市場に流通している生しょうゆと火入れしょうゆの官能的な品質の違いを客観的に示すことを目的として,異なるメーカーで製造された市販の生しょうゆおよび火入れしょうゆ6対,計12銘柄のQDA (Quantitative Descriptive Analysis)による詳細な分析を行った.また,得られたQDAの結果と過去の知見11) を統合し,日本のしょうゆから見出される91種の特性をフレーバーホイールとして体系化した.さらに,これらの過程で以下の知見を得た.
(1) 12銘柄の生しょうゆおよび火入れしょうゆは48種の官能特性を呈した.これら特性のうち,13種は本研究が初めての報告であり,エステル系の特性や穀物系の風味,グリーンな香りが多いことを特徴とした.
(2)生しょうゆは,火入れしょうゆと比較して,甘味,旨味に加え,大豆の風味が強いという特徴を有した.その一方で,火入れしょうゆは苦味,渋味·えぐ味,後味の苦味が強かった.
(3)今日,日本で市販されている多くのしょうゆは20∼25種の共通する特性を有した.しょうゆの品質評価においては,それぞれのしょうゆに特徴的な特性を見出すだけでなく,基本的な特性のバランスの評価が重要と考えられた.
なお,しょうゆや和食に対する嗜好性の確立や継承にしょうゆの苦味が与える影響の評価,および生しょうゆと火入れしょうゆの旨味の差異に対するメイラード物質の寄与の評価は,今後の課題と考えられる.
本研究では,乳酸菌を対象としたPCR-RFLP法によるジェノタイピングを検討した.16S rDNA配列を4塩基認識の制限酵素8種(AccII,AfaI,HaeIII,HhaI,MboI,MspI,TaqI,XspI)でそれぞれ処理した際に生じる制限酵素断片化パターンを解析し,それぞれの断片化パターンを組み合わせて評価することで99種の乳酸菌から82のジェノタイプが得られることを明らかにした.2種のみ制限酵素を組み合わせて評価したジェノタイプ数は,XspIとMspIを用いた場合が最も多く,99種の乳酸菌から65のジェノタイプが得られた.また,そのうち52種は特定の乳酸菌特異的なジェノタイプであることを明らかにした.XspIとMspIを用いたPCR-RFLPで決定したジェノタイプのうち92.3%が系統分類学的に妥当に分類されていた.また,乳酸菌20種を用いて実際にPCR-RFLP解析を行い,シミュレーション通りの分類が可能であることを確認した.これらの結果は乳酸菌のジェノタイピングや同定,そしておおよその分類においてPCR-RFLP法の有効性を示すものである.
低たんぱく米およびでんぷん米では,保存方法や加水量が普通米と異なっている.そこで,米の水分含有率を測定し,組織構造を観察した.炊飯米にした場合の調理特性および食味特性を捉えることを目的とした.
1)低たんぱく米およびでんぷん米の加水量と保存方法は,水分含有率が関与していた.
2)加水量の違いは,炊き上がり重量に影響した.このことは,炊飯米の栄養量に影響を及ぼす.
3)低たんぱく米は,サブアリューロン層が薄く,胚乳部のデンプン細胞の明瞭さは,試料によって異なっていた.これは,加工による違いと考えられた.また,でんぷん炊飯米のおねば層は,観察されなかった.
4)低たんぱく炊飯米のテクスチャーでは,普通炊飯米と比較して,凝集性が高い傾向を示したが,硬さと付着性に有意差はなかった.でんぷん炊飯米は硬さと凝集性が有意に高く,付着性が有意に低く,普通炊飯米に比べて,異なっていた.
5)低たんぱく·でんぷん炊飯米の分析型官能評価は,香り,硬さ,甘味,うま味の項目では有意差はなかった.総合評価では,でんぷん炊飯米の評価が有意に低く好まれなかった.
6)安価で給食施設で利用したいでんぷん米は,食味やテクスチャーを改善する必要があると考える.
日本人の主食である米を,遠赤外線放射セラミックス粉末でコーティングした炊飯釜(セラ釜)で,水道水を用いて炊飯し,含水量と米の糖度への影響を調べた.その結果,セラミックス粉末をコーティングしていない対照釜と比較し,含水量に変化は見られないものの糖量の増加が見られた.この時,浸漬時間により,増加する糖の種類に違いがあり,浸漬しない場合には,セラ釜を用いた米飯で全糖量が約1.4倍になったが,米の重要な甘味成分であるグルコースは増加しなかった.しかし,30分浸漬した場合には,全糖量に大きな違いが見られなかったものの,セラ釜を用いた米飯でグルコースが約1.3倍になった(有意差無し).以上の結果から,セラ釜での炊飯は,炊飯条件を検討することで食味向上につながる可能性が示唆された.
セラ釜に1時間静置した純水は,対照釜で同様の処理を行った純水に比べ,蒸発速度が遅くなり,水の物理化学的性質に違いが生じている可能性が明らかになった.しかし,水道水では蒸発速度に差が見られなかったため,純水の結果との対応関係は今後の課題となった.
また,米から抽出した粗酵素をセラミックスで処理すると,50°C付近で,デンプンをグルコースに分解する酵素の活性が上昇した.炊飯中の温度変化には釜による差が見られなかったため,酵素活性の上昇が糖量の増加につながっている可能性が示唆された.
納豆発酵過程での香気成分変動を明らかにするため,納豆菌接種前の煮豆および接種後3,7,12,18時間の納豆をサンプリングし,香気成分をGC/MSシステムによって分析した.香気成分一斉分析用に開発されたソフトウェアMetAlignおよびAIoutput2を用いてデータ解析した結果,38種の香気物質が同定あるいは推定された.この内23種は納豆菌接種前の煮豆からも検出された.煮豆に存在した成分のうち6種は発酵が進むにつれて減少あるいは消滅し,12種については発酵過程での変動は小さく発酵前後での違いが顕著ではなかった.5種は納豆発酵中に増加した.納豆の主要な香気成分であるピラジン類や短鎖分岐鎖脂肪酸を含む12種の香気成分は納豆菌の増殖が定常期に達した頃(12時間後)に急激な上昇が見られた.
Kagoshima no Tsubozukuri Kurozu was registered with the Japan Geographical Identification (GI) system on December 22, 2015. Kagoshima no Tsubozukuri Kurozu is a type of rice vinegar from Kagoshima Prefecture in southern Japan that is produced using a traditional method that has been handed down from one generation to the next. Tsubo and Kurozu are translated as earthen pots and black vinegar, respectively. The origin, history, and quality of GI-certified Kagoshima no Tsubozukuri Kurozu are reviewed herein.