日本食品科学工学会誌
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54 巻, 12 号
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総説
報文
  • 三星 沙織, 田中 直義, 村橋 鮎美, 村松 芳多子, 木内 幹
    2007 年 54 巻 12 号 p. 528-538
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    ミャンマーには伝統的な大豆醗酵食品でペーポ(Pe pok, またはペーガピ,Peegapi)と呼ばれる,農家が小規模で製造している一種の納豆がある.我が国にはない,新しい納豆の生産に適した菌株を取得するためにミャンマー東北部で現地調査を実施しペーポの採集を行った.
    (1)採集したペーポ試料29点の食塩濃度は0.14-13.7%であった.食塩濃度3%未満が11点,3%以上6%未満が8点,6%以上9%未満が5点,9%以上12%未満2点で,12%以上は3点であった.
    (2)試料から197株を分離し,137株をBacillus subtilisと同定した.そのうち42株を蒸煮大豆に生育したコロニーの糸引きから納豆菌として選別した.
    (3)分離菌の最適生育温度は,33℃が1株,35℃が1株,37℃が5株,39℃が9株,41℃が19株,43℃が6株,45℃が1株であり,温度域に幅があった.
    (4)小規模の納豆製造を行って,我が国の糸引納豆にも適する株として10株を選別した.それらの株で製造した納豆は,我が国の納豆に類似した性質を有するものもあったが,臭いまたは糸引き,苦味などの改良が必要なものもあった.これらは,さらに製造法を検討することによって現存する我が国の納豆とは異なる新しい納豆を製造する菌株として使用できる可能性がある.
  • 新井 千加子, 竹井 恭彦, 國方 敏夫, 宮田 聡美, 岩城 完三, 福田 恵温
    2007 年 54 巻 12 号 p. 539-545
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    II型糖尿病モデルのKK-Ayマウスにコタラヒムブツ,アンマロク,すいおうを3%(W/W)となるように飼料に添加し飼育した.経時的に非空腹時血糖値,飲水量,摂餌量,体重を測定し,給餌4週後に空腹時血糖値,インスリン値を測定した.また,給餌5週後(剖検時)のHbA1cを測定,膵臓・腎臓の病理組織検索を行なった.得られた結果は下記の通りである.
    (1)コタラヒムブツは,給餌1~5週後の非空腹時血糖値の上昇を著しく抑制した.
    (2)コタラヒムブツは,給餌4週後のインスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR値を有意に抑制した.
    (3)給餌5週後(剖検時)のHbA1cは,コタラヒムブツ群のみで有意な低下が認められた.
    (4)コタラヒムブツは,II型糖尿病の増悪に伴う膵ラ氏島の変性や腎糸球体硬化を著しく抑制した.
    (5)アンマロクには軽いインスリン抵抗性改善作用が認められ,膵ラ氏島の肥大や腎糸球体硬化を抑制した.
    (6)すいおうには給餌4週後の空腹時血糖値およびHOMA-IR値の有意な低下が認められ,腎糸球体硬化の抑制が認められた.
  • 清水 純, 小澤 真理子, 真野 博, 岡安 重次, 和田 政裕
    2007 年 54 巻 12 号 p. 546-552
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    本実験ではコメ糠よりエタノール抽出したコメ糠由来スフィンゴ糖脂質(crude rice glycosphingolipid, RG)の食品機能を明らかにするため,RGを0.5%含む飼料をマウスに2週間にわたり経口投与した.その後,肝臓の遺伝子発現パターンを,DNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析を行った.RGの経口投与により,薬物代謝に関連する遺伝子群の発現にはほとんど影響を与えなかったことから,医薬品との相互作用を有する可能性は低いと考えられた.解糖系の遺伝子発現は増加する傾向が認められたが,クエン酸回路に関連する遺伝子発現は,低下する傾向が見られた.脂質代謝に関連する遺伝子として,アセチル-CoAからアセチルカルニチンを生成する反応を可逆的に触媒するカルニチンアセチルトランスフェラーゼ(carnitine acetyltransferase, Crat)の遺伝子発現の有意な増加が認められた.コレステロール代謝に関わる遺伝子として,チトクロームP450(Cytochrome P450, Cyp)の一つである,Cyp7a1遺伝子の発現増加が認められた.これらの結果から,RGはCratやCyp7a1の遺伝子発現を上昇させることにより,脂肪酸代謝やコレステロール代謝を亢進する可能性が示され,機能性を有する食品素材の一つであることが示唆された.
