日本食品科学工学会誌
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56 巻, 1 号
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総説
報文
  • 竹中 哲夫, 村山 崇志, 竹中 陽子
    2009 年 56 巻 1 号 p. 6-13
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    味噌,醤油および納豆の製造時に排出する大豆煮汁を機能性食品素材として利用することを目的として,大豆煮汁中のアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害物質を分離し,原料大豆から大豆煮汁に至る大豆蒸煮工程におけるACE阻害活性とACE阻害物質の変化について調べた.大豆煮汁からイオン交換クロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーを用いてニンヒドリン反応を示すACE阻害物質を分離した.ACE阻害物質は赤外吸収スペクトル,核磁気共鳴スペクトル,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計解析より,ニコチアナミンであると同定した.大豆煮汁(乾物)100gより精製ニコチアナミン37mgを得た.
    大豆の浸漬・蒸煮工程における各生大豆,浸漬大豆,蒸煮大豆と蒸煮大豆より溶出する大豆煮汁のACE阻害活性とニコチアナミン含量の変化を調べたところ,生大豆と浸漬大豆ではほぼ同程度のACE阻害活性を示した.さらに蒸煮大豆ではACE阻害活性が生大豆の30%,大豆煮汁では10%に低下し,ニコチアナミン含量も同様の挙動を示した.
    大豆煮汁には脂質や大豆由来の水溶性タンパク質等の夾雑物質が少ないために,大豆煮汁からのニコチアナミンの分離を容易にしている.よって大豆煮汁はニコチアナミンの供給源として適する材料である.
  • 大山 高裕, 阿久津 智美, 伊藤 和子, 渡邊 恒夫, 神山 かおる
    2009 年 56 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    若年者と高齢者の漬物咀嚼の違いについて,咀嚼筋筋電位計測により検討を行った.その結果,若年者と高齢者では咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期,筋電位振幅,筋活動量,咀嚼音で違いが認められ,両者の咀嚼に違いがみられることが示唆された.また,各漬物試料の咀嚼特性値を比較し,漬物の咀嚼特性の違いを確認した.中でもたくあんは特に咀嚼負担のかかる漬物であることがわかった.筋活動量の経時的な変化に関する検討結果からは,若年者では初期から後期にかけて咀嚼の変化が起きていたが,高齢者では若年者ほどの筋活動量の急激な変化はみられず,若年者と高齢者で咀嚼過程に違いがあることが示唆された.また,咀嚼音の経時変化は筋活動量の変化と近い変化を示し,若年者と高齢者の咀嚼活動の違いを表していると考えられた.
  • 大富 あき子, 田島 真理子
    2009 年 56 巻 1 号 p. 20-30
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    めんつゆの味に関して,SD法を用いて食味特性(プロフィール)と品質(分析値)との関連を調べ,めんつゆの材料が味にどのように影響を与えているのかを明らかにすることを目的に,材料の種類や割合を変えた16種のつゆを調製し,SD法による食味特性評定および一般成分分析を行った.重回帰分析,因子分析を行い,次の結果を得た.
    (1) 砂糖を少量増したつゆ,鰹節をIMPに等量置換したつゆはおいしさを保っており,鰹節や昆布を増量したつゆ,MSGを添加したつゆはだしの味やうま味は増強されたものの,多すぎると必ずしもおいしいとの評価にはつながらなかった.昆布をMSGに置換したつゆは,コントロールと有意な差がなく昆布の代用としておいしさを保てることがわかった.
    (2) 一般成分分析値と食味特性値との重回帰分析結果より,グルタミン酸濃度はつゆの特性にかなり大きな影響を与えていたが,食味特性としての塩味には特徴があったにもかかわらず,食塩濃度分析値はつゆの特性に対して影響は少なかった.また,全糖濃度も甘味,かど,ひきしまった味以外にはあまり影響を与えてはいなかった.
    (3) 因子分析の結果,「複雑な濃厚さ」「つゆのシャープさ」「だしとうま味」の3つの特性が認められた.鰹節を増量したつゆ,濃口醤油に置換したそれぞれのつゆは特にこれら3つの特性が強く認められたので,この両者を適量使用することにより,複雑な濃厚さ,シャープさ,だしとうま味をつゆに付与できることがわかった.
    以上より,つゆの材料としてMSGを付与し,鰹の天然だし,濃口醤油を適量用いることは,特に2倍,3倍に希釈して用いる市販の濃縮めんつゆの複雑な味に大きく寄与することがわかった.
  • 阿賀 美穂, 新井 紀恵, 大橋 英美子, 有安 利夫, 新井 成之, 岩城 完三, 太田 恒孝, 福田 恵温
    2009 年 56 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    わが国において,脂肪細胞の機能不全を起因の1つとする生活習慣病の増加に対してその予防は急務であり,食品因子からの予防が期待されている.本研究は,プロポリスエキスを対象として培養脂肪細胞分化のモデルである3T3-L1前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化調節作用およびTNF-αによる脂肪細胞分化阻害とアディポネクチン産生低下を解除する作用について,形態的もしくは定量的に検討した.その結果,インスリン存在下もしくはTNF-αによる脂肪細胞への分化阻害下において,プロポリスエキスは,濃度依存的に前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進した.さらに,TNF-αによるアディポネクチン産生低下も有意に抑制することが明らかになった.また,プロポリスエキスにはPPAR-γに対するアゴニスト様物質が含まれていることも示されたことより,プロポリスエキスには,インスリン抵抗性糖尿病を改善する可能性があることが示唆された.
