日本食品科学工学会誌
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56 巻, 9 号
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報文
  • 奈賀 俊人, 隅谷 栄伸
    2009 年 56 巻 9 号 p. 469-474
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    レモンやカボスなどの香酸柑橘果汁飲料において生じた急速に進行する光劣化異臭の生成機構を解明するため試験を行った.クロロフィル類の存在により光劣化異臭の生成が促進されたことより,クロロフィルが光増感物質として促進作用を示していることが分かった.クロロフィルの光増感作用は濃度依存性があり,柑橘果汁中にサブppmオーダーでも存在すると光劣化異臭生成リスクが高まると考えられた.酸性条件下でpHの影響を調べたところ,クロロフィルの光増感作用はpH依存性があり,強酸性領域でクロロフィルの光増感作用は強くなり,弱酸性領域では光増感作用は非常に弱いことを示した.
    以上のことから,柑橘果汁製品に透明容器を使用する場合クロロフィルの混入をできるだけ避けることが望ましく,pHが低めに設定される製品ではクロロフィル濃度を減らす方法を検討しなければならない.また,クロロフィルが存在しても酸化に対して安定な領域も存在し,光劣化防止のためには柑橘果汁のpHを高くして保存することが有効であると認められた.以上より光劣化異臭を防止するために,製造時に果汁中のクロロフィル類の量とpHを厳格に管理することが求められる.
  • 木島 佳子, 岩附 聡, 赤松 裕久, 寺戸 国昭, 桑原 祥浩, 上田 成子, 塩野谷 博
    2009 年 56 巻 9 号 p. 475-482
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    ウシ生乳に含まれる抗体の有効利用を目的として,乳清(ホエー)のタンパク部分を濃縮して得られた乳清タンパク濃縮物(WPC)に含まれる抗体量およびその特異性を調べた.
    ヒト由来病原菌33種とエンドトキシン,エンテロトキシン,lipid Aなど5つの細菌毒素を指標に抗体の検出と定量を試みた.その結果,33種の細菌と5種の細菌毒素全てに対する抗体が検出された.このことは,今回の抗体検索に用いなかった細菌や毒素に対する抗体も含まれる可能性を示唆した.また,細菌菌体による吸収試験から,WPCには複数の細菌に対して広範に反応し得る抗体が含まれることが明らかとなった.
    以上,ウシの乳に含まれる抗体を利用するに当たり,ウシに病原微生物による免疫を施さなくても,WPC中にはヒト病原菌に対する抗体が含まれることを示した.しかし,WPC中の総IgG含有量は必ずしも個々のヒト病原菌に対する抗体量とは相関しなかったことから,ヒトの健康への寄与を意図してWPCを使用するためには,目的とする細菌や毒素に対する個別の抗体量を把握することが重要と考えられた.
  • 木村 英人, 小川 智史, 新見 愛, 地阪 光生, 勝部 拓矢, 横田 一成
    2009 年 56 巻 9 号 p. 483-489
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    トチノキ種皮からの熱水抽出物をDiaion HP-20カラムとChromatorex ODS 1024Tカラムで分画した後,Sephadex LH-20のカラムクロマトグラフィーで3つの画分,すなわちF1,F2,F3に分離した.それぞれの画分について消化酵素のリパーゼに対する阻害活性を測定した.その阻害活性は,平均分子量13000のF2と31000のF3に回収された.F2より高分子のF3の方が強い阻害活性を示した.F2とF3は,B-タイプとA-タイプのインターフラバン結合を有するプロアントシアニジンである.プロアントシアニジン類を含む画分を用いて,マウスによる油脂負荷試験を行った結果,マウス体重1kgあたり200mgおよび500mg投与したところ,無投与群に対して有意に血中トリアシルグリセロール濃度の上昇を抑制した.同様のプロアントシアニジン類の標品を用いて単回投与毒性試験を行った結果,最小致死量は2000mg/kg以上であることが確認された.肝毒性の指標である血中のGOTとGPTの測定結果は,異常な値を示さなかった.以上より,トチノキ種皮に豊富に存在する高分子プロアントシアニジン類は,動物体内の消化管におけるリパーゼ活性阻害による脂肪吸収抑制を目的とした健康食品素材として期待できる.
技術論文
  • 小松 恵徳, 中岡 明美, 大森 敏弘, 田口 智康, 玉井 茂, 豊田 活
    2009 年 56 巻 9 号 p. 490-494
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    従来のクリームの製造における分離・殺菌工程に,原料乳のナノろ過(NF)と脱酸素を組み合わせることで新規なクリームを開発した.脱酸素はNF処理乳に窒素ガス分散処理(NT)することにより行った.NFNT処理乳から分離したクリームをUHT処理してNFNTクリームを得た.
    NFNTクリームの風味は強いミルク風味とすっきりした後味を特徴とし,従来のUHT処理クリームとは異なることが官能検査パネルの評価で明らかとなった.また,NFNTクリームは加熱を受けた卵黄など,クリーム以外の食品素材の不快臭をマスクすることが見出された.NFNTクリームの化学的組成からもミルクの香味が強化されていることが示された.UHT前にクリームを脱酸素することで香味の望ましくない酸化を抑制してすっきりした後味に寄与していると考えられた.NFNTクリームのマスキング効果は脱酸素UHT殺菌工程との関連が想定されるが,原因の解明を今後進めていく必要がある.
