日本食品科学工学会誌
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55 巻, 2 号
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総説
報文
  • 加藤 史子, 谷口 郁也, 物部 真奈美, 江間 かおり, 廣野 久子, 山本(前田) 万里
    2008 年 55 巻 2 号 p. 49-55
    発行日: 2008/02/15
    公開日: 2008/03/31
    ジャーナル フリー
    チャの発現遺伝情報をもとに設計したSSRマーカー44種類の中から,品種識別に利用可能なマーカーを6種類選抜し,国内の主要なチャ41品種の遺伝子型を調べた.その結果,選抜したマーカーにより検出されたフラグメントは4~13種類と高い多型性を示し,最少2種類のマーカーの組み合わせにより今回調査したすべての品種を識別できることがわかった.さらに,異品種混入茶を模擬して「べにふうき」に「かなやみどり」を所定の比率で混合し,「かなやみどり」を検出できるか調べた.選抜したSSRマーカーによるPCR産物のフラグメント解析をDNAシーケンサーにより行った結果,混合比率2%(w/w)でも「かなやみどり」由来のピークが検出されたことから,異品種の混入を数%(w/w)レベルで検出できることがわかった.また,「かなやみどり」を「やