日本食品科学工学会誌
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56 巻, 10 号
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総説
報文
  • 川上 いずみ, 村山 伸樹, 川崎 貞道, 伊賀崎 伴彦, 林田 祐樹
    2009 年 56 巻 10 号 p. 513-519
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    本研究では保存日数経過にともなうそばの風味とテクスチャーの変化を官能評価と機器分析により確認し,機器分析による客観的手法の確立を検討した.石臼挽きそば粉をクラフト包材に25℃で14日間(2週間)保存し,官能評価と味覚センサ,GC-MSおよびテクスチャーアナライザなどの機器分析で,次のような知見が得られた.
    (1) 官能評価では保存日数の経過と共に食味が低下し,苦味,渋味の増加,香りの低下,硬さの増加が起こることが明らかとなった.
    (2) 機器分析では味覚センサ,テクスチャーアナライザによるいずれの分析でも,保存日数経過にともなう食味の変化を確認できた.味覚センサでは保存日数経過による「苦味」,「渋味」を示唆するセンサ出力の変化が確認された(P<0.05).GC-MSでは香気成分の減少が確認された.テクスチャーアナライザでは「伸長度」の減少が確認され(P<0.05),麺がもろくなっていることが示唆された.
    (3) 味覚センサの主成分分析の結果,主成分1で保存日数の違いが示され,これは官能評価における「苦味」および「渋味」を示すことが推察された.すなわち,味覚センサで保存日数によるそばの味の違いを判別できる可能性が示唆された.
    (4) そばの食味は日数経過と共に変化し,ソバ製粉後14日目には明らかに苦味,渋味が増加し,テクスチャーが次第に変化し,香りも減少していくことがわかった.
  • 肥後 温子, 和田 淑子
    2009 年 56 巻 10 号 p. 520-528
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    上新粉,白玉粉として販売されているうるち米粉,もち米粉および糊化うるち米製品,米デンプンを用いてクッキー様焼成品を作成し,小麦粉,小麦デンプン焼成品を対照として各調湿条件下での破断特性の違いを比較した.
    1. うるち米粉焼成品は小麦粉焼成品に比べて総エネルギー,最大応力が大きく,ピーク数が少ない硬い破断特性を示し,高湿度においてさらに硬化した.糊化したうるち米粉製品および加水量の多い焼成品では硬化度が著しく大きかった.
    2. もち米粉焼成品はうるち米粉と小麦粉焼成品の中間的な破断特性を示し,高湿度で物性が大きく変化した.
    3. うるち米デンプン,もち米デンプン焼成品の破断特性はうるち米粉,もち米粉焼成品の破断特性と類似し,高湿度で硬化した.
    4. 米粉焼成品の硬化要因として,デンプン糊の作用,焼成品の密度,組織の不均一さが考えられる.
技術論文
  • 服部 賢志, 木村 康晴, 船木 紀夫, 法邑 雄司
    2009 年 56 巻 10 号 p. 529-532
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    無機元素組成によるさやえんどうの産地判別の可能性を検討した.日本産および中国産のさやえんどう79点について,9元素(Na,Mn,Ni,Cu,Zn,Rb,Sr,BaおよびPb)をICP-MSにより定量した.分析値の主成分分析から分布に産地ごとの傾向が認められた.さらに,線形判別分析を行い,後進ステップワイズ法により2元素(SrおよびPb)を選択し,日本産と中国産を判別する判別関数を構築した.また,判別関数の有効性についてクロスバリデーション法により検証したところ,100%の的中率を示し,産地判別の可能性が示唆された.
  • 渡辺 健太郎, 深尾 正
    2009 年 56 巻 10 号 p. 533-540
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    食経験のある101種類の植物から105種類のエキスを得た.これらについて,食品変敗菌を供試菌として抗菌性の有無をスクリーニングした.数種のエキスに耐熱性芽胞菌や酵母に対する抗菌性(MIC<300μg/ml)が認められた.このなかで,イヌガヤの未熟果実エキスは固体培地・液体培地問わず抗菌性が認められ,また試験に供したグラム陽性菌すべてに対して強い抗菌性(寒天培地を用いたときのMICが25μg/ml~200μg/ml, 液体培地を用いたときのMICが2μg/ml~40μg/ml)を発揮することが見出された.培地のpHを酸性もしくはアルカリ性にシフトすることで,さらに強い抗菌性が発揮されることも示唆された.
研究ノート
  • 元永 智恵, 近藤 正敏, 林 篤志, 岡森 万理子, 北村 良久, 嶋田 貴志
    2009 年 56 巻 10 号 p. 541-544
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    5週齢のC57BL/6J雄性マウスに60kcal%脂肪食(高脂肪食)ならびにFK-23懸濁液を並行して連日自由摂取させ,体重,摂餌量,体脂肪率,脂肪重量および各種血液生化学的検査に対する影響を検討した.Control群には対照食を,High fat群およびFK-23群には高脂肪食をそれぞれ自由摂取させた.FK-23はFK-23群の飲用水中に2%(w/w)懸濁して摂取させた.その結果,体重,体脂肪量,血糖およびレプチンにおいてFK-23群がHigh fat群と比較して有意な低値を示した.しかし,摂餌量,体脂肪率,精巣周囲脂肪,肝臓重量,肝脂質量,血清中総コレステロールおよびアディポネクチンにおいてFK-23群とHigh fat群で有意な差は認められなかった.
