日本食品科学工学会誌
Online ISSN : 1881-6681
Print ISSN : 1341-027X
ISSN-L : 1341-027X
55 巻, 5 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
報文
  • 広瀬 直人, 氏原 邦博, 照屋 亮, 前田 剛希, 吉武 均, 和田 浩二, 吉元 誠
    2008 年 55 巻 5 号 p. 209-214
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    サトウキビ搾汁液を乳酸発酵させてGABA増強など栄養生理機能付与による,高い機能性を有した乳酸発酵飲料の開発を行い,以下の結果を得た.
    (1)サトウキビ搾汁液を含むサトウキビ乳培地を用いて,GABA生産量と官能評価を指標にスクリーニングした結果,Lactococcus lactis NH-61株を選抜した.培地中のサトウキビ搾汁液濃度を高めると乳酸発酵飲料中のGABA含有量は増加し,脱脂乳の濃度を下げるとGABA含有量が低下することから,培地組成はサトウキビ搾汁液30%,脱脂乳10%が適当であった.乳酸菌スターターの添加量はGABA含有量に大きく影響しなかった.発酵温度は30℃以上が適しており,20℃以下ではGABA含有量が増加しなかった.培養時間は48~72時間が適していた.サトウキビの品種や収穫時期によってGABA含有量は異なるが,サトウキビ乳酸発酵飲料中のGABA含有量には大きな差異は生じなかった.
    (2)サトウキビ乳酸発酵飲料はカリウムやマグネシウム等のミネラルを多く含み,ポリフェノール含有量や抗酸化性も増加した.また,抗変異原性も高い値を示した.
  • 水 珠子, 長尾 慶子
    2008 年 55 巻 5 号 p. 215-223
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    (1) 親水性の食品用乳化剤の一つであるデカグリセリンのラウリン酸エステルを用いて調製した一連のO/W型エマルション,および疎水性の食品用乳化剤であるソルビタンのオレイン酸エステルで調製した一連のW/O型エマルションを試料として,各々の分散液滴の大きさとその分布,流動特性,および熱物性値の測定から計算される熱拡散率を求め,さらに乳化状態における非定常熱移動の測定を行って各試料の諸物性値との関連性を検討した.
    (2)分散液滴の大きさは,常温でエマルションの型や分散液滴濃度にほぼ無関係に負に偏った分布を示すが,その最頻度直径はO/W型で約2.5μm, W/O型で約3.6μmの大きさにある.これらの系は分散液滴濃度の増加とともに塑性流動を示すようになるが,その傾向はW/O型系において著しく,Cassonの降伏値もW/O型系の方がO/W型試料よりも大きい.熱物性値の実測から計算される各試料の熱拡散率は,エマルションの型によらず水分量の増加とともに大きくなる.
    (3)試料エマルション内部の非定常熱流による温度上昇は,これまでに他の食材で観測・解析された指数式で記述することが可能であり,そこに現われる時定数と試料の熱物性値との関連についても検討することが可能であった.しかし,その状況の細部については他の食材系とは必ずしも一致するとは限らず,転相のようなエマルション系に特有の加熱中に生じる現象の影響等も考慮しなければならないと考えられる.
  • 肥後 温子, 和田 淑子
    2008 年 55 巻 5 号 p. 224-232
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    増粘性を異にする加工小麦デンプン5種を用いた生地を焼成し,吸湿保存下におけるテクスチャー変化を調べた.一方で,粘度,膨潤度,デンプン溶出率,α化度の糊化関連値および硬化点の水分量,水分活性を測定し,変化要因を検討した.
    (1)糊化促進性のある加工小麦デンプンを用いたクッキーと加水量を増やして焼成したクッキーは焼成時から硬く,吸湿によってさらに強靭な硬さとなった.
    (2)破断物性値と糊化関連値(粘度,膨潤度,デンプン溶出率,α化度)との間には高い正の相関が認められ,硬化要因として糊状物質の充填補強効果が示唆された.
    (3)糊化促進した試料は,吸湿時の硬化点が高湿度側へと移行し,硬化領域が拡大することがわかった.また硬化した試料は含水量が多い割に水分活性が低かった.
    以上,デンプンの糊化特性が焼成品のテクスチャー変化と密接に関係していることが裏付けられたが,水の状態変化を考慮しないと説明できない部分もあった.