研究ノート
  • 中下 留美子, 鈴木 彌生子, 一宮 孝博, 伊永 隆史
    2009 年 56 巻 9 号 p. 495-497
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    日本国内で主に流通している国産養殖ウナギと輸入(中国産・台湾産)養殖ウナギの産地判別の可能性を検討するため,炭素・窒素・酸素安定同位体比を測定した.その結果,炭素および窒素同位体比は,国産ウナギ(δ13C=-17.6±0.6‰(平均値±標準偏差),δ15N=+16.4±0.7‰)は,台湾産(δ13C=-20.5±0.7‰,δ15N=+13.2±1.6‰)および中国産(δ13C=-21.4±0.5‰,δ15N=+14.3±0.9‰)よりも有意に高い値を示し,餌の違いを反映していると考えられた.また,酸素同位体比は,生育水の違いを反映して,国産ウナギ(+7.4±1.4‰)が,中国産(+11.1±0.9‰)および台湾産(+10.0±1.3‰)よりも有意に低い値を示した.以上のことから,炭素・窒素・酸素安定同位体比により国産養殖ウナギと輸入養殖ウナギとの産地判別の可能性が示唆された.
技術用語解説
  • 都築 和香子
    2009 年 56 巻 9 号 p. 498-499
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2009/10/31
    ジャーナル フリー
    バクセン酸は,一価不飽和脂肪酸(モノエン酸)の1種で,炭素数18個,炭素鎖11位と12位の間にひとつの二重結合(不飽和結合)があり,その結合がトランス型である.IUPAC名は,(E)-11-オクタデセン酸で,trans-11, 18 : 1と表記する.バクセン酸の幾何異性体(二重結合がシス型の異性体)であるシス-バクセン酸は,IUPAC名は,(Z)-11-オクタデセン酸で,cis-11, 18 : 1と表記する.シスバクセン酸に対して,通常のバクセン酸をトランスバクセン酸と区別する場合もある.
    炭素数18個のモノエン酸として知られているオレイン酸(cis-9, 18 : 1)と,バクセン酸との分子構造関係は,図1に示した.オレイン酸のように,モノエン酸の二重結合がシス型の場合,分子の立体構造がその部分で屈折する.一方,モノエン酸の二重結合がトランス型の場合,分子全体の構造は,飽和脂肪酸のような直鎖状になる(図2参照).分子の立体構造の違いは,その分子の物理化学的特性にも影響を与える.例えば,二重結合がシス型のオレイン酸の融点は,約14℃であるが,二重結合がトランス型のバクセン酸やエライジン酸の融点はそれぞれ44℃,47℃で,分子の立体構造が屈折したオレイン酸の融点よりは高くなり,むしろ飽和脂肪酸であるステアリン酸(18 : 0)の融点(69℃)に近づく.この他にも,バクセン酸やエライジン酸は,極性有機溶媒に対する溶解度がオレイン酸より小さく,この特性は,脂肪酸分別法で利用されている.
    バクセン酸は,1928年に動物油脂から見つけられ,ラテン語のvacca(ウシ)から命名された.バクセン酸は,二重結合がトランス型であるため,トランス脂肪酸に分類される.ヒトを含む大部分の生物は,二重結合がシス型の不飽和脂肪酸しか合成することができないため,ヒトはバクセン酸を生合成することはできない.ヒトのバクセン酸の摂取源は,主として次の2通りある.ひとつは,反芻動物由来の肉,乳製品である.ウシやヒツジ等の反芻動物の胃内に寄生する微生物は,シス-トランスイソメラーゼという特殊な酵素を有し,シス型の不飽和脂肪酸から,トランス型の不飽和脂肪酸を生成できる.その宿主であるウシやヒツジの肉,乳製品には,トランス脂肪酸が2~8%含まれているが,トランス脂肪酸の中ではバクセン酸が主成分で,肉類のトランス脂肪酸のうちの約60%近くを占める場合もある1)
    もうひとつのバクセン酸の摂取経路は,部分水素添加油脂からである.油脂への水素添加とは,本来,油脂を構成する脂肪酸の二重結合部分に水素を付加させ,不飽和脂肪酸量を減少させる加工技術であるが,この加工法の副産物として,トランス結合が炭素鎖の5位から16位までの様々なモノエン酸のトランス脂肪酸異性体が生成する.水素添加加工中にトランス脂肪酸のひとつとしてバクセン酸も生成するが,その含有量は水素添加の加工法に依存して変化する.部分水素添加油脂は,ショートニング,マーガリンや揚げ油など様々な加工食品に使用されているので,部分水素添加油脂由来のバクセン酸も摂取することになる.
    過去の疫学的調査研究等の結果から,トランス脂肪酸の過剰摂取は,動脈硬化などによる冠動脈性心疾患のリスクを高めることが判明し,各国は,トランス脂肪酸の摂取低減に向けて動き出している.日本では,トランス脂肪酸の平均的摂取量が国際機関の推奨範囲内にあったため,トランス脂肪酸摂取に対する具体的な規制措置は行われていない.バクセン酸はトランス脂肪酸のひとつで,食品に含まれるトランス型不飽和脂肪酸はバクセン酸以外にも多種あるが,個々のトランス脂肪酸を区別してヒトの健康障害に与える影響を調べた科学的データはほとんどなく,バクセン酸単独の健康障害へのリスクについても調べられていない.反芻動物由来の肉,乳製品に含まれるトランス脂肪酸については,米国,カナダ,台湾,韓国等では,部分水素添加油脂のトランス脂肪酸と同様に摂取規制の対象となっている.一方,トランス脂肪酸を最初に規制した国,デンマークでは,動物性脂肪等に含まれている天然のトランス脂肪酸は,摂取規制の対象外としている.
    生体内に取り込まれたバクセン酸の一部は,生体内で共役リノール酸の一種に変換するという報告2)もあり,バクセン酸の今後の研究が待たれるところである.
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