  • 川崎 健司, 白水 智子, 勝井 真紀
    2009 年 56 巻 10 号 p. 545-548
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
    本研究で筆者らは加工菓子の廃棄物であるクリ皮から得られるポリフェノールを用い,メタボリックシンドローム予防の可能性について検討した.クリ皮ポリフェノールの主成分は縮合型タンニンと推察され,4-MU oleate並びにトリオレインを基質に用いた反応系において,強い膵リパーゼ阻害効果を示した.また,ラットを用いた脂質吸収抑制試験においても,濃度依存的に抑制効果を示し,125mg/kgおよび500mg/kgの投与群において,有意に血中中性脂肪濃度は低下した(p<0.05).これらのことからクリ皮ポリフェノールは,抗メタボリックシンドローム素材として有用であると考えられた.
技術用語解説
  • 柚木崎 千鶴子
    2009 年 56 巻 10 号 p. 549
    発行日: 2009/10/15
    公開日: 2009/12/08
    ジャーナル フリー
     1. フリーラジカル
    がんや動脈硬化,心臓病などの生活習慣病や老化促進に,活性酸素種による生体組織の酸化が密接に関与していることが明らかとなりつつある.
    活性酸素種は,酸素を含む反応性の高い化合物の総称であり,ラジカルと非ラジカルがある.脂質関連物質を含む広義の意味においての活性酸素のうち,前者としては,反応性の高いものからヒドロキシラジカル(・ OH),アルコキシラジカル(LO・ ),ペルオキシラジカル(LOO・ ),ヒドロペルオキシラジカル(HOO・ ),一酸化窒素(NO・ ),二酸化窒素(NO2・ ),スーパーオキシドアニオン(O-2・ )などがある.後者の非ラジカルグループには一重項酸素(1O2),オゾン(O3),過酸化水素(H2O2),脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)などがある1)
    一般に電子は2個で対をなしている状態で,原子軌道あるいは分子軌道に安定に収容されているが,対にならずに一つだけ軌道に存在する場合(不対電子)がある.これがフリーラジカルできわめて反応性が高い.酸素分子は不対電子が2個存在するのでビラジカルと言われている.体内に取り込まれた酸素は4電子還元を受けて水になる.その過程で1電子還元によりO-2・ ,2電子還元によってH2O2,3電子還元によって・OHが生成する.さらに生体内で発生したフリーラジカルは,高度不飽和脂肪酸のラジカル反応に関与し,脂質ヒドロキシペルオキシド(LOOH)を生じる2)
    2. ラジカル消去能
    これらの活性酸素種は,生体防御において積極的に利用される反面,一方では,高い反応性を有するために,生体内たんぱく質,脂質やDNAなどの生体成分を酸化して,たんぱく質の変性,脂質の過酸化,遺伝子の損傷を引き起こし,種々の疾病の発症に関与していると考えられている.このような酸化傷害から自己を防御するために,生体内では,H2O2はカタラーゼにより不活性化され,LOOHはグルタチオンペルオキシダーゼにより分解され,O-2・ はスーパーオキシドディスムターゼにより不均化されることが知られている3)
    このような生体内防御機構の他に,活性酸素種はアスコルビン酸,トコフェロール,カロテノイド,種々のポリフェノール類等によって消去されることから,植物由来抗酸化成分が,活性酸素が関与する種々の疾患の予防に有効ではないかと期待されている.
    抗酸化成分の作用メカニズムの一つとしてラジカル阻止があげられる.この過程は,以下のような段階を経るものと考えられている4)
    1) ラジカル補足段階 : フリーラジカルに抗酸化物質が水素原子を与え,抗酸化物質がもとのフリーラジカルよりも反応性の低い安定フリーラジカルを形成する段階.
    2) ラジカル終結段階 : 安定フリーラジカルが非ラジカル化合物となりラジカルが消去する段階.
    3. 分析法
    ラジカル消去能を含む抗酸化能をin vitroで測定する方法は,HAT(hydrogen atom transfer水素原子供与)反応,あるいはET(electron transfer電子供与)反応の2つのタイプに大別される.HAT反応に基づく測定法では,ORAC(oxygen radical absorbance capacity)法,TRAP(total radical trapping antioxidant parameter)法が,ET反応に基づく測定法では,DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)法,TEAC(Trolox equivalence antioxidant capacity)法などが代表的である5)
    このうちORAC法の公定法化がAOU(Antioxidant Unit)研究会により検討されているが,DPPH法は,非常に簡便な方法であるため抗酸化活性を有する作物のスクリーニングに広く用いられてきた.筆者らもDPPH法により,種々の宮崎県産農産物の可食部,非可食部150試料の抗酸化活性を測定した結果,茎葉利用カンショ(すいおう)葉,サトイモ(泉南中野早生)果皮,マンゴー(アーウィン)果皮,茶(やぶきた)葉,シソ科ハーブ類のブラックペパーミント,スペアミント,スィートバジル,レモンバーム,ローズマリー,ステビアの葉およびブルーベリー葉が高いラジカル消去能を示した6)
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