日本食品科学工学会誌
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53 巻, 7 号
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報文
  • 春日 敦子, 荻原 英子, 青柳 康夫, 木村 廣子
    2006 年 53 巻 7 号 p. 365-372
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    (1)乾燥大豆100g当たり総イソフラボン含量は,ツルムスメ大豆が最も多く299mg, 以下ミヤギシロメ,ミヤギミドリの順であり,品種によって2倍以上の差が認められた.イソフラボン組成はMalonylgenistinが最も多く次いでMalonyldaidzinであり,この2つで7割前後を占めていた.
    (2)イソフラボンは大豆の浸漬水にはほとんど溶出されなかったが,沸騰後3分間の茹でこぼし操作により10%弱が茹でこぼし水に,30分水煮では24%,60分水煮では30%が大豆から煮汁に溶出した.イソフラボン組成はマロニル化配糖体が減少,グルコシド配糖体は増加し,加熱時間が長くなるほどこの傾向は顕著であった.圧力鍋を用いると加熱時間が短いにもかかわらず,イソフラボンの溶出は通常の水煮より僅かに少ない程度であった.蒸し煮加熱ではイソフラボンの大部分は大豆に残存しており,蒸し器を用いた蒸し煮加熱60分が最もイソフラボンの損失を防ぎ,マロニル化配糖体を減少させグルコシド配糖体を多く生成させる加熱方法であった.
    (3)市販水煮大豆のイソフラボン含量は100g当たり60mg程度であり,本実験の60分水煮大豆より全て低含量であった.イソフラボン組成には製品によりかなりの差が認められた.
    (4)調製したきな粉のイソフラボンは,マロニル化配糖体の大部分がアセチル化配糖体に変化しており,豆乳,オカラでは,原料大豆のイソフラボンの80%が豆乳に,オカラに20%の分布であった.
  • 阿部 茂, 宮下 和夫
    2006 年 53 巻 7 号 p. 373-379
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    過熱水蒸気を用いた水産乾製品の表面殺菌効果について検討した.サケ乾燥品やスルメからはKocuria属やStaphylococcus属の乾燥に強い菌種が検出された.サケ乾燥品において過熱水蒸気では120℃および180℃で1分以下の処理で十分な殺菌効果が得られたが加熱による食感の硬化がおきた.そこでスリットより噴射した過熱水蒸気を短時間照射した場合の殺菌効果についてスルメを用いて検討を行った.その結果,170℃および225℃で5cm/sのコンベアスピードでは菌数が2logcfu/g以上減少し,色や硬さにも影響が少ないことがわかった.
  • 小嶋 道之, 西 繁典, 山下 慎司, 齋藤 優介, 前田 龍一郎
    2006 年 53 巻 7 号 p. 380-385
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    小豆エタノール抽出物を添加した高コレステロール食餌(Adzuki EE食餌)を与えたラット群の血清コレステロール量は,コントロール食餌ラット群に比べ,有意なコレステロール上昇抑制が認められた.また,Adzuki EE食餌群ラットでは糞量およびコレステロール排泄量は有意に増加していた.in vitroミセル化実験により,1.10mg/ml~5.56mg/mlの小豆エタノール抽出物添加によりミセル化したコレステロールの溶解度が,添加量依存的に減少することを明らかにした.また,Adzuki EE食餌群ラットの肝臓HMG-CoAレダクターゼ活性は,コントロールのそれよりも有意に低下していた.しかし,HMG-CoAレダクターゼのmRNA発現量に有意差はみられなかった.また,コレステロール代謝に関係する遺伝子であるコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ,LDLレセプター,LCAT, ACAT, 肝臓コレステロールエステラーゼ,SREBP2のmRNA発現量に有意差はみられなかった.これらの結果は,小豆エタノール抽出物投与により,消化管においてコレステロールのミセル化が阻害され,コレステロールの吸収が抑制され,また肝臓においてHMG-CoAレダクターゼ活性が抑制されたことにより,血清コレステロール上昇抑制が起きている可能性を示唆している.また,SREBP1の発現量が有意に低かったことから,脂肪酸の代謝系にも影響を与えている可能性が考えられる.