  • 吉岡 邦明, 関根 正裕, 鈴木 理博, 乙部 和紀
    2009 年 56 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    水分量,蒸煮温度,保持時間がそれぞれ異なる蒸煮大豆及び納豆を調製し,動的粘弾性,静的弾性係数,および「硬さ」の官能評価を指標として,調製条件による物性変化を調べた. 同時に,物性変化の主因と考えられる細胞壁性状の変化に関わる指標として,蒸煮大豆から溶出するホウ素の定量を行い,以下の知見を得た.
    (1) 蒸煮大豆および納豆の弾性係数Eと貯蔵弾性率Eprime;は,飽和水分状態の大豆では品種にかかわらず,蒸煮温度の上昇に対して有意に低下した.
    (2) 納豆の弾性係数Eまたは貯蔵弾性率Eprime;と「硬さ」の官能評価値の間には,ぞれぞれ-0.75と-0.67の負の相関が認められた.また,納豆が「硬い」と感じさせない弾性係数Eと貯蔵弾性率Eprime;の範囲は,それぞれ200kPaと800kPa以下であった.
    (3) 水分量が80%以上,保持時間が15min以上,蒸煮温度121℃以上の条件で蒸煮調製することにより,「硬い」と感じさせない納豆を調製できることが示された.
    (4) 水分量と蒸煮温度の上昇に伴って大豆浸出液中でのホウ素量の増加が認められ,品種によらず,弾性係数Eが300kPa以下の蒸煮大豆では,ホウ素量と弾性係数Eとの間に負の相関が認められた.
研究ノート
技術用語解説
  • 井上 孝司
    2009 年 56 巻 1 号 p. 56
    発行日: 2009/01/15
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    1. 交流高電界処理の特徴
    交流高電界処理とは,イギリスの物理学者ジェームズ・プレスコット・ジュールが見出したジュールの法則(Joule's law)によるジュール熱を利用した加熱技術のひとつである.ジュール熱Qとは,電気抵抗R[Ω] をもつ物体に,電流 I[A]の2乗をt秒間[s]流したときに発生する熱量として下記に示す(1)式で表すことができる.
    (1)式 Q=R×I2×t
    さらに,オームの法則E[V]=R×Iを代入することで,(2)式に示すような抵抗に印加する電圧E[V]や電力に比例して加熱温度を変化できることがわかる.
    (2)式 Q=E2⁄R×t
    ジュール熱を利用した技術は,内部加熱方式として通電加熱やオーミック加熱と呼ばれ,英語ではelectrical resistance heating,Joule heating,electro-heatingと呼ばれており,古くから電気調理器具に使われていた技術である.今までは,商用周波数(50Hzまたは60Hz)が用いられており,使用する電極材料の腐食が問題となっていた.しかし,最近では,周波数を5kHz以上に高くすることで,電極界面の電気分解が抑制され,工業的に幅広く応用が進みつつある技術である.均一かつ迅速な加熱が可能である通電加熱は,工業的にパン粉やかまぼこ業界などで既に実用化されている.
    一般的な内部加熱として用いられている通電加熱と比べて交流高電界処理の違いは,加熱時間(電極通過時間)が1s以内と極めて短く,電極間に印加する電圧として数100V/cm以上の印加電界強度であることがあげられる.
    一般的な食品を処理した場合では,加熱される材料が500℃/s以上の速度で昇温されることになり,外部加熱方式と比べると昇温時における熱履歴を低く抑えられるというメリットもある.
    2. 殺菌への応用
    微生物の細胞膜に大きな電界を印加した場合に細胞膜表面に誘導膜電位が発生し,細胞膜を挟んで引っ張り合うクーロン力が作用する.このクーロン力に抗えなくなると,電気穿孔とよばれる細胞膜に穴が開く現象が認められている1)2).交流高電界処理は,上記の電気機械的な細胞膜の損傷と加熱による相乗効果により,加熱のみの処理と比べてより少ない熱履歴で微生物を殺菌できる.耐熱性を有する微生物胞子での殺菌効果も認められている3)
    食品の殺菌処理として交流高電界技術を使用した結果,同様な殺菌効果を得ることが可能な外部加熱処理品と比べて食品中に含まれる有効成分や香気成分の熱的な分解や変化が抑制されることも認められている.
    3. 酵素失活への応用
    食品の品質の安定性向上のひとつとして,食品自体に含まれる酵素の不活化をあげることができる.加工食品中に酵素活性が残存すると,テクスチャーや色調の変化および有効成分などの分解が生じるが,交流高電界処理の非常に短い昇温時間が酵素の不活化に効果的に寄与することが認められている4)今後,食品の実ラインにあった装置のスケールアップが進み,交流高電界処理が新たな安全で付加価値の高い食品の開発に寄与することが期待される.
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