日本食品科学工学会誌
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53 巻, 8 号
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総説
報文
  • 小堀 真珠子, 雨宮 潤子, 酒井 美穂, 白木 己歳, 杉下 弘之, 坂上 直子, 星 良和, 柚木崎 千鶴子
    2006 年 53 巻 8 号 p. 408-415
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    We previously demonstrated that bitter gourd (Momordica charantia L.) ethanol extract induced apoptosis in HL60 human leukemia cells. To examine the effect of different bitter gourd cultivars on cancer cell growth, we determined the effect of nine bitter gourd cultivars grown in Miyazaki prefecture on the growth of HL60 cells. Although growth inhibitory effect of seed extracts was stronger than that of pericarp or placenta extracts, all the extracts inhibited the growth of HL60 cells at concentrations of 25-200μg/ml. The extracts of pericarp, placenta and seeds of bitter gourds cultivars induced apoptosis in HL60 cells after 24h incubation.
    Suppression of inflammatory responses is expected to reduce inflammatory disease and development of cancer. Therefore, we determined the effect of the major bitter gourd cultivar ‘Sadowara 3’ on the bacterial lipopolysaccharide (LPS)-induced TNFα production from RAW264.7 mouse macrophage-like cells. Placenta extract inhibited the TNFα production induced by LPS ; however, it did not have any effect on the growth of RAW264.7 cells. The bitter gourd placenta is suggested to possess the suppressive effect on inflammatory responses.
  • 金子 裕隆, 川村 博幸, 熊谷 武久, 渡辺 紀之, 亀山 眞由美, 吉田 充, 新本 洋士
    2006 年 53 巻 8 号 p. 416-422
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    幼若イネ中のポリフェノールを精製し構造解析とRBL-2H3に対する脱顆粒阻害作用を検討した.
    (1)幼若イネより固相抽出カラムを用いた精製によりポリフェノールを18.8%含む画分を得た.このイネ固相抽出精製物はHPLCにより5つの画分に分離された.
    (2)HPLCで分離された5つの画分に含まれる物質はフラボンを基本骨格にした類似の化合物であり,そのうち4つの成分はC-グリコシド結合を有する化合物と判明した.残りの1つは2種の混合物であったが,ともにC-グリコシドに加えてアグリコンのフラボンの水酸基のひとつに有機酸が結合した新規化合物である可能性が示唆された.
    (3)これら幼若イネのフラボンC-グリコシドは脱顆粒阻害作用を有していた.
  • 藤田 利宗, 林 利哉, 芳賀 聖一
    2006 年 53 巻 8 号 p. 423-429
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    レトルト食肉製品の食感低下の要因を解明するために,食感の重要因子とされるAMを用いて,様々な加熱条件による加熱ゲル形成に関して検討を行った.その結果,加熱時の昇温速度が速い程,またゲル形成至適温度を超える条件において加熱温度が高い程,得られるゲルの破断強度は低下し離水率は高くなることが明らかとなった.またこれらのゲルは,球状の凝集体から成るaggregated-typeの微細構造を呈していたことに対して,これよりも高い物性を示したゲルは,細い繊維状のstrand-typeの微細構造であった.これらのことからレトルト加熱ゲルが示した低い物性は,aggregated-typeの微細構造が原因であると示唆され,微細構造の画像解析値からもそれを強く支持する結果が得られた.更に,レトルト加熱ゲルの微細構造がaggregated-typeを呈した原因として,次の2つの要因が考えられた.まず1つ目の要因として,SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの結果より,高温加熱を伴うレトルト加熱ゲルは,ミオシンおよびアクチンから成る巨大な会合体を形成していることが明らかとなり,この会合体のゲル形成への関与が,微細構造をよりaggregated-typeに進行させる一因であることが示唆された.またDSC測定の結果より,レトルト加熱処理がもたらす速い昇温速度は,ミオシンのTmaxの高温域シフト化に加え,〓Hの増大を引き起こすことが明らかとなり,このミオシンの変性挙動の変化がaggregated-typeの微細構造を惹起するもう1つの要因であることが示唆された.
