「水」と一口に行っても,水にはいろいろな状態の水が存在する.通常の一般的な化学では,物質の3態について学ぶことが多いと思われるが,それ以外の状態も存在する.
例えば,図1に示したように,水は374.2℃で22.06MPa(メガパスカル)で,液体と気体の中間の密度(0.323g/cm
3)を持つ流体となる
1).この流体は常温の水とは,全く異なる性質の溶媒(超臨界水)となる.超臨界水は気体並みの大きな分子エネルギーを持ち,常温での水のように高密度の高活性流体である.超臨界水中では反応速度が大幅に増大することが期待される.
超臨界水の誘電率およびイオン積を図2に示した.超臨界状態の水の誘電率は無極性の有機溶媒であるクロロフォルムやエチルエーテル並みの5-10の誘電率となる.つまり,通常では水に溶けないものが,超臨界水には非常に良く溶けることになる.また,水のイオン積は常温常圧下では1×10
-14(mol/L)
2であるが,250-350℃付近では増大して1×10
-11(mol/L)
2となる.この時の水素イオン濃度は3×10
-6mol/Lとなり,常温における値から約30倍増加する
2).このように,水でありながら,常温の水とはかけ離れた性質を持つ流体は,様々な分野での応用が期待されている.しかしながら,超臨界状態を誘起するための条件は過酷であり,また反応性に富むために反応容器として使える材質も限られている(非常に高価なチタンやハステロイなど).
そこで,近年もう少し条件の緩和な亜臨界水やさらに低い高温高圧の水を用いる研究が活発に行われるようになった.
高温高圧の水について,どこからどこまでが水熱反応と呼ぶかという定義は厳格に定められているわけではないが,一般には食品類の加工に用いる温度圧力からもう少し高い状態までをいう.230℃までは,ステンレスで対応できるため,水熱反応は汎用性が高い.このような状態でも,水の誘電率は半分以下であり,またイオン積が高く酸触媒反応の効果が高いことが知られている.近年では,このような性質を活かして,従来分解しにくかった植物細胞壁の分解などに利用されている.特に,環境問題からバイオマスへの水熱反応の利用は注目されてきており,この分野での研究が盛んに行われている.また,有機質の廃棄物処理の分野でも応用が期待されている.その他,高い反応場を利用した物質の合成などの研究もなされている.
研究の段階を出ていないものも多いが,将来実用化されるものが出てくることが期待される.そのためには,用いる素材と条件の最適化,および副反応を抑える技術開発が必要と考えられる.
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