日本食品科学工学会誌
Online ISSN : 1881-6681
Print ISSN : 1341-027X
ISSN-L : 1341-027X
58 巻, 9 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
総説
  • 宮田 裕次, 田中 隆, 玉屋 圭, 松井 利郎, 田丸 靜香, 田中 一成
    2011 年 58 巻 9 号 p. 403-412
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    The third crop of green tea leaves contains a relatively large amount of catechins, resulting in a bitter taste to the hot-water extract of its leaves. On the other hand, loquat leaves have a strong enzymatic activity that can oxidize catechins. They also contain chlorogenic acid, which accelerates the oxidation of catechins. Thus, we tried to promote the oxidative polymerization of catechins in third-crop green tea leaves by the addition of loquat leaves, and presumed that the taste of the third-crop green tea would be improved. However, the active ingredients contained in loquat leaves are difficult to extract with hot water due to the hardness of the leaves. Thus, we mixed and kneaded the third-crop green tea leaves and loquat leaves together using the tea roller of a tea manufacturing machine, which may have facilitated the elution of the components contained in loquat leaves, and may have effectively promoted the oxidation of catechins contained in the third-crop green tea. In this study, we improved the conventional method of producing black tea leaves, and developed a method for producing new high-quality mixed and fermented tea using the third crop of green tea leaves and loquat leaves, which were previously unused resources. We outline our main efforts here.
報文
  • 岩井 邦久, 小野寺 昭夫, 岩井 佳代, 森永 八江, 松江 一
    2011 年 58 巻 9 号 p. 413-420
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    廃棄物削減と未利用資源の有効利用を目的に,ガマズミ果実の搾汁残渣から分離した果肉皮粉末(VPFPP)の生理機能を探索した.VPFPPを1%含有する飼料を4週間摂取しても生育および血液生化学に悪影響はなかった.正常マウスでは非絶食下血漿中グルコース濃度に大きな影響はなかったが,2型糖尿病モデルマウス(KK-Ay)では増加する血漿中グルコースおよびインスリン濃度がVPFPP摂取量依存的に緩和された.絶食下でスクロースを経口投与した時にもVPFPP食で飼育したKK-AyマウスではVPFPP摂取量依存的に血漿中グルコース濃度の上昇抑制が認められた.これらの作用には,VPFPPの豊富な食物繊維とポリフェノール類のα-グルコシダーゼ阻害作用が関与していることが推察された.また,KK-Ayマウスでは血漿中過酸化脂質濃度の増大がVPFPP摂取によって抑制された.以上の結果より,ガマズミ果肉皮は,酸化抑制作用と糖尿病予防効果を備えた新規な機能性素材になり得ることが示唆された.
  • 加藤 みゆき, 大森 正司, 加藤 芳伸
    2011 年 58 巻 9 号 p. 421-427
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    緑茶を対象としてretroposon-like sequence DNA (RLS-DNA)塩基配列の比較解析により品種の判別を試みた.実験には,やぶきた品種のチャ葉より製造した緑茶と,市販されている中国,ベトナム,ミャンマー,台湾の緑茶,そして日本の緑茶用40品種の生茶葉を用いて実験した.RLS-DNAの塩基配列を比較解析することにより,おくみどり,べにふうき等の品種の判別が生茶葉と緑茶葉を用いた場合,共に可能であることが認められた.また,中国,ベトナム,ミャンマー,台湾の緑茶についてもRLS-DNAの多型解析により我が国の緑茶と識別可能であることが認められた.今回の実験から,RLS-DNAを指標とした塩基配列の多型解析は,おくみどり,べにふうき品種等の品種を判別するための手法に適用できるものと考える.
  • 村田 慶史, 中村 倫子, 小藤 恭子, 磯部 隆史, 岸 利弘
    2011 年 58 巻 9 号 p. 428-432
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    α-リポ酸(ALA)を用いたキトサンの塩,CS-ALAを調製し,一次胆汁酸あるいは二次胆汁酸の吸着,並びにALA放出挙動を調べた.また,CA-ALAを含有したアルギン酸カルシウムゲルビーズ(Alg-Ca)の調製と経口摂取用の担体としての機能についても検討した.一次胆汁酸であるタウロコール酸の溶液中において,CS-ALAはALAを放出すると同時にその胆汁酸を吸着し,また,二次胆汁酸のタウロデオキシコール酸の場合には,より多くの吸着がみられた.ALA放出と胆汁酸吸着という2つの機能は,CS-ALAを含有したAlg-Caにおいても認められ,すべての素材が安全に経口摂取しうることから,それは大腸癌予防のための有用な食品となる可能性が示唆された.
技術論文
  • 安田(吉野) 庄子, 北本 則行
    2011 年 58 巻 9 号 p. 433-439
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    酒類やパンなどの発酵食品に新しい特徴を付与するため,自然界からのSaccharomyces cerevisiaeの新規分離株が必要とされている.我々は選択増殖培養とrDNA 5.8S-ITS領域のPCR解析を組み合わせた分離方法により,愛知県内のサクラなどの花からS. cerevisiaeの新規取得を試み,6株の分離に成功した.
