日本食品科学工学会誌
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53 巻, 5 号
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総説
報文
  • 田中 眞人, 田口 佳成, 島 知恵子
    2006 年 53 巻 5 号 p. 248-254
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    逆相複合エマルション系を利用した液中乾燥法により,水溶性のグルタミンをツェインによりカプセル化することを試み,以下のような結果を得た.
    (1)本実験で採用したマイクロカプセル調製法により,グルタミン包含ツェインマイクロカプセルを調製することが可能であった.
    (2)ツェインに各種脂肪酸を添加することにより,徐放性や水膨潤性を変化させることが可能であった.
    (3)脂肪酸を添加することにより,芯物質の含有率を著しく向上させることができた.
  • 岩崎 瞳, 田口 佳成, 田中 眞人
    2006 年 53 巻 5 号 p. 255-260
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    可食性疎水材料である脂肪酸類を用いて,鉄分補給用機能性素材ヘム鉄粒子のマイクロカプセル化を溶融分散冷却法により試み,以下のような結果を得た.
    (1)マイクロカプセルの微粒化には,(S/O)滴調製時攪拌速度と分散安定剤としてのCSの添加が大きく寄与した.
    (2)分散安定剤種はマイクロカプセル構造に影響を及ぼし,MC添加では多核型,CS添加では単核型のマイクロカプセル構造となった.
    (3)マイクロカプセル化効率及び含有率は,CS添加の場合で,どの脂肪酸種の場合も良好となった.
    (4)マイクロカプセル化によって黒色遮蔽性は向上したが,白色度を保つためには含有率に限界値があった.
    (5)マイクロカプセル化によって耐水性は著しく向上した.
  • 喜多 記子, 中津川 かおり, 植草 貴英, 田代 直子, HA Tran thi, 長尾 慶子
    2006 年 53 巻 5 号 p. 261-267
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    ジャポニカ米を主原料とした米粉麺の調製法の確立と,嗜好的に好まれるジャポニカ種米粉麺のテクスチャーの改良を目的に,副材料の添加を検討した結果,以下のような知見が得られた.
    (1)DSC測定,顕微鏡観察および流動特性測定より,ジャポニカ種の糊化温度はインディカ種よりも低く,高温域で澱粉の膨潤,崩壊によってゾルの粘性が増した.
    (2)インディカ種は米粉液を75℃,ジャポニカ種は同65℃まで加熱することで,麺の調製を可能にした.
    (3)ジャポニカ種加熱麺はテクスチャー及び力学試験結果より付着性が高く,軟らかいため,予備実験として行った官能評価の結果からもインディカ米の麺と比較して低い評価であった.
    (4)ジャポニカ麺のテクスチャー改良のため,タピオカ澱粉を添加した麺は,硬さ,付着性が改良され,官能評価では,ジャポニカ米のみの麺よりも高い評価を得た.
    (5)ジャポニカ米に豆乳を添加した麺は,力学試験や官能評価では有意な差は認められなかったが,精白米の制限アミノ酸(リシン)の補足効果が得られるため,栄養面と共に食味,食感などの品質の改良が今後の課題となる.
  • 渡辺 敏郎, 井上 美保, 宇野 多津子, Mazumder Tapan Kumar, 永井 史郎, 辻 啓介
    2006 年 53 巻 5 号 p. 268-274
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    コレステロールとコール酸を負荷した飼料にメシマコブ菌糸体あるいは子実体を混合して21日間,ICRマウスに摂取させたところ菌糸体および子実体ともに胆石の形成抑制効果を示した.胆嚢中のTC/BAも対照群に比べて菌糸体および子実体摂取群は有意に低い値を示した.飼育期間を延ばすと胆石形成抑制能は悪くなり,35日間の試験では,いずれの群も胆石形成抑制効果を示さなかった.しかし,胆嚢中のTC/BAはメシマコブ菌糸体を摂取することで低下傾向にあり,菌糸体に含まれる量が多いポリフェノールが胆石形成抑制に関する有効成分であることが示唆された.そこで,メシマコブ菌糸体を熱水抽出画分,メタノール抽出画分,残渣画分に分け,それぞれについてコレステロール胆石形成抑制効果を調べたところ熱水抽出画分に強い効果が確認された.
