日本食品科学工学会誌
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57 巻, 10 号
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報文
  • 新井 陽一, 白幡 登, 深澤 純一, 土田 真由子, 中島 義信, 中浦 嘉子, 堀端 哲也, 井ノ内 直良
    2010 年 57 巻 10 号 p. 401-407
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    国内で栽培された11品種の精白米を対象に,in vitroの炊飯米消化性試験および胚乳澱粉の構造特性試験を行った.in vitro消化性試験は,炊飯米を消化酵素で処理した後に遊離するグルコース量を分析することで試験した.胚乳澱粉の構造特性は,見かけのアミロース含量とFr. A含量(DP6-12)の試験により評価した.糖質米であるあゆのひかりは,低・中・高アミロース種を含む11品種の試験米の中で最も消化率が低かった.あゆのひかりの胚乳澱粉の見かけのアミロース含量およびFr. A含量(DP6-12)は,それぞれ21.8%,34.6%であった.あゆのひかりの炊飯米の消化抑制効果の要因を胚乳澱粉の構造特性から説明することは難しかった.さらにあゆのひかりの特徴としては,炊飯米での消化性試験後にも米粒の原形を保持することを見出した.この消化抑制効果は粉砕した試料を用いると無くなることから,あゆのひかりは難消化性構造を持つと考えられた.また,この難消化性構造には胚乳細胞壁が関与していることが示唆された.
  • 上野 知子, 藤井 暁, 長野 正信, 侯 徳興, 藤井 信
    2010 年 57 巻 10 号 p. 408-413
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    黒酢は鹿児島で伝統的に作られてきた食品である.黒酢をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮し酢酸除去したものをマウスに21日間与えたところ,マウス脾臓より調製したNK細胞の活性が有意に増加した.この濃縮黒酢をゲルろ過し,4つの画分を得た.最も高分子の画分(以下,分画黒酢)に糖が多く含まれ,その多糖の主成分は多い順に,マンノース,グルコース,ウロン酸,ガラクトース,アラビノース,ラムノース,キシロースだった.黒酢または分画黒酢をS-180移植マウスに16日間与えたところ,腫瘍の増大が有意に抑制された.さらに,分画黒酢を3日間摂取させると,S-180移植マウスの脾臓細胞より取り出したNK細胞の活性が有意に増加し,サイトカインのIFN-γ, TNF-α, IL-12の分泌も有意に増加した.以上より,黒酢は抗腫瘍作用および免疫賦活作用を持つ食品であることが明らかとなった.
  • 加藤 登, 藤井 陽介, 國本 弥衣, 北上 誠一, 新井 健一
    2010 年 57 巻 10 号 p. 414-419
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    ホッケ(AG),スケトウダラ(WP),両者混合すり身(AG+WP)に0~2/3倍量の水と0~3%卵白粉末(AP)を加え3% NaCl (w/w)と共に塩ずりした.25℃で予備加熱後,90℃, 30分加熱して加熱ゲルを得て,その物性値と総タンパク質(すり身+卵白)濃度(C)の関係を検討した.
    (1) 坐りゲルは,WPと(AG+WP)から形成されたが,AGからは形成されなかった.
    (2) 加熱ゲルのCとBSとの間の指数関係(BS=kCn, k, n=定数)は,AGから調製されたものはAPの添加によって変化しなかったが,一方,WPおよび(WP+AG)からの場合は,APの添加によって明らかに異なった.
    (3) 加熱ゲルの破断凹み(bs)の最大値は,加熱ゲルの原料すり身の魚種によって異なるが,加熱ゲルのbsの最大値はAPを加えてもほぼ同じだった.
    以上の結果から,すり身と卵白タンパク質から調製される加熱ゲル形成は,坐りを伴った加熱ゲルと伴わない加熱ゲルとでは異なる機序で進行することが示唆される.