技術論文
  • 竹原 淳彦, 福崎 智司
    2007 年 54 巻 12 号 p. 553-558
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    PET粒子表面に付着したカテキンまたは牛血清アルブミン(BSA)の洗浄除去に及ぼす水酸化物イオン,次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)および乳化剤の効果を穏和なアルカリ性条件下で評価した.カテキンおよびBSAの除去率は,OH-濃度および次亜塩素酸イオン(OCl-)濃度に依存して増加した.pH10~12の領域においては,OH-とOCl-の相乗的な洗浄効果が得られた.NaOH溶液と乳化剤の併用は,NaOH溶液の表面張力(γ)の低下をもたらし,洗浄効率を良好に改善することができた.また,OCl-と乳化剤を効果的に利用することにより,pH12以下のOH-濃度でも十分な洗浄効果が得られた.本モデル実験を基に最適化したアルカリ洗浄液(pH 12,乳化剤 : 0.02%,NaOCl : 100mg/L)を用いた自動洗浄実験では,茶飲料で汚染したPETボトルの清浄度を良好に回復させることができた.穏和なpHと乳化剤およびNaOClの併用は,PET素材を劣化させることなく,効果的に有機物質を除去できる洗浄法であることが実証された.
研究ノート
  • 宇田 靖, 吉田 昭市, 後藤 勝利, 江頭 宏昌
    2007 年 54 巻 12 号 p. 559-562
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    山形県在来のアブラナ科野菜である藤沢カブ(鶴岡市藤沢地区)と雪菜(米沢市上長井地区)およびそれらの漬物製品について特有成分であるグルコシノレート分解生成物をGC-MS分析した.
    生鮮藤沢カブでは,主なイソチオシアナート(ITC)は2-フェニルエチル-ITCであり,比較的少量の3-ブテニル-ITCおよび4-ペンテニル-ITCが存在した.しかし,揮発成分の大部分はこれらITCではなく,1-シアノエピチオアルカン類であった.
    一方,生鮮雪菜では3-ブテニル-ITCが主なイソチオシアナートであり,これに,比較的少量の4-ペンテニル-ITCと2-フェニルエチル-ITC, 4-メチルチオブチル-ITC, および5-メチルチオペンチル-ITCが検出されたが,生鮮雪菜の場合も藤沢カブと同様にニトリル類が高い割合で検出された.
    これに対して,両野菜の漬物では,いずれも生鮮物で多量副生した1-シアノエピチオアルカンの生成がほとんど見られず,ITCが主たる揮発成分となることが示された.したがって,両野菜の漬物はニトリルの生成が劇的に抑制された食物となっている.この点大変興味深い事象であり,このようなニトリル抑制機構については今後なお検討する必要がある.
  • 齋藤 優介, 西 繁典, 小疇 浩, 弘中 和憲, 小嶋 道之
    2007 年 54 巻 12 号 p. 563-567
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    7種類の食用豆類から80%エタノールと70%アセトンを用いた2段階抽出により全ポリフェノールを調製して,抗酸化活性,α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性に対する抑制効果を比較した.ポリフェノール含量の多い豆は,順にアズキ,インゲンマメ,コクリョクトウ,黒ダイズ,リョクトウ,ダイズであったが,種子の大小や種皮色との関係は認められなかった.しかし,各豆類のモノマー型およびオリゴマー型ポリフェノール含量と抗酸化活性との間には高い正の相関関係が認められた.また,エンドウとダイズポリフェノールに占めるオリゴマー型ポリフェノールの割合は低く,α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性の抑制作用はほとんど認められなかった.これに対して,アズキ,インゲンマメ,コクリョクトウ種子ポリフェノールには,オリゴマー型ポリフェノールが67-76%を占めており,抗酸化活性と共にα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性の抑制作用を示した.リョクトウや黒ダイズポリフェノールは,α-アミラーゼ活性抑制作用はほとんど認められなかったが,α-グルコシダーゼ活性の抑制作用が認められた.これらの結果から,豆類ポリフェノールのオリゴマー型ポリフェノールは抗酸化活性作用とα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性の抑制作用を有しているが,モノマー型ポリフェノールは主に抗酸化活性作用のみを有していることが推察された.