    以上のことからメシマコブにはコレステロール胆石形成を抑制し,その有効成分は熱水抽出画分に存在することが明らかとなった.
  • 坂ノ下 典正, 桜井 孝治, 塚田 陽康, 鵜沢 昌好, 柳沢 幸江
    2006 年 53 巻 5 号 p. 275-280
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    義歯用アクリルレジン製プランジャーを装着した等速直線運動型のレオメーターを用いて,水分,温度,咀嚼速度,および咬合持続時間に関して咀嚼時の口腔内条件を考慮してチューインガムの付着性測定を行った.測定条件は,水条件下,温度30℃,プランジャー移動速度16mm/sとした.チューインガムにプランジャーを圧着後0.1sのホールド時間を設けた条件の測定において,ホールド時間を設けない測定条件よりも有意に付着性が増大した.チューインガムの付着性評価において,プランジャーとの圧着保持時間は測定値に大きな影響を及ぼすことが示唆された.
    チューインガム試料に高速で歪みを与えた場合,圧着開始直後にマイナスの力が観測され,その後プラスに力の回復が見られたが,これはチューインガムの塑性的な流れと,その後に起こる弾性的な回復によるものであると考えられる.
  • 吉川 修司, 田中 彰, 錦織 孝史, 太田 智樹
    2006 年 53 巻 5 号 p. 281-286
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    シロサケ(O. keta)を素材として,大麦麹と耐塩性微生物(Z. rouxii, C. versatilisおよびT. halophilus)を添加した魚醤油を開発し,以下の結果を得た.
    (1)大麦麹と耐塩性微生物スターターの添加によって,発酵当初(6日間)で諸味の急激なpHの低下がみられた.
    (2)製品にはエタノールが含まれており,添加した酵母によるアルコール発酵が認められた.
    (3)呈味性の有機酸は乳酸と酢酸およびピログルタミン酸であったが,大豆濃口醤油やナンプラよりもそれらの含有量が低かった.
    (4)遊離アミノ酸はナンプラおよび大豆濃口醤油に比べ,アスパラギン酸,グリシン,リジンの含量が多く,ナンプラと大豆濃口醤油にはないアンセリンが含まれていた.
    (5)官能評価では,開発した製品は魚臭さがナンプラに比べて少なく,醤油様の香りが付与されていた.
技術論文
  • 鈴木 啓太郎, 岡留 博司, 澄子 中村, 大坪 研一
    2006 年 53 巻 5 号 p. 287-295
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    新形質米および比較米の理化学特性を評価した.
    (1)アミロース含量,糊化特性,米飯物性,炊飯食味の評価から低アミロース米,高アミロース米,普通米および糯米等の各種新形質米の品質を特徴づけることができた.
    (2)3年間の試料についての各測定項目の評価結果では大きな産年変動は見られず,測定値はそれぞれの品種・系統の品質を示しているものと考えられた.
    (3)味センサーにより得られる情報を解析することにより,食味に影響する米飯に含まれる呈味成分についての評価に応用できる可能性が示唆された.
    (4)各種の物理化学的測定値を変数とする主成分分析により,試料米の特徴を明確にできる可能性が示された.
  • 鈴木 啓太郎, 岡留 博司, 中村 澄子, 大坪 研一
    2006 年 53 巻 5 号 p. 296-304
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    茨城県産米「ゆめひたち」の理化学特性を評価した.また,低アミロース米のブレンドによる食味特性への影響を評価し,以下の結果を得た.
    (1)アミロース含量,タンパク質含量,白度,糊化粘度特性,米飯物性,炊飯食味推定値,味度値,味センサーによる呈味成分の評価から,「ゆめひたち」は「コシヒカリ」より僅かに劣るものの,「キヌヒカリ」等と同等の良食味品種として有望であると考えられた.