    6株のS. cerevisiae分離株について糖の発酵性と糖の資化性を調べた.糖の発酵性および糖の資化性プロファイルは5株が同一で,1株のみが異なった.6株のS. cerevisiae分離株の糖の資化性プロファイルはいずれもK7株およびBy株とは異なっていた.また,6株のS. cerevisiae分離株はK7株およびBy株に対してキラー性を示さなかった.
    6株のS. cerevisiae分離株のmtDNA RFLP解析を行った結果,2株間の一致を除いてそれぞれ異なるプロファイルを示した.Ty1 deltaエレメントのPCR解析の結果,6株のS. cerevisiae分離株はすべて異なるプロファイルを示し,K7株およびBy株とも異なっていた.これらの結果から,6株のS. cerevisiae分離株の遺伝的多様性が示された.
  • 岩井 邦久, 小野寺 昭夫, 岩井 佳代, 松江 一
    2011 年 58 巻 9 号 p. 440-445
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    ガマズミ果実の搾汁残渣には高いラジカル消去活性を示すポリフェノールが残存しているが,それらは残渣全体に存在するのではなく,果肉皮に局在していることが明らかとなった.そこで,残渣から果肉皮を物理的かつ簡便に分離する技術を新たに開発し,果肉皮および果肉皮粉末を得ることに成功した.ラジカル消去活性は残渣<果肉皮<果肉皮粉末の順に高まり,この技術が抗酸化成分を含む部位を簡便に分離収集する方法として有益であることを実証した.また,果肉皮には抗酸化成分としてC3Sや5-CQA等が検出され,果肉皮粉末中の濃度は残渣の2.9~21.1倍に増大することを明らかにした.即ち,ガマズミ残渣のラジカル消去活性へのポリフェノールの関与を明らかにするとともに,これらが豊富に含まれる果肉皮の分離収集技術の有用性と,廃棄されていた残渣の抗酸化性素材としての有用性を明らかにした.
  • 原田 陽, 永井 武, 山本 美保
    2011 年 58 巻 9 号 p. 446-450
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    きのこの子実体を原料として,11種類のきのこによるGABA生成能を比較した上で,グルタミン酸を添加するGABA生成法を検討した.きのこの中でもエノキタケのGABA生成能が高く,ブラウン系エノキタケの子実体を原料とした場合20°C 6~8時間の反応により原料の6~7%に相当するGABA生成が可能であった.GABAを増やしたブラウン系統エノキタケを高血圧自然発症ラット(SHR)に強制経口投与した結果,0.9mg/kgのGABAを含むエノキタケの投与により,収縮期に30mmHg程度の降圧作用を示した.正常血圧ラット(WIST)の実験では,血圧に顕著な変化が見られなかった.
研究ノート
  • 老田 茂, 清水 恒
    2011 年 58 巻 9 号 p. 451-453
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    小麦四量体α-AIの一種であるCM16について,エピトープを含む15merペプチドに対する抗ペプチド抗体を作製した.本抗体は,CM16に対して高い特異性を示した.本抗体を用いて,小麦粉とペプシンおよびパンクレアチンの反応液中におけるCM16の分解を,イムノブロッテイングおよび酵素免疫測定法により調べた.その結果,CM16は人工胃液だけでは部分分解に留まったが,さらに人工腸液を作用させたところ,CM16のエピトープを含む部位も分解された.また,単量体および二量体の小麦α-AIも,人工胃液や人工腸液によって同様に分解された.
  • 斉藤 絵里, 岩附 聡, 小出 醇, 矢嶋 瑞夫, 小島 靖
    2011 年 58 巻 9 号 p. 454-459
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    ペポカボ茶種子水抽出物の夜間頻尿改善作用を検討するため,脱脂ペポカボチャ種子粉末をティーバッグに入れ抽出したお茶を用いてヒト試験を行った.その結果,夜間排尿回数が摂取前期間と比較してペポカボ茶摂取1週目から有意に減少した.摂取前期間で平均2.23±0.77回であったのに対し,ペポカボ茶摂取3週目では1.30±0.51回と有意に減少した.また排尿時の排尿スピード,尿切れ,残尿感についても摂取前期間と比較して改善が認められた.さらに,睡眠についても改善が認められた.以上のことから,ペポカボ茶は夜間頻尿改善作用を有し,睡眠改善作用を持つ可能性が示唆された.
    我々のこの研究結果は,種子中の脂溶性成分以外の水抽出物に,排尿障害改善作用があることを明らかとした新しい知見である.
