日本食品科学工学会誌
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58 巻, 6 号
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報文
  • 春日 敦子, 青柳 康夫
    2011 年 58 巻 6 号 p. 229-235
    発行日: 2011/06/15
    公開日: 2011/07/31
    ジャーナル フリー
    大豆の浸漬水温の違いによる吸水時間と吸水量の関係を明らかにし,浸漬水温,浸漬時間,加熱時の昇温速度がイソフラボン含量に及ぼす影響を検討した.
    (1)平衡吸水量に到達するまでの時間は水温が60℃ではおよそ2時間,40℃では6時間,20℃では17時間であり,5℃では24時間の浸漬でも吸水量が平衡に到達しなかった.
    (2)浸漬水温がイソフラボン組成に与える影響は,浸漬時間が12時間では,5, 20, 30℃では浸漬によるイソフラボン組成の変化は浸漬前と比較してほとんど認められなかったが,40℃ではマロニル化配糖体が13%減少しアグリコンが僅かに増加,60℃ではマロニル化配糖体が54%減少し,アグリコンのダイゼインは10倍,ゲニステインは12倍に増加した.さらに60℃ではアグリコンの生成以外に,グリコシド配糖体であるダイジンとゲニスチンが浸漬前と比較してそれぞれ2.5倍に増加した.浸漬時間が24時間と長くなると,さらに前述の増減が著しくなった.
    (3)60℃ 1時間加熱と昇温2℃/minのイソフラボン組成は,加熱前と比較してマロニル化配糖体が僅かに減少し,その分アグリコンが増加していた.一方昇温速度が9℃/minと30℃/minは,マロニル化配糖体が加熱前と比較して昇温9℃/minでは38%減少,昇温30℃/minでは40%減少し,グルコシド配糖体はいずれも加熱前の2倍に増加した.
    以上のことより,「低温で充分吸水後に,60℃程度の低温加熱を保持」することでアグリコンを多く生成させることが可能となる.さらに「昇温速度を速くする」加熱がマロニル化配糖体を少なくする方法と思われる.
  • 岩附 聡, 木島 佳子, 塩野谷 博
    2011 年 58 巻 6 号 p. 236-244
    発行日: 2011/06/15
    公開日: 2011/07/31
    ジャーナル フリー
    ヒト病原菌に対する抗体の摂取により,腸内細菌叢の改善が期待できるが,その情報は乏しい.我々は,ヒト病原菌に対するミルク由来の自然抗体を多く含む乳清蛋白を中高年健常人ボランティアに投与し,糞便細菌叢の変化をT-RFLP法とFISH法により解析した.T-RFLP法では,腸内細菌は29のOTU(菌の分類群)に分けられ,ミルク抗体の3週間の摂取により減少した菌はOTU369(クロストリジウムクラスターIV),OTU469(バクテロイデス),OTU853(バクテロイデス)であった.また,増加した菌はOTU366(バクテロイデス),OTU443(菌名未定),OTU995(クロストリジウムサブクラスターXIVa)で,ビフィズス菌,乳酸桿菌その他には影響が見られなかった.FISH法による解析は,ミルク抗体の影響を8週にわたり行った.全細菌数およびビフィズス菌には影響しなかった.大腸菌,ディフィシル菌,ウエルシュ菌は減少したのに対し,バクテロイデスとプレボテーラ,フラジリス菌,乳酸桿菌は増加した.ミルク抗体の糞便中への回収を測定すると,摂取したミルク抗体320mgの800μg (0.24%)が糞便中に回収された.ミルク抗体による腸内細菌叢への影響をエンドトキシンのトランスロケーション,関節リウマチの改善作用との関係について考察した.
    本研究を行うにあたり,WPCの自然抗体の研究にご協力いただきました女子栄養大学衛生学教室桑原祥浩教授・上田成子教授,本論文の作成にご助言いただきましたChondrex Inc. 寺戸国昭博士,また,本研究に参加していただいたボランティアの皆様に感謝申し上げます.
  • 中村 昌宏, 山城 陽一, 小西 照子, 花城 勲, 田幸 正邦
    2011 年 58 巻 6 号 p. 245-251
    発行日: 2011/06/15
    公開日: 2011/07/31
    ジャーナル フリー
    沖縄県北中城村で養殖されているヒトエグサ(Mono-stroma nitidum)より多糖を抽出し,化学および構造特性を明らかにした.精製多糖の全糖量,ウロン酸含有量,灰分,水分および硫酸含量はそれぞれ67.2%,11.8%,27.3%,3.5%および24.7%であった.加水分解物の液体クロマトグラフィーの結果より,L-ラムノースを主構成糖とする多糖であることが確認された.化学分析の結果よりラムナン硫酸の構成糖と硫酸基の比はL-Rha : D-GlcA : D-Xyl : D-Glc : D-Gal : SO3=7.0 : 1.0 : 0.5 : 0.1 : 0.5 : 5.0と算出された.