    (2)「コシヒカリ」と「ゆめひたち」のブレンドは,ブレンド適性が高いとされる「米A」とのブレンドと比較して,糊化特性値のブレークダウンが高く,コンシステンシーが低く,飯の味度値が同等であった.米飯物性のバランス度(A3/A1)がやや低かったが,結果を総合すると,「米A」と同等にブレンド適性が良いと考えられた.
    (3)「ゆめひたち」に低アミロース米とブレンドした場合,米飯の硬さH1が軟らかくなり,バランス度(-H1/H1)が高くなった.炊飯食味計および味度メーターによる炊飯米の食味評価値の向上が認められた.また,糊化粘度特性試験から米飯の老化抑制効果があることが示された.
研究ノート
  • 大川 勝正, 望月 一男, 杉本 芳邦, 鈴木 敏博, 橋詰 昌幸, 喜多川 知子, 松本 透, 横越 英彦
    2006 年 53 巻 5 号 p. 305-307
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    カツオ卵巣から抽出した油脂は,リン脂質と結合したDHAを多く含む.我々は,ウィスター系雄ラットを用いて,このカツオ卵巣油の抗ストレス性について検討した.ラットは,15日間毎日カツオ卵巣油を毎日摂取させた.水浸拘束ストレス(27℃,7時間)を負荷したところ,カツオ卵巣油を摂取させたラットの胃出血性損傷の発症は,コントロールと比べて抑制されていた.一般に,コルチコステロンの過剰分泌は,ストレスによる胃の出血性損傷を発症させる要因の一つと考えられている.しかしながら,カツオ卵巣油を摂取させたラットの血清中コルチコステロン濃度は,コントロールのラットと変わらなかった.
  • 野口 聡裕, 山本 愛二郎
    2006 年 53 巻 5 号 p. 308-311
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    ダリア球根には水溶性食物繊維イヌリンが含まれていることから,廃棄球根の有効利用が望まれている.一方,ダリア球根による食中毒事件が1967年に1件だけ群馬県において発生し,動物実験により特殊な自律神経毒アトロピンを含有していたことが報告されている.本研究ではダリア球根の食材としての安全性を確認するために,ダリア球根およびイヌリン調製過程での添加アトロピンの挙動を調べた.その結果,ダリア球根には水溶性食物繊維イヌリンが豊富である.使用した宝塚佐曽利地区産の32種のダリア球根や10種の花びらと葉にはアトロピンの含有は認められなかった.また,ダリア球根に添加されたアトロピンはイヌリンの精製初期段階において除去された.
    以上の知見から精製ダリアイヌリンやダリアの球根の食品への利用は可能であろうと考察した.しかし宝塚以外の産地のものや生育環境の違うものについては確認していないので今後の検討課題としたい.
  • 高橋 清孝, 中納 憲一, 水野 礼, 岩附 慧二
    2006 年 53 巻 5 号 p. 312-315
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いて溶融中のチーズの粘度を測定した.RVAの測定により得られた溶融開始粘度(MSV)と安定時粘度(SV)は,チーズの熟成期間が延びるに従って減少した.MSVとSVの値は,チーズの種類に関わらず水溶性窒素濃度に相関があった.けれども,それらはCa量およびpHには相関がなかった.これらの結果より,RVAの測定により得られたMSVとSVは,プロセスチーズ原料用のチーズの特徴を評価する指標として利用できることが示唆された.
技術用語解説
  • 三宅 一昌
    2006 年 53 巻 5 号 p. 316
    発行日: 2006/05/15
    公開日: 2007/05/15
    ジャーナル フリー
    ピロリ菌は,一端または両端に数本の鞭毛を有する,約4μm長のらせん状をしたグラム陰性桿菌である.胃粘膜に感染するこの細菌は,1983年オーストラリアの病理学者Warrenと内科医Marshallにより発見され,1984年6月,Lancetに報告された.当初,Campylobacter pyloridisと呼ばれていたがCampylobacterとは異なった細菌であることがわかり最終的にHelicobacter pylori(以下ピロリ菌)と命名された.