技術論文
  • 児林 聡美, 小川 直人, 藤村 由紀, 立花 宏文, 山田 耕路
    2006 年 53 巻 8 号 p. 430-436
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    不知火姫菊乾燥花弁の免疫調節機能を明らかにするため,マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7のTNF-α産生に及ぼす影響について検討した.不知火姫菊水抽出物はRAW264.7細胞のTNF-α産生促進効果を示したことから,この生理活性物質の同定を試みた.菊抽出物のTNF-α産生促進効果へのポリフェノールの関与を検討するために,ポリフェノール除去処理を行ったが,菊抽出物の活性への影響は認められなかった.また,ポリフェノールはアルコールに高い溶解性を示すことから,菊抽出物のアルコールに対する可溶性を検討したところ,菊抽出物はメタノールにより可溶物および不溶物に分画可能であり,TNF-α産生促進物質はメタノールに不溶であることが明らかとなった.これらのことから,生理活性物質はポリフェノール以外の物質であることが示唆された.次に促進効果が認められたメタノール不溶物の熱安定性について検討したところ,熱水抽出物ではTNF-α産生促進効果の低下が認められなかったことから,生理活性物質は耐熱性であることが示された.また,このような性質に加えて,このTNF-α産生促進物質を含む抽出画分ではタンパク質に特異的な紫外可視スペクトルを示さなかったことから,活性本体はタンパク質以外の物質である可能性が考えられた.そこで,生理活性物質の分離精製を進めていくために,活性の認められた熱水抽出物から作成したメタノール不溶物をゲルろ過クロマトグラフィーにより分画した.菊の代表的な構成成分の一つで,ポリフェノールやタンパク質以外に生理活性物質として考えられる糖の含量を測定することでクロマトグラムを描いた.その結果,糖を含む分子量66000以上の画分のみにTNF-α産生促進活性が認められた.以上の結果から,RAW264.7細胞における不知火姫菊抽出物のTNF-α産生促進作用には高分子の糖類が関与している可能性が示された.
研究ノート
  • 真部 真里子, 中村 薫
    2006 年 53 巻 8 号 p. 437-442
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    スプラウトの生育光条件の変化が腸管上皮細胞からのIL-7・TGF-β分泌調節機能に及ぼす影響について検討した.
    スプラウトを,発芽後,明期16時間,暗期8時間とし,3日間蛍光灯下で生育したのち,種々のLED下にてさらに3日間生育した.そのスプラウトの葉と茎から調製した試料をCaco-2細胞に添加した際のIL-7とTGF-β分泌量を測定した.葉において,その生育波長による差異が顕著であった.IL-7の分泌は,緑色以外のLEDで生育し明期終了時に収穫したスプラウトの葉を添加すると抑制傾向にあり,TGF-βの分泌は,緑色と黄色以外のLEDで生育し暗期終了時に収穫したスプラウトの葉によって有意に抑制された.このことから,スプラウトの生育波長や明暗周期の順序など生育時の光条件によって腸管上皮細胞からのIL-7・TGF-β分泌調節機能が変動することが明らかになった.
  • 本多 正史, 石崎 太一, 黒田 素央
    2006 年 53 巻 8 号 p. 443-446
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    本評価では,(1) 1日4時間以上VDT作業を行っている労働者であり,(2) 11名中9名が「眼が疲れる」「眼がかすむ」「肩,腰がこる」を感じており,(3) 平均年齢が45.7±7.8歳のパネル11名(男性)を対象に解析を行い,以下2点が明らかになった.
    (1)鰹節だしの4週間継続摂取により,自覚症状に関して,眼精疲労にみられる「眼が疲れる」「眼がかすむ」「涙がでる」「眼が赤くなる」などの項目が初期値に比べて主に摂取3週目,4週目で改善傾向を示した.
    (2)フリッカーテストの結果,主に夕方のフリッカー値が初期値に比べて摂取4週目で有意に上昇した.前観察期間のフリッカー値のΔ(朝-夕方)の平均値を基準に層別解析を行った結果,平均以上のパネルでは,顕著にΔ(朝-夕方)が低下した.平均以下のパネルでは,ほとんど変化しなかった.
    以上の結果から,鰹節だし摂取により眼精疲労が改善される可能性が示唆された.