  • 山本 沙織, 中地 伸恵, 浅野 真理子, 鎌田 陽子, 渡辺 敏郎, 高橋 享子
    2011 年 58 巻 9 号 p. 460-463
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    RBL-2H3細胞によるβ-ヘキソサミニダーゼ放出阻害活性が認められたヨモギ熱水抽出物と,同様の方法でヨモギ熱水抽出物をクロロゲン酸エステラーゼで処理したヨモギ酵素分解物を得た.ヨモギ酵素分解物のIC50値は0.447 mg/mlでヨモギIC50値と比較すると脱顆粒抑制活性が7倍強くなった.また,カフェ酸含量はヨモギ酵素分解物の4.65%であった.ヨモギ酵素分解物のHPLC分析で得た1画分にも脱顆粒抑制作用が認められた.HPLC画分を解析した結果,カフェ酸と同定されカフェ酸画分のIC50値23.3 g/mlは,ヨモギ酵素分解物のIC50値(0.447 mg/ml)とカフェ酸含有量(4.65%)から推算される値と一致した.このことより,ヨモギ酵素分解物の主要な脱顆粒抑制作用は,カフェ酸に由来することが示唆された.
速報
技術用語解説
  • 小西出(三上) 一保
    2011 年 58 巻 9 号 p. 470
    発行日: 2011/09/15
    公開日: 2011/10/12
    ジャーナル フリー
    ORAC (Oxygen Radical Absorbance Capacity : 活性酸素吸収能力)法は,米国国立老化研究所のCaoおよび米国農務省(USDA)のPriorらにより開発された抗酸化評価法である.生体成分の酸化反応に類似した反応様式を含む評価系として着目されている.米国では,326品目の果実および野菜を中心とした食品の抗酸化能をORAC法により評価し,USDAのホームページで公開すると共に,ORAC法をAssociation of Official Analytical Chemists(AOAC)に提案し,標準法として世界に普及させる方向にある.また,飲料やサプリメントへのORAC値の表記が実際に進んでいる.
    ORAC法の長所としては,1)生体内の脂質過酸化で発生する脂質ペルオキシラジカルを想定したラジカル発生試薬を使用すること,2) 2つに大別される抗酸化能測定方法の反応様式のうち,HAT (Hydrogen Atom Transfer水素原子供与)機構に基づくラジカル連鎖反応のモデルとなる方法であり,DPPH (1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)法を含むSET (Single Electron Transfer電子供与)機構による評価法に比べ,より生体関連性が高いと考えられていること,3)親水性,親油性どちらのサンプルも分析可能であること,4)血清サンプルをはじめとする生体試料の評価が可能であること,5)水系における生理的pHでの反応であることがあげられる.
    これらの点から,抗酸化成分摂取の生体影響評価を予測する方法として日本における関心も高い.2007年には,抗酸化能評価に関わる多分野の研究者および食品の抗酸化能に関心を寄せる企業が集結し,Antioxidant Unit (AOU)研究会が設立され,「抗酸化能測定法の標準化」および「生体影響を考慮した成分ベースの抗酸化単位の算出方法の確立」を目指した活動が開始されている.その中で,標準法の一つとしてORAC法が選定されており,分析法の改良と標準作業手順書の作成,妥当性確認試験および各種食品の抗酸化能に関するデータベース構築に向けた活動が進行中である.
    ORAC法では,2,2'-azobis (2-amidinopropane) dihydro-chloride (AAPH)から発生するペルオキシルラジカル存在下で,蛍光プローブであるFluorescein(励起波長485 nm, 蛍光波長535 nm付近)が分解され,蛍光強度が減退する過程を経時的に測定する.この反応系に抗酸化物質が共存すると,蛍光プローブに生じる蛍光強度の減退が抑制・遅延されるため,この遅延効果を抗酸化能として評価する.試料共存下での蛍光強度の経時変化曲線の曲線下面積(Area under the curve ; AUC)および試料非存在下(ブランク)でのAUCとの差(net AUC)は試料の抗酸化能に比例するため,標準物質である6-hydroxy-2,5,7,8-tetra-methylchroman-2-carboxylic acid (Trolox)におけるnet AUCに対する相対値として評価し,抗酸化能はTrolox当量(Trolox Equivalent ; TE)で表される.AAPHからのラジカル発生は温度感受性であることから,温度制御が可能な蛍光マイクロプレートリーダーで測定する.また,ORAC法は水溶液中での測定であるため,親油性成分を測定する場合には,ランダムメチル化β-シクロデキストリンを用いて親油性成分を可溶化する.
    これまで筆者は,(社)日本食品科学工学会が受託した,農林水産省総合食料局食品産業企画課の補助事業の一環である「食品機能性評価支援センター事業」に携わり,本事業で当学会により刊行された食品機能性評価マニュアル集を基に食品機能性評価手法の技術研修を担当してきた.平成18~22年度に渡り5年間継続された本事業において,延べ109名の研修生(地域の食品開発に携わっておられる研究者・技術者等)を迎えたが,その内ORAC法の研修受講者は50.5%にのぼった.親水性ORAC法の共同室間試験の成果が報告され,ORAC法への関心は今後更に高まることが予想される.
feedback
Top