技術用語解説
  • 岑 友里恵
    2007 年 54 巻 12 号 p. 568
    発行日: 2007/12/15
    公開日: 2008/02/01
    ジャーナル フリー
    トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13 : TGase)は1957年にClarkeらによってモルモット肝に見出されたトランスアミド化活性を有する酵素として紹介された.1968年,Pisanoらによる血液凝固の研究で,ペプチド結合-グルタミル残基(アシル供与体)のγ-カルボキシアミド基とペプチド結合-リジン(アシル受容体)のε-アミノ基との間のアシル転位反応を触媒し,ε-(γ-グルタミル)リジン(G-L)結合を形成してタンパク質間を架橋することが明らかにされた(図1).その後,TGaseは無脊椎動物,両生類,魚類,鳥類,哺乳類,植物,微生物等,自然界に広く存在することがわかり,その存在理由や生理学的役割の究明に関する生化学的分野での研究が活発化した.
    当初は牛,豚,魚類といった食用動物の組織や体液からの酵素抽出が行われ,分子量70~90kDa,活性中心がシステイン残基で,Ca2+依存性のモルモット肝TGaseや牛血漿TGaseが実験室規模で単離され,特に前者がTGaseとしてよく研究に用いられた.そして,動物TGaseは血液凝固,傷回復,外皮ケラチン化,赤血球膜硬化などの生理学的役割を有していることが明らかにされた.我が国においてはSekiらがカマボコ製造工程での坐りが魚の内生TGaseに起因していることを示し,Kumazawaらが実際に,すり身製造に使うスケトウダラの分子量77kDaでCa2+依存性の内生TGaseを分離・精製して以来,食品タンパク質の改質のための応用研究が盛んになった.
    と同時に,本酵素の食品工業向け生産方法が探索され,1989年,培養液中にTGaseを分泌する微生物Streptomyces mobarensisの変異株が発見され,通常の発酵法によりS. mobarensis起源のTGaseが工業生産されるようになった.この酵素の至適pHは5~8,至適温度は55℃で,活性中心は動物TGaseと同じで,従って反応性も同じであるが,その分子量(38kDa)及びCa2+非依存性においてそれと異なっている.この微生物TGaseのCa2+非依存性はCa2+で沈澱しやすい食品タンパク質の修飾にとって好適で,近年,魚肉すり身ゲルの弾力強化,鶏肉ゲルの食感改善,麺の歯ごたえの増加や茹で延び防止,豆腐の弾性付与,食用素材の接着,非加熱凝固ゼラチンの調製,そして可食フィルムの調製等,数多くの新規食品や機能性改変法の開発をもたらしている.
    また,これらTGase処理架橋タンパク質は摂食後,胃腸消化酵素でG-Lジペプチドを残してアミノ酸に分解される.G-L結合は腎臓のγ-グルタミルアミンシクロトランスフェラーゼと,腸の刷子縁膜と血液中に存在するγ-グルタミルトランスフェラーゼ(血液検査で肝臓疾患の指標とされるγ-GPT)によってグルタミン酸誘導体(G)とリジン(L)に代謝され,遊離したLは栄養成分(必須アミノ酸の1つ)として吸収される.
    一方,G-L結合は多くの一般食品中にも存在し,また食品調理そのものも加熱による食品素材に内在するTGaseの反応でタンパク質中のG-L結合を増加させるため,人類は火と調理の発見以来,G-L結合を摂取してきていることになり,TGaseによるタンパク質修飾は栄養学的にも有用で,安全なものであるといえる.
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