硬化症48例(急性期36例, 安定期12例), Balo病2例, ギランバレー症候群(GBS) 18例, フィッシャー症候群7例, 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP) 8例, 健常対照12例および鹿児島大学医学部第三内科のHTLV-1関連脊髄症(HAM) 25例の患者血清で, sL-selectinをELISA法で測定した. その結果, 多発性硬化症安定期, ギランバレー症候群, HTLV-1関連脊髄症で有意な低値を認めた. また, 多発性硬化症急性期では高値群と低値群に分けられた. 更に, Balo病では対照に比べ低値を示す傾向があった. 多発性硬化症で高値を示した症例では臨床症状の一部と相関し, 血中sL-selectinと多発性硬化症の臨床症状との関連が示唆された. 多発性硬化症では安定期に低値を示しているのに対し, ギランバレー症候群, HTLV-1関連脊髄症では急性期において低値を示しており, これはそれぞれ脱髄疾患においてsL-selectinの関与が異なり, 脱髄発症の過程に相違がある可能性が示唆された.
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