  • 若松 大輔, 森村 茂, 今井 貴士, 湯 岳琴, 前田 浩, 木田 建次
    2008 年 55 巻 5 号 p. 233-238
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    菜種原油からラジカル捕捉活性物質であるCanololを効率的に回収し,精製油に添加することで機能性の優れた新規菜種油を製造することを試みた.Canololの回収法については,回収率が高くリン脂質などの不純物の混入が少ない水蒸気蒸留が適していることがわかった.Canololを高濃度に含む焙煎菜種原油から水蒸気蒸留により回収したものを菜種精製油に添加し評価した結果,酸化安定性および熱安定性は優れていたが,光安定性に若干の問題点があることがわかった.味や香りに関しては,独特の焙煎臭が感じられるが,特に悪いと感じるものではなかった.上述したように揚げ物用油としての可能性のほかに,風味を生かしたテーブルオイルとしての利用にも期待がもたれた.
技術論文
  • 菅原 哲也, 五十嵐 喜治
    2008 年 55 巻 5 号 p. 239-244
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    山形県農業生産技術試験場の圃場にて栽培されている甘果オウトウ13栽培品種について,主要なアントシアニンを同定・定量するとともに,アントシアニン含有量とアントシアニンと同じ糖構造を有するフラボノイド(ルチン)含有量との関係を明らかにした.
    果皮・果肉が赤い甘果オウトウである‘紅さやか’のアントシアニンを同定した.果実から5%酢酸にてアントシアニンを抽出し,ダイヤイオンHP20,セファデックスLH20カラムクロマトグラフィー,HPLCにてアントシアニンを精製した後,アントシアニンの化学構造をHPLC, ESI-MS, 1H, 13CNMRにて同定した.‘紅さやか’には,5種の主要なアントシアニンが含まれ,主要成分としてシアニジン-3-ルチノシド及びシアニジン-3-グルコシドが同定され,ペオニジン-3-ルチノシド,ペラルゴニジン-3-ルチノシド,シアニジン-3-ソフォロシドが微量成分として同定された.日本で栽培される主要な甘果オウトウ果実(7栽培品種)のシアニジン-3-ルチノシド濃度は検出限界以下から73.8mg/100g(新鮮重)であり,‘紅さやか’の含有量が最も高い値を示した.オウトウ果実のフラボノイドとして,ルチンが検出され,その含有量は0.7-8.7mg/100g(新鮮重)であった.甘果オウトウ(13栽培品種)において,アントシアニンの主要成分であるシアニジン-3-ルチノシド含有量とルチン含有量との間には高い相関(R2=0.97)が見られた.
研究ノート
  • 物部 真奈美, 山本(前田) 万里, 松岡 由記, 金子 明裕, 平本 茂
    2008 年 55 巻 5 号 p. 245-249
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    小麦ふすまから抽出したアラビノキシランの免疫賦活活性をマクロファージ様に分化させたヒト白血病細胞株HL60細胞の貪食活性を指標に検討した.本研究で得られた小麦ふすまアラビノキシランの活性は米糠およびとうもろこし由来アラビノキシランに比べ有意に高く,さらに,小麦ふすまアラビノキシランの活性を分子量別に調べた結果,その活性は分子量5kDa以上の高分子分画によりもたらされていることが明らかとなった.本研究で得られた小麦ふすまアラビノキシランは,食餌性高分子アラビノキシランの腸管免疫に対する影響を調べる上で有効な素材になると考えられる.
  • 鈴木 彌生子, 中下 留美子, 赤松 史一, 伊永 隆史
    2008 年 55 巻 5 号 p. 250-252
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    コメの産地偽装問題が起きており,コメの産地を科学的根拠に基づいて判別する技術が必要とされている.本研究は,日本産,豪州産,米国産コシヒカリを用いて,炭素・窒素・酸素安定同位体比解析を行い,安定同位体比解析によるコメの産地判別の可能性を検証した.解析の結果,日本産のコメの安定同位体比は,平均値で,炭素では米国産よりも0.7‰,窒素では豪州産よりも3.8‰低く,酸素では豪州産と米国産よりもそれぞれ12.6‰,3.5‰低い値を示した.安定同位体比から,日本産のコメは,他国産のコメと識別できることが明らかになった.安定同位体比解析は,DNA判別や微量無機元素測定などの他の技術と相補的に利用すれば,強力な産地判別技術になる可能性がある.
  • 伊澤 華子, 吉田 望, 白貝 紀江, 青柳 康夫
    2008 年 55 巻 5 号 p. 253-257
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    豆類41種類の熱水抽出液のACE阻害をスクリーニングしたところ,ナタマメを除きいずれも強いACE阻害を示した.IC50値の比較ではササゲ属が他の属に比較して阻害力が弱い傾向が見られた.
