日本食品科学工学会誌
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58 巻, 3 号
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総説
  • —青果物糖度分布可視化と選別への応用—
    蔦 瑞樹, 杉山 純一, 相良 泰行
    2011 年 58 巻 3 号 p. 73-80
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    A NIR spectral imaging apparatus was developed to obtain information on spectrally discriminated images and the location of material to be measured. The apparatus consisted mainly of a CCD camera, a liquid crystal tunable filter and a spectral illuminator, which consisted of a xenon lump as well as a grating spectrometer. The sample surface image could be captured at any wavelength from 400nm to 1100nm. To investigate the performance of the apparatus, it was employed in the measurement of sugar content distribution at the surface of a fresh green melon cut in half and in the detection of foreign materials among blueberries. The absorbance at 676nm was found to be highly correlated with the sugar content in fresh green melons. Next, the intensity of each pixel of the images was converted into sugar content. By assigning the sugar content to a linear color scale, the sugar distribution of the melon was visualized. The plant organs could be detected by the second derivative absorbance image at 680nm, which is an absorption band of chlorophyll. The second derivative absorbances for blueberries and plant organs were determined in the image. The positions of pixels judged as plant organs in the detection image were in good agreement with the actual locations where plant organs had been placed. The apparatus demonstrated that plant organs contaminating the raw blueberry materials could be detected using the proposed methodologies.
  • 熊沢 賢二
    2011 年 58 巻 3 号 p. 81-87
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    Japan has a wide variety of commercial beverage products compared to the rest of the world. Tea (green, black, oolong, etc.), coffee, and fruit juice (especially citrus) beverages are the main product groups. For beverages providing a mellow and attractive flavor, aroma is one of the most important factors affecting quality and thereby product value. Generating a product with high quality aroma and good palatability poses significant challenges during product quality improvement. Therefore, to create attractive beverage products, fundamental knowledge of the key aroma constituents (potent and off-flavor odorants), as well as their chemical and sensory behaviors, in beverages has been strongly needed. In this article, our research about potent and off-flavor odorants and their characteristics in teas (Sen-cha, pan-fired green tea, and Ceylon black tea), coffee, and citrus fruit juices, based on the Aroma Extract Dilution Analysis (AEDA) technique, is described.
報文
  • 松藤 寛, 大森 潤一, 後藤 修一, 千野 誠, 和田 悦治, 内田 あゆみ, 深堀 勝謙, 山形 一雄, 櫻井 英敏
    2011 年 58 巻 3 号 p. 88-96
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    我が国におけるゴマ葉の食習慣はほとんどないが,アジアやアフリカではゴマ葉は食用として,あるいは伝統薬・民間薬として利用されている.このゴマ葉はポリフェノールを豊富に含むものの,その成分研究はほとんど行われておらず,不明な点が多い.そこで,ゴマ若葉中の豊富なポリフェノールに着目し,抗酸化性と活性成分について検討した結果,以下の知見を得た.
    (1) 3つのラジカル消去測定(DPPHラジカル消去活性,ABTSラジカル消去活性,スーパーオキシドアニオンラジカル消去活性)により評価したところ,どの測定法においてもゴマ若葉は大麦若葉やケールよりも高い抗酸化性を示し,その活性は桑葉に次ぐものであった.この活性は含有ポリフェノール量に依存した.
    (2) ポリフェノール含量当たりで抗酸化性を評価したところ,どの測定法においてもゴマ若葉と桑葉の活性差は小さくなり,中でもDPPHラジカル消去活性ではゴマ若葉は桑葉よりも強い活性を示したことから,ゴマ若葉には強い抗酸化性を示すポリフェノール成分が含まれると考えられた.
    (3) DPPHポストカラム法を用いて,含有成分並びに活性関与成分を調べたところ,ゴマ若葉中には少なくとも9つのポリフェノール成分が含まれ,うち4つが主要な活性成分であると考えられた.
    (4) 各種スペクトル分析の結果,主要活性成分の一つはフェニルプロパノイド配糖体であるアクテオシドであり,ゴマ若葉乾燥粉末中に1.2%含まれることが判明した.
    アクテオシドは様々な生理機能を有し,種々の薬用植物に存在することが明らかにされているが,豊富に含む植物は希である.本研究により,ゴマ若葉にアクテオシドが豊富に含まれることが判明したことから,今後アクテオシドを指標としたゴマ若葉の有効利用が期待される.
  • 上平 安紘, 足立 憲彦, 池羽田 晶文, 河野 澄夫
    2011 年 58 巻 3 号 p. 97-104
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    食品のグリセミック・インデックス(GI)測定は,被験者の指先から数10回もの採血を必要とするため,被験者に苦痛を与える.そのため,採血を伴わない非侵襲血糖値測定法が強く求められている.本研究では,短波長領域を用いた近赤外分光法により非侵襲血糖値測定装置を開発し,GI測定への応用について検討した.
    非侵襲血糖値測定装置はインタラクタンス方式の既存装置を基に開発し,測定部位の温度をコントロールできるよう,スペクトル測定部の内側に温度調節装置に接続したラバーヒーターを取り付けた.測定部位のずれ,接触圧力の変化,測定温度の変化によるスペクトル変動を検証し,変動の小さい安定したスペクトルの測定方法を明らかにした.