  • 小嶋 道之, 山下 慎司, 西 繁典, 齋藤 優介, 前田 龍一郎
    2006 年 53 巻 7 号 p. 386-392
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    in vivoおよびin vitro実験により,小豆ポリフェノール(APP)の抗酸化活性の能力を検討した.マウスに0.05%(w/v)APP入りの飲料(20ml/日)を一週間与えて,その血清,肝臓および腎臓ホモジネートの酸化促進剤に対する影響を検討したところ,どれもコントロールのそれらに比べて酸化を受けにくく,特に肝臓ホモジネートでは有意に酸化抵抗性を示した.また,0.05%(w/v)APPを1週間,事前投与したマウスにガラクトサミンとリポポリサッカライドを腹腔内注射したところ,コントロールのそれに比べて,血清GOT活性の上昇抑制や肝臓の過酸化脂質の生成が有意に抑制された.肝臓のグルタチオン量やGPx活性は,コントロールのそれらよりも有意に高い値を保持していた.これらの結果から,APPは炎症により発生するフリーラジカル・活性酸素を消去し,生体内グルタチオン量とGPx活性を高く保持して,過酸化脂質の生成を抑えることで,結果的に肝臓の炎症拡大を抑制している可能性が推察された.また,APPのDPPHラジカル消去活性におけるIC50は64.2μmol/l(カテキン量として換算)であり,市販のカテキンやビタミンCの1/2量で同じ効果を示した.また,0.05%APPを80μl添加した2.5mlのヒトLDL溶液(タンパク質70μg/ml)は,200μmol/lの硫酸銅溶液による酸化促進に対して抵抗性を示し,APP無添加の場合に比べて,LDL酸化の開始時間を1時間程度遅延させた.これらの結果は,APPには生体の酸化防止効果や肝臓保護作用があることを示唆している.また,小豆の主要なモノマー型ポリフェノールは,カテキン-7β-グルコシドであることを明らかにした.
技術論文
  • 山内 悟, 嶌本 淳司, 水野 俊博
    2006 年 53 巻 7 号 p. 393-397
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    The results obtained in our experiment are two-fold : Firstly, a convenient model of a near-infrared spectrophotometer, which has proved to be useful in the determination of mellowness in fruit, was successfully applied to the measurement of fat content in horse mackerel and dried split horse mackerel. This measurement may be performed instantly, with the specimen remaining intact. To obtain this result, we used multiple linear regression (MLR) based on second derivative values of spectra measured at the back abdomen side part of the fish body and the fat content of the whole body. This resulted in a good calibration equation, with D2 log(1/R), at the fat band of 924nm, as the first variable. Secondly, we succeeded in developing a global calibration equation that can be used for both frozen and thawed samples of horse mackerel, eliminating the need to measure the temperature of each specimen. The global calibration equation has the function of temperature compensation, with high accuracy : 0.88 decision coefficient (R2) and 1.6% standard error of prediction (SEP) for whole fish (actual fat range 1-24%) and dried split fish (actual fat range 1-19%).
技術用語解説
  • 湯川 剛一郎
    2006 年 53 巻 7 号 p. 398
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    規格の名称は「食品安全マネジメントシステム-フードチェーンの組織に対する要求事項」.デンマークにより2001年に提案され,2005年9月に発行された.「ハザード分析及び重要管理点」(HACCP)システムの原則及びコーデックス委員会が作成した適用の手順並びに食品に対する管理の要求事項を統一することによって,円滑な国際貿易と食品の衛生管理の国際的な均質化を目的としている.
    この規格は,食品安全マネジメントシステム(FSMS)について,
    (1) 相互コミュニケーション(相互に連絡を取り,活動を進めること),
    (2)システムマネジメント(仕組みで保証すること),
    (3)前提条件プログラム(安全衛生条件を維持するために必要な基本条件,そしてこれを守ること),
    (4)HACCP原則(7原則12手順により食品の安全を確保すること),
    の主要素を組み合わせ,HACCPシステム適用の手順及び食品管理に対する要求事項を統合し,フードチェーン内で発生することが予測されるすべてのハザードを明確にし,評価することを求めている.
    この規格は,規模及び複雑さを問わず,飼料生産者,収穫者,農家,材料の生産業者,食品製造業者,小売業者,小売業者,食品サービス業者,ケータリング業者,清掃・洗浄及び殺菌・消毒サービス業者,輸送・保管及び配送サービスを提供する組織などフードチェーンのあらゆる組織を対象としている.
    規格の構成は品質マネジメントシステムに関する国際規格であるISO9001と同様である.食品安全マネジメントシステムを構築するための具体的な手順は規格の第7章,8章に記述されており,ハザード分析を行うことにより,前提条件プログラム(PRP)(食品の汚染を防止するために必要な基本条件及び活動),オペレーションPRP(食品の汚染を防止するため不可欠な条件及び活動)及びHACCPプラン(食品の安全のために重要であるハザードを明確にし,評価し,管理するシステム)の組み合わせによってハザード管理を確実にすることが求められている.
    ISO22000は,第三者認証が可能な規格であるが,この認証はシステムの能力に対して行われるものであり,認証を取得した組織の製品が絶対安全であることを保証するものではない.この規格は,失敗を起こしにくい組織づくりを目指すとともに,万一,安全でない恐れのある食品を出荷させてしまったとしても,すぐ回収を行える体制が整っており,原因究明が的確に行われ,再発防止策が講じられるような組織の実現を目指している.