    豆類のニコチアナミン量は,絹さや(生)で77.0mg/乾物100gと最も多く,インゲン属,ダイズ属,エンドウ属などでは,ほとんどが30~55mg/乾物100gと豊富に含まれていた.属間の比較では,ササゲ属はエンドウ属(p<0.05),インゲン属,ダイズ属(p<0.001)と比較して有意にニコチアナミン量が少ないことが示された.
    豆類抽出物のACEに対するIC50値はニコチアナミン量と相関があることが示された.また,そのときの抽出物中ニコチアナミンの存在量は,ニコチアナミン標品のIC50値と一致していた.このため,豆類熱水抽出物のACE阻害は,ほぼニコチアナミン単独で発現しているものと推測された.
技術用語解説
  • 橋本 堂史
    2008 年 55 巻 5 号 p. 258
    発行日: 2008/05/15
    公開日: 2008/06/30
    ジャーナル フリー
    細胞は外部からの刺激を細胞内に取り込み,細胞内シグナル伝達経路を介してさまざまな生命活動をおこなっている.MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase, MAPK)・カスケードは細胞の増殖,分化,死,ストレス応答など多くの細胞機能の制御に関わり,酵母から高等植物や哺乳動物に至るまで高度に保存された細胞内シグナル伝達経路である.
    MAPキナーゼファミリーは,後述のように主に3つに分類できる.ERK(extracellular signal-related kinase),JNK(c-Jun N-terminal kinase),およびp38である.MAPキナーゼの活性化には,そのリン酸化が必要であり,MAPKキナーゼ(MAPKK)によってスレオニン残基(T)とチロシン残基(Y)がリン酸化されるが,ERKではThr-Glu-Tyrモチーフ,JNKではThr-Pro-Tyrモチーフ,p38ではThr-Gly-Tyrモチーフにおいてリン酸化を受けることが知られている.MAPKキナーゼはその上流のMAPKKキナーゼ(MAPKKK)によってリン酸化を受けることで活性化される.このように細胞内シグナル伝達経路がMAPKKK→MAPKK→MAPKといった滝のように進むことから,MAPキナーゼ・カスケードと呼ばれている(図1).
    ERKは最初に報告されたMAPキナーゼであり,狭義にはERKをMAPKと呼ぶこともある.上皮細胞増殖因子(epidarmal growth factor, EGF)などの増殖因子がチロシンキナーゼ型受容体に結合すると低分子Gタンパク質RasがGTP結合型になり,MAPKKKであるRafを活性化し,RafはMAPKKであるMEK(MAPK/ERK kinase)をリン酸化,さらにMEKがERKをリン酸化する.ERKは転写因子であるElk-1などを活性化することで細胞増殖に関わる.
    JNKは,SAPK(stress-activated protein kinase, SAPK)とも呼ばれ,紫外線や熱ショックなどの細胞ストレスやTNF-αやインターロイキン1などの炎症性サイトカインにより活性化するキナーゼである.このような刺激により活性化した低分子Gタンパク質であるRacやcdc42はPAK(p21-activated kinase)を活性化し,順にMAPKKKであるMEKK(MEK kinase),MAPKKであるMKK4(MAP kinase kinase 4)やMKK7,次いでMAPKであるJNKが活性化される.活性化されたJNKは転写因子のc-junやATF-2のN末端をリン酸化することで,ストレス応答やアポトーシスなどを引き起こすことが知られている.
    p38は最も新しいMAPキナーゼであり,JNKと同様にストレスや炎症性サイトカインにより活性化するキナーゼである.MAPKKKであるTAK(transforming growth factor-activated kinase)が活性化を受けると,MAPKKであるMKK3やMKK6が活性化され,これらのキナーゼによりp38はリン酸化をうける.活性型p38はATF-2などの転写因子をさらに活性化することで遺伝子発現を誘導することが知られている.
    多くの食品成分がMAPキナーゼ・カスケードに影響を及ぼすことが報告されている.最近,我々は褐草類に含まれるカロテノイド,フコキサンチンがヒト肝がん由来HepG2細胞に対してERKおよびp38の活性化を伴ったアポトーシスを誘導することを明らかにした.ERKとp38の活性化がアポトーシスに関与しているかどうかは不明であるが,細胞増殖と細胞死のシグナルが同時に流れていることは興味深い.最近ではMAPキナーゼ・カスケードの経路間や他の細胞内シグナル経路とのクロストークに関する研究もおこなわれており,今後,食品成分とMAPキナーゼ・カスケード,さらにその細胞内シグナル経路のクロストークに関する研究の行方について注目していきたい.
feedback
Top