    GI測定における基準食の負荷試験において,血糖値と同時に被験者の手の平の近赤外短波長領域の拡散反射スペクトル(700~1050nm)を測定し,partial least square (PLS)回帰を適用して被験者専用の血糖値検量モデルを作成した結果,クロス・バリデーションによるバイアスを補正した予測標準誤差(SECV)は9.1mg/dLであった.
    3品の検査食(米飯,かまぼこ,ヨーグルト)の負荷試験において,測定した近赤外スペクトルに検量モデルを適用して得られた血糖値からGIを算出した結果,米飯70(実測値80),かまぼこ57 (49)およびヨーグルト45 (38)であった.
    以上の結果から,短波長領域を用いた近赤外分光法により開発した非侵襲血糖値測定装置はGI測定に応用可能であることが示唆された.
  • 前田 剛希, 伊波 聡, 津志田 藤二郎
    2011 年 58 巻 3 号 p. 105-112
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    (1)80%エタノールを溶媒に用いたASE抽出法でカロテノイドとポリフェノールを同時に効率的に抽出する事が可能であり,分析作業を簡素化できた.
    (2) ニシヨモギ,ボタンボウフウ,ホソバワダン,スイゼンジナはβ-カロテンを主としたカロテノイドが豊富な野菜であった.特にボタンボウフウはβ-カロテンだけでなくルテインやビタミンC,ポリフェノールも供試品目中で高い値を示しており,多様な抗酸化成分を豊富に含む野菜である事が明らかになった.
  • 大川 勝正, 結城 茜, 長澤 正, 杉山 直人
    2011 年 58 巻 3 号 p. 113-120
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    近年,高齢者における誤嚥性肺炎の発症者数が増加している.誤嚥性肺炎の予防には,口腔細菌叢の改善が重要と考えられている.例えば,選択圧により口腔の細菌の割合を増加させたりする.そこで,in vitroで種々の食品成分が口腔細菌や誤嚥性肺炎の起因菌などの増殖に及ぼす影響を調べた.15μg/mlの(−)-Epigallocatechin Gallate (EGCg)液は,口腔に常在の細菌(S. mitis, S. oralis, S. salivarius)の増殖率をおよそ50%抑制した.しかし,そのEGCg液はS. pneumoniae, S. sanguinis, S. mutans, E. faecium, P. aeruginosaおよびE. coliなどの増殖は抑制できなかった.10mg/mlのXylitol液は,レンサ球菌の増殖率を50%前後抑制した.しかし,グラム陰性菌種の増殖率は,抑制できなかった.5mg/mlのCaffeine液は,口腔に常在の細菌の増殖率をおよそ50%抑制した.この時,誤嚥性肺炎の起因菌の増殖率は,口腔に常在の細菌よりもより強く抑制された.
  • 鶴間 佳美, 丸山 広恵, 荒木 陽子
    2011 年 58 巻 3 号 p. 121-126
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,ローヤルゼリー中の主要タンパク質であるアピシンを対象としてヒト由来皮膚線維芽細胞株に対する増殖促進作用およびコラーゲン産生促進作用を定量的に検討した.さらにマウス由来骨芽細胞様細胞株に対する分化促進作用を定性的もしくは定量的に検討し,以下の知見を得た.
    (1) アピシンはヒト由来皮膚線維芽細胞株NB1RGBの増殖を促進し,さらにコラーゲン産生量を促進する傾向を示した.
    (2) アピシンはマウス由来骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1に対して,分化誘導剤と併用して添加することにより,分化の指標であるカルシウム沈着ならびにヒドロキシアパタイトの産生を促進した.
研究ノート
  • 宮本 敬久, 大石 彬靖, 河岸 丈太郎, 石橋 明子, 木下 義将, 目加田 遥子, 本城 賢一
    2011 年 58 巻 3 号 p. 127-130
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    S. Enteritidis IFO 3313, P. aeruginosa NBRC 13275, P. fluorescens No. 3およびL. monocytogenes No. 185に対する13種の市販台所合成洗剤の付着阻害効果をクリスタルバイオレット法で調べた.試験した全ての洗剤で,実際の使用濃度以下である0.025%(W/V)でS. Enteritidis IFO 3313の付着は50%以上阻害されたが, P. aeruginosa NBRC 13275では実際の使用濃度では50%以上の阻害は認められなかった.同じPseudomonas属細菌でもP. fluorescens No. 3に対しては2種の洗剤の付着阻害効果は高く,0.0025%(W/V)と実際の使用濃度の10分の1以下の濃度でも50%以上の付着を阻害した.P. aeruginosa NBRC 13275以外の3種の細菌に対して実際の使用濃度で完全に付着阻害効果を示した洗剤は4種であった.成分表示から直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を含み,アルキルアミンオキシドを含まない製剤の付着阻害効果が高いことが示唆された.