    なお,関連する規格として,ISO/TS 22003「食品安全マネジメントシステムの認証機関のための要求事項」(発行予定)及びISO/TS 22004「食品安全マネジメントシステム—ISO22000 : 2005の適用のための指針」(2005年11月発行)がある.
  • 橘田 和美
    2006 年 53 巻 7 号 p. 399
    発行日: 2006/07/15
    公開日: 2007/07/15
    ジャーナル フリー
    花粉症をはじめとする様々なアレルギー症状を持つ人が年々増加し,今や我が国の国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている.このアレルギーを引き起こす物質をアレルゲンと呼ぶが,アレルギー症状を引き起こす免疫システムと,アレルゲンのもつ化学構造のインターフェースとなっているのが抗原決定基(エピトープ)である.即ち,アレルゲンのみならず,ある物質がそれに対する抗体を誘発する場合,免疫システムによって認識される部位がエピトープである.
    アレルゲンをはじめとし,抗体産生を誘発する抗原はその分子内にいくつものエピトープを持っている.これらエピトープは生体内で抗体産生に携わるT細胞によって認識されるT細胞エピトープと,B細胞によって認識され,また抗体の結合部位になるB細胞エピトープとに分類されている.抗体等によって認識される構造単位であるエピトープであるが,タンパク質中の特定のアミノ酸配列だけでなく,糖鎖の一部,低分子物質なども含まれる.糖鎖抗原としてはABO式血液型抗原が有名であり,アレルゲンに関してもミツバチ毒ホスホリパーゼA2,オリーブ花粉アレルゲン等のB細胞エピトープは糖鎖部分であることが示唆されている.
    T細胞に抗原が認識される場合,まず抗原はマクロファージ,B細胞等の抗原提示細胞に取り込まれペプチドまで分解される.処理されたペプチドは抗原提示細胞上に発現するMHCクラスII分子とともにT細胞レセプターに提示され,これによって抗原情報がT細胞へと伝達され,T細胞の活性化が起きる.このとき,T細胞レセプターはMHCと複合体を形成した線状のエピトープとしか反応しない.従って,T細胞エピトープは熱変性など一次構造に影響しない処理に対しては安定であるが,酵素処理のような一次構造を切断するような処理に対しては影響を受けやすい.
    一方,B細胞エピトープは,線状に並んだ一次構造から形成されるエピトープだけでなく,タンパク質の立体構造に依存したエピトープを形成する場合もある.従って,B細胞エピトープの場合,T細胞エピトープのように一次構造の変化を伴わない処理に対して影響を受け難いものもある一方,立体構造に依存するエピトープは加熱変性のように三次元構造に変化を引き起こす処理によっても容易に影響を受け,B細胞及び抗体から認識されなくなってしまう.卵一つとってみても,卵白中のオボムコイドは加熱処理に対して安定であるが,オボアルブミンは不安定であるなど,エピトープの構造の違いが調理などによるアレルゲン性の消長に影響を及ぼしている.
    ところで,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー患者の増加に伴い,その治療法も多くの研究の対象となっている.アレルギーの治療法としては,抗アレルギー剤,ステロイド等,種々の薬剤による対症療法が一般的である.また,少量の抗原をアレルギー患者に長期にわたり繰り返し投与する減感作療法は,花粉,動物,ダニ等の吸入性アレルギーの治療に長く使われてきた.しかし,現行の減感作療法はIgE結合部位を含む抗原を投与することからアレルギー症状を惹起する危険性も否定できない.そこで,ペプチド免疫療法など新たな治療の試みも検討されている.これは完全長のタンパク質分子を用いるのではなく,T細胞エピトープを含むペプチド断片を用いて行われるものである.これらのペプチド断片はアレルギー反応の惹起に必要なIgEの結合及びその架橋形成はできないが,T細胞の不応答を引き起こすとされている.実用化には至っていないが,花粉症のアレルギー症状の緩和を目指したスギ花粉症緩和米はこの現象を利用したものである.具体的には,遺伝子組換えの技術を利用し,スギ花粉症抗原タンパク質の中から7種の主要なT細胞エピトープを選び,これらを連結したエピトープペプチドをコメの胚乳部分に特異的かつ高度に蓄積させたものである1).その他にも,B細胞エピトープのアミノ酸を一つ置換したリコンビナントペプチドを用いた変異タンパク免疫療法も研究されている.T細胞活性化能を保持しながらもIgE結合能が減弱したアミノ酸置換リコンビナントをモデルマウスに投与した実験では,アナフィラキシー発症の頻度及び程度の軽減が認められている2)
    このようにエピトープの解明は非常に重要であるが,一部の主要アレルゲンを除き,多くのアレルゲンにおいてはエピトープの解明は十分ではない.今後のエピトープ解析の進展が強く望まれる.
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