技術用語解説
  • 井手 隆
    2006 年 53 巻 8 号 p. 447
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    1. CLAとは
    リノール酸は9位と12位にシス2重結合を持つオクタデカジエン酸である.これに対し,CLA(conjugated linoleic acid)は連続した(共役した)2重結合を持つオクタデカジエン酸の位置および幾何異性体の総称であり,天然には乳製品,牛肉などに含まれ,その大部分(75~97%)はc9,t11-CLAである.これは牛の反芻胃中の微生物によりα-リノレン酸やリノール酸の異性化と水素添加,さらに牛体内での代謝も加わり生成する.しかし,牛肉や乳製品のCLA含有量は総脂質の0.3~1%程度であり,食品素材としては主にリノール酸あるいはリノール酸を多く含む油脂のアルカリ異性化によって調製されている.アルカリ異性化によって生成するCLAは大半がc9,t11-とt10,c12-CLAで,組成比はほぼ1 : 1となる.最近,乳酸菌を用いる微生物発酵によりCLAを製造する技術開発も行われている.CLAは異なった構造を持つ脂肪酸の総称であり,その生理作用は個々の異性体ごとに異なる可能性に留意する必要がある.
    2. CLAの生理作用
    CLAには多彩な生理作用が報告されている.これは,主にアルカリ異性化によって調製されたc9,t11-とt10,c12-CLA混合物を用い観察されたものである.以下,その概略について記載する.
    抗がん作用 : 1987年ハンバーグ抽出物に抗変異原性を持つ物質が見いだされ,原因物質がCLAと同定された.その後,動物実験でCLAに様々な組織での発がん抑制作用があることが明らかとなった.その発現メカニズムとして,アラキドン酸代謝の阻害によるプロスタグランジン(PG)産生変化,腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生抑制,オルニチン脱炭酸酵素の阻害,脂質過酸化の誘導,DNA合成阻害,アポトーシス誘導などの作用が報告されている.c9,t11-とt10,c12-CLAの抗がん作用の違いについては明確ではない.
    抗肥満作用 : CLAの抗肥満作用は1997年にマウスを用いた実験で初めて見いだされた.この抗肥満作用の発現は用いる実験動物によりその程度か大きく異なり,マウスが最も感受性が高い.ヒトでの抗肥満作用については成績が相半ばし,最終的な結論は得られていない.CLAの抗肥満作用の発現機構として,脂肪細胞でのリポタンパク質リパーゼ活性低下,脂肪細胞のアポトーシス誘導,肝臓での脂肪酸分解の上昇などが考えられている.CLA混合物の抗肥満作用には主にt10,c12-CLAが関与し,c9,t11-CLAは脂質代謝には大きな影響を与えない.
    免疫調節機能 : CLAは動物実験で免疫担当細胞のサイトカイン等の産生やその血液濃度に影響することが報告されている.産生あるいは血液濃度が減少するものにはロイコトリエン(LT)B4,LTC4,LTD4,インターロイキン (IL)-4,IL-12,PGE2,PGF,TNFα,免疫グロブリン(Ig)Eなど,反対に増加するものにIL-2,IgM,IgA,IgGなどがある.さらに,CLAにはリンパ球のマイトジェン刺激によるリンパ球幼若化の促進や免疫補助Tリンパ球と免疫抑制Tリンパ球の比率を変化させるなどの生理作用が報告されている.このような変化はヒトでも観察され,CLAにはアレルギー・炎症反応抑制,感染防御などの生理作用があると期待される.生理作用はc9,t11-とt10,c12-CLAで異なるようであり,より精細な検討が必要である.
    以上のように,CLAは様々な生理作用が期待できる魅力的な食品素材である.