    また,メチル化分析により2, 3,4-トリ-O-メチル-D-グルクロン酸, 3, 4-ジ-O-メチル-L-ラムノース, 2, 4-ジ-O-L-ラムノース, 2-モノ-L-ラムノースおよび4-モノ-O-メチル-L-ラムノースを同定した. 1Hおよび13C-NMRスペクトルよりL-ラムノースとD-グルクロン酸の存在が確認され,養殖ヒトエグサより分離した多糖はラムナン硫酸であると同定した.
    メチル化分析および1H-NMR解析により,養殖ヒトエグサより分離したラムナン硫酸の化学構造は,α-1, 3結合のL-ラムノースを主鎖とし, 側鎖にα-1, 2結合のL-ラムノース(2モル)およびD-グルクロン酸(1モル)が置換することが考えられた. また, 硫酸基はL-ラムノース残基のC4(主鎖)とC2(側鎖)に置換することが明らかになった.ラムナン硫酸の化学構造を推定した.
  • 加藤 愛, 小谷 幸敏, 島田 宏美, 佐々木 朋子, 早川 文代, 神山 かおる
    2011 年 58 巻 6 号 p. 252-258
    発行日: 2011/06/15
    公開日: 2011/07/31
    ジャーナル フリー
    テラピアのウロコから抽出した高分子量および低分子量の2種類のフィッシュコラーゲンペプチドやゼラチンを添加することによる,コンニャクグルコマンナンとκ-カラギーナンの混合ゲルの物性に対する影響について検討するため,押し出し試験,動的粘弾性,咀嚼筋筋電位を測定した.
    フィッシュコラーゲンペプチドを添加したグルコマンナンとκ-カラギーナン混合ゲルは,フィッシュコラーゲンペプチドの分子量に関係なく,添加量が終濃度0.8%未満であれば,ゲルの破断荷重は上昇し,終濃度0.8%になると,ゲルの破断荷重が減少した.
    また,ゼラチンを終濃度0.8%添加したゲルは,破断荷重,破断歪率は高いが,ゲルの融解点が低下した.
    押し出し試験において,唯一壊れやすい性質を示した高分子量のフィッシュコラーゲンペプチドを終濃度0.8%になるように添加したゲルのみ,咀嚼筋筋電位で有意に低い値を示した.
    以上により,グルコマンナンとκ-カラギーナンの混合系に,高分子量のフィッシュコラーゲンペプチドを添加することにより,口腔内で融けることはないが咀嚼しやすいゲル,ゼラチンを添加することにより口腔内で融け出しやすいゲルを調製できることが示唆された.
    本研究の一部は農林水産省委託実用技術開発事業22026の助成を受けて行われた.
研究ノート
  • 小泉 鏡子, 中下 留美子, 鈴木 彌生子
    2011 年 58 巻 6 号 p. 259-262
    発行日: 2011/06/15
    公開日: 2011/07/31
    ジャーナル フリー
    本研究では,炭素・窒素安定同位体比分析によるしらす干しの原料原産地判別の可能性について検討した.国産しらす干しの炭素・窒素安定同位体比を用いてクラスター分析を行ったところ,国内9産地を九州,瀬戸内海東部から太平洋沿岸,瀬戸内海西部の3つのグループに分類することが出来た.各グループのδ13C・δ15N値を比較すると,δ13C値は九州地方(-16.9±0.3‰,平均±標準偏差)および瀬戸内海西部地方(-17.2±0.4‰)が瀬戸内海東部から太平洋沿岸地方(-18.9±0.6‰)より有意に高く,δ15N値は瀬戸内海西部地方(12.5±0.6‰)が九州地方(10.1±0.6‰)および瀬戸内海東部から太平洋沿岸地方(10.4±0.9‰)より有意に高かった.輸入しらす干しについては,δ13C値は中国産しらす干し(-16.5±0.3‰)が国産(-18.2±1.0‰),韓国産(-18.2±0.2‰)よりも有意に高い値を示し,δ15N値は中国産(8.0±0.3‰)が国産(10.6±1.3‰),韓国産(10.8±0.2‰)よりも有意に低い値を示したが,国産と韓国産の間には炭素・窒素安定同位体とも有意差は見られなかった.以上の結果から,養殖ではなく天然海域で漁獲された水産物の加工品であるしらす干しにおいても安定同位体比分析による原料原産地判別の可能性が示唆された.
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