技術論文
  • 市川 和昭
    2010 年 57 巻 10 号 p. 420-426
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    米の消費拡大と小麦確保のリスク軽減のために,小麦のみのパンと同等の風味や物性をもつ米粉パンを製造する検討を行った.強力粉の4分の1を米粉で置換し,この範囲内で強力粉のみのパンに近いものが得られた.うるち米の米粉の方がもち米に比して好ましいパンが得られた.強力粉の4分の1を米粉で置換した米粉パンについて添加油脂の影響を検討し,パンの経時的な老化(staling)の抑制に対してバターがもっともよいことがわかった.その量を増やすと,やや油分の多い風味の米粉パンとなったが,小麦粉パン程度の比容積と柔らかさがパン調製後(0日)および2日後も得られた.パンの比容積は添加油脂中の長鎖の飽和と一価不飽和脂肪酸の合計量あるいは長鎖の飽和脂肪酸量に比例し,液体油よりも固体脂がよいことがわかった.乳化剤としてMGを添加したとき米粉パンの老化が幾分抑制されたが,ショ糖脂肪酸エステルやレシチンの添加による改善効果は認められなかった.大学生への官能評価で小麦粉パンと小麦粉の4分の1を米粉で置換した米粉パンの間に嗜好の差は認められなかった.
  • 津嘉山 正夫, 佐々木 貴啓, 山本 幹二, 河村 保彦, 市川 亮一
    2010 年 57 巻 10 号 p. 427-433
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    MW照射法により,スダチ搾汁乾燥果皮粉末からスダチ特有の生理活性物質アグリコン(スダチチン,デメトキシスダチチン)とスダチチン配糖体が短時間(10~15分)に効率よく分離された.配糖体は,MW照射下約4mol/L塩酸メタノール水溶液中で極めて短時間に効率よく加水分解され,スダチチンが高収率で得られることが分かった.さらにスダチチンは,MW照射下硫酸ジメチル法や炭酸ジメチル法により,ノビレチンに高収率で変換できることが明らかになった.これらの結果から,MW照射による抽出,配糖体の加水分解法は,有用成分の効率的抽出法として実用化が期待される.
  • 中津 沙弥香, 柴田 賢哉, 坂本 宏司
    2010 年 57 巻 10 号 p. 434-440
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    凍結含浸法により軟化処理したレンコンの消化性を評価した.パンクレチンを用いて人工消化を行った結果,凍結含浸処理試料は,人工消化3時間までは経時的に不溶性固形物量が減少し,3時間で4.3±0.1 (g/100g)となり一定となった.対照試料は,人工消化9時間までは経時的に不溶性固形物量が減少し,9時間で6.7±0.1 (g/100g)となり一定となった.素材の硬さと人工消化後の不溶性固形物量には相関が認められ(rs=0.95, p<0.01),素材が軟らかいほど値が小さくなった.凍結含浸法による素材の軟化によって,消化可能な試料量が増加し,消化に要する時間が短縮されたと考えられた.
    ラットへの胃内投与の結果,凍結含浸処理試料は,対照試料に比べて,胃内の水溶性色素残存率が高く,不溶性固形物のモード径および体積が小さかった.これらの結果から,水溶性成分の胃排出速度の抑制や腹部膨満感の防止効果が期待できた.
    本研究の結果,凍結含浸法による食品素材の軟化処理によって,消化性が向上すると考えられた.
研究ノート
  • 上村 佑也, 橋口 健司, 長田 裕子, 坂 智秀, 吉田 睦子, 牧野 陽介, 天野 秀臣
    2010 年 57 巻 10 号 p. 441-445
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    緑藻ヒトエグサの血糖値上昇抑制作用を検討した.ラットにグルコースおよびスクロース,マルトース,デンプンをそれぞれ負荷した際に,ヒトエグサ粉末を同時に摂取することで血糖値の上昇が抑制された.さらに,ヒトエグサを分画し,それぞれの画分についてラットで糖負荷試験を行ったところ,粗ラムナン硫酸画分にグルコース,スクロース,マルトース,デンプン負荷による血糖値上昇を抑制する効果があることが明らかとなった.ヒトに対しても糖負荷試験を行ったところ,ヒトエグサ粉末および粗ラムナン硫酸画分の血糖値上昇抑制作用が認められた.
    以上の結果から,ヒトおよびラットに対してヒトエグサの血糖値上昇抑制作用が認められ,その効果にはラムナン硫酸が大きく関与していることが明らかとなった.