  • 津志田 藤二郎
    2006 年 53 巻 8 号 p. 448-449
    発行日: 2006/08/15
    公開日: 2007/09/14
    ジャーナル フリー
    1.食事バランスガイドの制定
    食事は,運動やストレス,喫煙,飲酒などとともに,私たちの健康に大きな影響を与える要因の一つになっており,健康を維持するためにはそのバランス,すなわち「フードバランス」あるいは「食事バランス」が重要であると考えられるようになった.アンバランスな食事を続けると高血圧や糖尿病,心疾患,脳血管疾患,アレルギーなどの免疫系失調等の生活習慣病に陥る確率が高くなり,生活の質が低下するのみならず早死にを招く結果となることは,誰もが理解するところである.しかし,理解しながらもその実践となると,心もとないのが現実である.こうした事態を打開するため,平成12年に制定した「食生活指針」を具体的な行動に結び付け,国民一人ひとりがバランスのとれた食生活を実現していくことができるよう,食事の望ましい組み合わせやおおよその量を分かりやすくイラストで示した「食事バランスガイド」を,農林水産省と厚生労働省が共同で平成17年6月に決定・公表した.主食(米やうどん,パン)と副菜(野菜やいも,キノコ,海藻等の料理),主菜(肉や魚,卵,大豆等の料理),そして牛乳・乳製品と果物の5つのグループの望ましい摂取量をコマの体積からイメージできるように図案化し,摂取バランスが悪いとコマが倒れ,いわば生活習慣病などの不測の事態が生じることをイメージさせるガイドである.コマの上の軸にはコップがあり,水やお茶などの飲料水摂取の重要性も意識させ,さらにコマの上を走る人間の姿も図案化され,食事のみならず普段からの運動の重要性も見て取れ,世界的に見ても分りやすくユニークなガイドになっている(図1).この「食事バランスガイド」は,同時期(平成17年6月)に制定された「食育基本法」を実践するための教材ともなっており,わが国に健全な食生活を定着させるために大きく役立つものとして期待されている.
    2.マクガバン報告から現在まで
    食事と健康の関係について注目し,それを行政的な課題として取り上げた最初の事例は,1977年の「マクガバン報告」である.米国の上院議員であったマクガバン氏は,1960年代の米国民一人当たりの医療費が世界のどの国よりはるかに高いにも係わらず,平均寿命が世界26位であることに失望を覚え,アメリカ上院栄養問題特別委員会を設置して世界から学者を集めて食事と健康に関する調査を行い,膨大な調査結果(マクガバン報告)を1977年に発表した.その中で,(1) 炭水化物摂取の奨励,(2) 脂肪摂取の抑制,(3) 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸摂取の推奨,(4) コレステロール摂取の抑制,(5) 砂糖摂取の抑制,(6) 食塩摂取の抑制を取り上げ,タンパク質(P)と脂質(F),炭水化物(C)摂取の比率は,当時の日本の食事が理想的であり,米国の食事は間違っていることをすなおに認め,以後積極的な食事改良政策を展開した.その後,米国農務省は1992年に各食品群別に食べる量をピラミッドに示した面積から推定できるフードガイドピラミッドを制定し,2005年には個人の事情に合わせることが可能なマイピラミッド型のフードガイドを制定するに至っている.なお,米国でのフードガイドピラミット制定以来,オーストラリアやカナダ,イギリス,オランダ,ポルトガル,中国等でもそれぞれ独自の図案によるフードガイドが制定され,各国が生活習慣病の予防に向けた取り組みを活発に行う時代が到来している.
    3.国民栄養調査と「日本食事摂取基準(2005年版)」の制定
    こうした「フードガイド」制定の科学的な根拠としては,わが国で毎年実施している国民健康栄養調査がある.それによると3大栄養素であるPFCについては,30歳以上69歳までの人の摂取目標量がそれぞれエネルギー比で20%未満,20以上25%未満,50以上70%未満となっている.また,脂肪については飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けてその摂取基準を定めており,18歳以上の男性では飽和脂肪酸の目標量(エネルギー)が4.5~7.0%,n-6系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が同様に10%未満,n-3系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が男性の18歳以上49歳までが9.4%以上,50~69歳までが11.6%以上,70歳以上が8.8%以上となっている.この他,ビタミン,ミネラルなど微量栄養素についても,それぞれ摂取量の基準が「日本食事摂取基準(2005年版)」に示されており「食事バランスガイド」には,この食事摂取基準を満たすための役割も期待されており,当面はわが国において摂取量が不足している野菜の摂取目標値1日350gと果実の摂取目標値1日200gの実現が重要な課題になっている.
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