本研究では,バイオフィルム形成の初めの段階である細菌の初期付着に着目し,ポリスチレン製ディッシュ上でL.monocytogenes細胞の付着を抑制する物質を探索し,ナイシンとホエイパウダーに強い付着抑制効果のあることを見出した.また,ナイシンでは付着抑制だけでなく,付着後の発育(バイオフィルム形成)抑制にも効果があった.次にこのナイシンの付着抑制効果を高める物質を調べ,SMPに優れた併用効果のあることを見出した.また,ナイシンとSMPで処理したディッシュ上ではL. monocytogenesの初期付着菌量が減少するだけでなく,ディッシュ上に付着するL. monocytogenes細胞に対して溶菌および細胞膜損傷作用を与えて殺滅していることを観察した.さらに,ナイシンとSMPの併用での表面処理は,L. monocytogenesが低菌量での汚染の場合にはバイオフィルム形成を完全に阻害し,汚染菌量が多い場合にも初期付着菌量の減少とバイオフィルム形成を大きく遅延させた.したがって,ナイシンとSMPを利用した器材表面の処理はL. monocytogenesの初期付着およびバイオフィルム形成抑制に有効な手法と考えられた.
収穫時の熟度が異なるバニラを作成し,熟度がバニラの香気に与える影響について検討し,以下の結果を得た.
(1)完熟豆は未熟豆よりもスイートな香調が強く,酸臭や枯草臭が弱く,これらの香調に対応する部分としてAEDA法を用いて,バニリン,2-メトキシフェノール,イソ吉草酸,3-メチル-2,4-ノナンジオンを推定した.
(2)バニリンは熟度による香気の差にとりわけ大きく寄与していたが,熟度の違いはバニリン生成に関わる酵素群の活性,および加水分解活性の強さに大きく影響する可能性を推察した.
オリーブ葉粉末を添加した飼料を投与して飼育した養殖ブリ(添加区)の筋肉の脂質の性質と呈味を,オリーブ葉無添加の養殖ブリ(無添加区)と比較した.筋肉の粗脂肪含量は,添加区が低い傾向を示した.オリーブ葉の投与によって体内の脂質代謝が影響を受けた結果,血合筋,腹肉普通筋の粗脂肪含量が低下したと考えられた.脂肪酸組成について,個々の組成比で有意差が認められたものもあったが,全体としては両区で大きな違いはなかった.遊離アミノ酸含量について,添加区のAla含量が無添加区よりも多く,Alaのもつ甘味の強さの差が両区の味覚の差に影響を与えている可能性が考えられた.エキスの呈味を味覚センサーで測定したところ,添加区の塩味,旨味が無添加区より強く,呈味に差のあることが示唆された.以上のことから,オリーブ葉粉末を投与したブリは無投与のものと比べ脂質含量が低く,塩味,旨味が強いという特徴が示唆された.