    胃の中に細菌が存在していることは約100年前より報告されていたが,ほとんど注目されなかった.たとえ胃の中にどんな細菌が存在したとしても,胃酸のため強い酸性状態にある細菌が病原菌として疾患と関わるとは到底考えられなかった.しかし,この菌はヒトの胃粘膜に持続的に感染し,好中球浸潤を伴う組織学的な胃炎を惹起するとともに,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃癌および胃の低悪性度リンパ腫であるMALTリンパ腫の発生にも関与していることが判明した.さらにピロリ菌の除菌が,潰瘍の再発を著明に抑制することや,胃癌の予防につながる可能性があること,MALTリンパ腫の一部を寛解へ導くことも示されてきた.そして,これらの膨大な知見をもたらすこととなった,常識を覆す発見をしたWarrenとMarshallに昨年10月,ノーベル医学・生理学賞が授与されることが決定した.
    感染源は明らかではないが,飲み水や食べ物を介して経口感染すると言われている.40歳以上の約7割の人がピロリ菌感染症に罹患しており,とくに50歳以上の方たちは戦後の衛生状態が悪い時代に生まれ育ったため,高い感染率を示していると考えられている.罹患率が高いことが,日本人に胃炎,胃潰瘍および胃癌など胃疾患が多い理由と考えられる.しかし近年,衛生状態の改善とともに若年者での感染率は先進国とほぼ同等のレベルまで減少している.以下,ピロリ菌と病気の関係について一部概説する.
    胃 炎
    免疫応答が未成熟な幼少期の胃粘膜にピロリ菌感染が成立するとほぼ100%の人に好中球やリンパ球浸潤をともなう慢性胃炎をもたらす.自覚症状は多くの場合ほとんど無く,基本的には生涯胃炎が継続する.ただし,慢性胃炎による粘膜の荒廃が進行すると菌が生育しうる環境が維持できず自然消失することがある.また,成人におけるピロリ菌初感染では免疫が強く反応し急性胃粘膜病変が発症するとともに,菌は排除され慢性胃炎は成立しにくい.
    胃潰瘍,十二指腸潰瘍
    ピロリ菌陽性者は胃潰瘍,十二指腸潰瘍を発生する頻度が高く,陽性者の2~5%に潰瘍がみられる.潰瘍患者では胃潰瘍で約75%,十二指腸潰瘍では95%にピロリ菌が陽性と言われている.潰瘍のほとんどは酸分泌抑制剤を中心とした薬物治療で一旦治癒するが,ピロリ菌が陽性の場合は高率で再発をおこします.そのためこれまでの潰瘍治療は維持療法が必要と考えられていたが,ピロリ菌の発見以降,除菌療法が胃潰瘍,十二指腸潰瘍の再発を抑えることが明らかとなり,潰瘍再発予防には除菌治療が薦められている.
    胃がん
    疫学的な研究から,胃癌の発生とヘリコバクター・ピロリ感染の間に深い関連があることが示唆され,ピロリ菌陽性者は陰性者の6~22倍の頻度でがんを発症すると言われている.ピロリ菌陽性者のうち胃癌が発症するのは年間0.15%以下であるが,胃癌患者からみた場合90%以上の人がピロリ菌陽性である.1994年WHOはピロリ菌が確実な発癌因子であることを認定した.最近の臨床的ないしは主にスナネズミを用いた動物モデルによる研究から,ピロリ菌感染による慢性の組織学的胃炎を背景として胃癌が発生することが明らかとなり,陽性者の中でも高度な胃粘膜萎縮や胃体部胃炎を有する症例に,胃癌発生のリスクが高いことが明らかとなっている.さらに,ピロリ菌の除菌による胃粘膜の炎症の改善が,消化性潰瘍の再発予防だけでなく,胃癌予防の効果も発揮する可能性かあることが期待されている.しかし,臨床的なエビデンスとしては不十分であり,十分なコンセンサスは得られていない.今後,胃癌の予防を目的としたピロリ菌の除菌治療が一般的に認知され保険適用されるには,さらに大規模で長期観察した研究が必要と思われる.
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