本研究ではアミロペクチンの側鎖の短鎖比率が高い変異を持つ糯米品種「愛知糯126号」と小麦品種「みなみのやわら」に注目し, 変異アミロペクチンがパンの老化に及ぼす影響を評価した. アミロース含量の差によるパンの老化耐性効果を最小限にするため, アミロース含量を同程度に調製した「みなみのやわら」または「愛知糯126号」と市販強力粉のブレンド粉を用いて中種法で製パンを行い, それぞれのパンの老化について,「クラムの硬さ」と「老化澱粉の再糊化エンタルピー」の2つの方法で速度論的に解析した.
その結果, 変異アミロペクチンを持つ穀粉をブレンドしたパンは, 市販強力粉のみを使用した対照のパンと比べて保存0時間時点でも柔らかく, その後保存期間が増加してもクラムの柔らかさを維持し, クラム中の老化澱粉の再糊化エンタルピーも増加しにくいことが判明した. また, 老化速度に関しては, SRC, RRC共に変異アミロペクチンを含む水準で小さい結果となった. これらの結果から, 変異アミロペクチンを持つ穀粉をパンに使用することで, パンの老化を抑え, 柔らかく好ましい物性を長時間維持できることが明らかとなった. さらに, 変異アミロペクチンを含む2水準のパンを比較すると, ブレンド比率のより高い「みなみのやわら」のブレンド粉が「愛知糯126号」ブレンド粉より高い老化耐性を持つことが明らかとなり, 変異アミロペクチンの含有量が多い程パンの老化耐性効果が高まることが示された.
今後, これらの穀粉を使用したパンについて, 香りや味についての解析や各種の製パン法に応用することで, 老化が遅く好ましい物性を長時間維持できる高品質なパンの開発が期待できる.
本研究では電動石臼を用いた湿式微粉砕機により調製したスパイスペーストの特性と香気成分放出挙動を明らかにした. コリアンダーシードからペーストを調製し, 粉砕回数および固形分比が粒子径や分離率に及ぼす影響を調べたところ, 粉砕回数を増やすことで粒子径は小さくなり, 分離率も減少することがわかった. 固形分比は粒子径に対して有意な影響を及ぼさなかったが, 固形分が増えることで分離率が減少し, ペーストの安定性が向上した. ペーストの蛍光顕微鏡画像からは, ペースト中に油滴が分散していることがわかり, 湿式粉砕によりコリアンダーシード中の油分が放出されていることが明らかになった.
コリアンダーシードペーストの香気成分放出挙動を明らかにするために, ペーストを加熱した際にヘッドスペースに放出されたβリナロールおよびカンファーを定量し, 乾式粉砕したコリアンダー粉末と水を混合した粉末液と比較した. ペーストからの香気成分放出量は粉末液と比べて少なく, また分離率が低く, 安定性の高いペーストほど香気成分の放出量が少なかった. これらの結果から固形分や油滴の分散性やペースト特性が香気成分の放出挙動に影響を与える可能性が示された.
我々はこれまでミカン果実中のβ-クリプトキサンチン含有量が可視・近赤外線センサーで推定可能であることを明らかにしてきた. 本研究では, β-クリプトキサンチンを含有する中晩生カンキツ6品種において, 可視・近赤外線センサーを用いた非破壊推定が有効かについて検証した. その結果, 特に600–620 nm領域の吸収がβ-クリプトキサンチン含有量を推定する上で重要な波長領域であること, また糖度に関連する波長領域もβ-クリプトキサンチン含有量の推定に影響していることを明らかにした. これらの結果から, β-クリプトキサンチンを含有する‘せとか’,‘せとみ’および‘津之輝’などの中晩生カンキツ類においてもミカンと同様にβ-クリプトキサンチン含有量を可視・近赤外非破壊光センサーを用いることで, 推定できる可能を明らかにした.
第69巻第3号
p.115 英文要旨 1行目 誤:19 yeast species →正:22 yeast species
p.116 本文 40行目 誤:19菌種 →正:22菌種
p.124 本文 9行目 誤:19菌種 →正:22菌種