小麦澱粉20.6%,糖アルコール14.4%および蒸留水65.0%からなるゲルを調製し,2℃で貯蔵した際の澱粉ゲルの硬化に及ぼす糖アルコールの効果がゲルの硬化とゲル中の水分子の運動性について検討し,次の結果を得た.
1) 糖アルコール添加ゲルの硬化過程は,対照ゲル(小麦澱粉24.1%,蒸留水75.9%)と同様にクリープコンプライアンスが,(1)貯蔵数時間まで指数的に減少する過程(領域I),その後,数時間一定あるいは緩慢に増加または減少する過程(領域II),(3)初期値の延長と見なせる指数的に減少する過程(領域III),最終的にさらに緩慢に減少する過程(領域IV)に分けられた.
2) 領域Iのクリープコンプライアンス初期値は,糖アルコールを添加することによって対照ゲルの値よりも小さくなった.糖アルコールとそれに対応する糖の添加効果を比較すると,一般に糖アルコールの方がクリープコンプライアンスを小さくし,ゲルを硬くした.
3) ゲルの硬化過程において,領域Iと領域IIIの双方の硬化速度を対照ゲルより低下させた糖アルコールは,還元マルトオリゴ糖組成物Aシラップ(主成分は,マルチトール34.0%,マルトトリイトール42.9%),還元イソマルトオリゴ糖組成物シラップ(主成分は,還元コウジビオース10.1%,イソマルチトール26.3%,還元パノース19.1%,イソマルトトリイトール11.0%)であった.還元マルトオリゴ糖組成物Aシラップにおいては,マルトトリイトールが硬化速度を有意に低下させていると考えられた.
4) 領域Iと領域IIIの双方の硬化速度を対照ゲルよりも増加させた糖アルコールは,meso-エリスリトール,D-キシリトール,還元マルトオリゴ糖組成物Bシラップ(重合度1~6の還元マルトオリゴ糖を約10%ずつ含有するもの),D-リビトール, D-アラビトール, D-ソルビトールであった.
5) ゲル中の水分子の運動性を
17O-NMR法によって測定したところ,見かけの横緩和時間(T
2)はmeso-エリスリトール,マルチトール,D-ソルビトール,D-アラビトールの添加よって対照ゲルよりも減少した.また,ゲルを2℃で貯蔵するとT
2は次第に小さくなり,水分子の運動性が徐々に制限されていった.しかし,T
2の経時的変化に対する4種類の糖アルコールの添加効果に顕著な差が見られず,澱粉ゲルの硬化に対する糖アルコールの効果がゲル中の水分子の運動性のみからは説明できなかった.しかし,澱粉の構成単位であるグルコースと糖アルコール分子との複合体形成による澱粉鎖の再配列や凝集・再結晶化の立体障害が考えられた.
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