  • 千原 猛, 新保 寛, 金児 孝晃, 別府 秀彦, 戸松 亜希子, 東口 高志, 園田 茂
    2011 年 58 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    ニンニクの新たな処理法である高温高圧処理したニンニク(HTPG)を用い,1,2-ジメチルヒドラジン誘発ラット大腸前がん病変形成に対するポストイニシエーション期投与の影響を検討した.その結果,HTPGの3%混餌群では大腸前がん病変であるムチン枯渇巣(MDF)形成を有意に抑制した.また,血液学的および血漿生化学的所見ではHTPG投与による影響はほとんどみられなかった.我々はこれまでにHTPGがイニシエーション期投与によってもMDF形成を有意に抑制することや抗酸化能が増強することを報告しており,これらの結果と考え合わせるHTPGは健康食品素材として有用かもしれない.
技術用語解説
  • 楠本 憲一
    2011 年 58 巻 3 号 p. 136
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/04/21
    ジャーナル フリー
    メタゲノムとは,ある生物の遺伝子全体を意味する「ゲノム(genome)」に,さらに「超越」を意味するメタ(meta-)を融合した造語であり,微生物群集のゲノムを培養に依存することなく網羅的に解析することをメタゲノム解析と呼ぶ.この解析技術の特徴は,試料中の微生物のDNAを混合物として抽出し,このDNA集合体の塩基配列を解読することである.試料中に含まれる微生物(培養法の不明なものを含む)の種類やその存在比率を推定することを目的として実施される.また,これまで知見のない新たな酵素遺伝子の候補を見出すことが可能である.
    塩基配列を自動的に解読するDNAシークエンサーの開発から20年以上を経て,解読能力が大幅に向上した次世代高速シークエンサーが開発され,ゲノム解析は新たな局面を迎えた.その超高速解読能力を利用し,膨大な遺伝子配列情報が蓄積されつつある.メタゲノム解析は,現在,次世代シークエンサーを利用して行われている.
    2000年,E. DeLongを中心とする研究グループが,試料中に存在する数十キロ塩基対の長鎖DNAをバクテリア人工染色体ベクターに連結し,これを網羅的に配列解析することで海水中の菌叢解析を実施した1).彼らの研究が実質的なメタゲノム解析の端緒であった.次いで,2004年,J. Venterらはサルガッソ海の海洋細菌群集のメタゲノム解析を行い,合計で1兆塩基対の非重複塩基配列を取得し,それらの解析結果から,少なくとも1800種の細菌種の存在と,148種の未知細菌種の存在を推定した.また,12億種類の未知遺伝子を同定し,Science誌に発表した2).彼らの研究成果から,彼らのようなアプローチが環境中の微生物群集の解析や,新規有用遺伝子の発見につながることが広く認識されるようになった.その後,上述した次世代高速シークエンサーの開発に伴い,239件(平成22年8月現在)のメタゲノムデータが蓄積されている.現在までに公開されたメタゲノムデータは,Genomes Online Database (http : //www.genomesonline.org/cgi-bin/GOLD/bin/gold.cgi)で公表されている.主として海水,ヒト腸内,土壌,淡水,温泉環境中の微生物群集が解析されている.
    このメタゲノム解析は,次世代シークエンサーと共にバイオインフォマティクスの進展が必須であった.バイオインフォマティクスとは,生物学に関わる情報解析学の総称である.通常のゲノム解析は,1種類の生物の網羅的遺伝子解析であり,得られる遺伝子情報は全てその生物に由来した情報である.一方,メタゲノム解析では,複数の生物種の混合した配列情報が得られる.また,存在比の低い種の情報が得られにくい等,試料に含まれる全ての生物種のDNA情報が取得できるとは言えない.そこで,これまでのゲノム解析と異なる概念が必要となる.ゲノム解析の流れとしては,断片化した個々のDNAの配列からなる生データ取得,これらの中から末端配列が共通している配列同士を順次連結していくアセンブリー,その配列の中から遺伝子をコードする領域を見つけ出す遺伝子予測となる.メタゲノム解析では,遺伝子予測をアセンブリーの前に行う場合と後に行う場合があり,研究目的により使い分けられている.また,メタゲノム解析に特化した遺伝子予測プログラムが開発されている.また,予測した遺伝子が由来する生物種を推定する手法も総説で解説される等,一般化されてきている.注意すべきは,次世代シークエンサーもメーカーと機種によりその塩基配列解読原理が異なり,解読鎖長や精度等が異なるため,目的に応じた機種を選択する必要がある.
    メタゲノム解析のデータは,次世代シークエンサーの機能改良に伴い,今後急速に増加すると期待される.今後の応用分野としては,エネルギー分野や環境浄化で力を発揮する新規遺伝子資源の開拓3),栄養学・医学分野からのヒトの腸内細菌叢解明4),難培養微生物を含む環境微生物群集の生態解明等であり,基礎研究成果としてメタゲノム解析に関する学術論文数が多数蓄積している.メタゲノムデータの蓄積と,バイオインフォマティクスの発展,他分野との研究連携によるメタゲノム解析技術の発展が,人類の健康や環境,エネルギー問題等,我々社会の課題解決につながることが期待される.
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