技術用語解説
  • 田村 基
    2010 年 57 巻 10 号 p. 446
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2010/12/01
    ジャーナル フリー
    バイオジェニックスとは,光岡博士が提案した言葉で,腸内フローラを介することなく,直接,免疫賦活,コレステロール低下作用,血圧降下作用,整腸作用,抗腫瘍効果などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御に働く食品成分のことである.免疫強化物質,血圧降下・コレステロール低下物質を含む各種生理活性ペプチド,植物ポリフェノール,DHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸),ビタミンなどの食品成分がこれに該当する1)
    機能性食品の範疇に属するプロバイオティクスは「腸内微生物のバランスを改善することで宿主に有益に働く生菌添加物」であるし,プレバイオティクスは,「腸内の有用菌の増殖を促進もしくは,活性を高めて宿主の健康に寄与する難消化性食品成分」であり両者とも腸内フローラに直接働きかけることが特徴である.これに対し,バイオジェニックスは,腸内フローラを介することなく,宿主のなんらかの健康に寄与する成分である.代表的なバイオジェニックスには,生理活性ペプチドが挙げられる.アミノ酸が2個以上結合してできたペプチドには特異的な生理作用を有するペプチドがあり,生理活性ペプチドと呼ぶ.これらの生理活性ペプチドは,本来,不活性なタンパク質由来のものが多く,タンパク質の消化過程や食品の加工・調理中で初めて活性のある構造を生じる場合が多い.生理活性ペプチドであるラクトトリペプチド(Val-Pro-Pro, Ile-Pro-Pro)はLactobacillus helveticusの発酵酸乳から見出された乳カゼイン由来のペプチドである.このラクトトリペプチドは,アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素 : angiotensin-converting enzyme)を阻害することで血圧降下作用に寄与することが報告された2) . Val-Pro-ProとIle-Pro-Proの高血圧ラットへの単回投与は対照群に比べて血圧が有意に低値を示し,ラクトトリペプチドの血圧降下作用が認められた.さらに,高血圧患者30名を対象にして,ラクトトリペプチドを含む酸乳を投与するプラセボ対照試験を8週間行ったところ,ラクトトリペプチドを含む酸乳はラクトトリペプチドを含まないプラセボ乳に比べて収縮期血圧と拡張期血圧ともに,有意な血圧低下が認められた.このラクトトリペプチドを含む酸乳は血圧が高めの方に適した特定保健用食品として認可されている.
    Val-Tyrは,イワシから見出された生理活性ペプチドで,高血圧自然発症ラット(SHRラット)に対する降圧作用を有し,消化管プロテアーゼ耐性なACE阻害ペプチドである.軽症高血圧者を含む健常人を対象にVal-Tyrを含むドリンクを与えたヒト試験では,軽症高圧者に対して有意な血圧降下作用が認められたことを明らかにして,血圧が高めの方に適した食品として特定保健用食品として認可されている.
    大豆由来のペプチドについても生理活性ペプチドの存在が報告されている.大豆ホエイたん白質のプロテアーゼS分解物から単離・同定されたアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドVal-Lys-Pro, Val-Ala-Pro, Val-Thr-Proのラットにおける血圧降下作用を調べたところ,これら3種のトリペプチドは,高血圧自然発症ラットへの単回経口投与試験により血圧降下作用を有していた.
    血圧降下作用以外にも生理活性ペプチドの効果が報告されている.動物試験において,プロテアーゼ処理したグロブリンの消化物がオリーブ油投与後に血清中性脂肪低下作用を有することが報告されている.この作用には生理活性ペプチドVal-Val-Tyr-Proが関与していた.この中性脂肪低下作用のメカニズムには,脂質の消化管からの吸収抑制および肝臓のトリグリセリドリパーゼの活性化が考えられた.
    ポリフェノール等のバイオジェニックスには,抗酸化作用を有するものが多い.フラボノイドはポリフェノールに属し,フラボノイドにはカテキン,アントシアニン,フラボノールやイソフラボン等があるが,これらフラボノイドにはフラボノイド骨格のみからなるアグリコンとフラボノイド骨格に糖が結合したフラボノイド配糖体が存在する.フラボノイドのアグリコンは小腸から吸収されるが,フラボノイド配糖体のなかには,ルチン(ケルセチン-3-ルチノシド)のように空腸で吸収されず下位消化管に到達し,この部位で吸収・代謝を受けるものも存在するため,アグリコンとある種の配糖体とでは生体に及ぼす生理作用が少し異なる可能性が考えられる.フラボノイドの中には,弱いエストロゲン作用を有するイソフラボンや抗アレルギー作用を有するメチル化カテキンなども存在する.近年,茶葉中メチル化カテキンの抗アレルギー作用が報告されている3) .このようにバイオジェニックスには様々な生理作用を有するものが存在し,今後,新たな機能性食品としての開発が期待される.
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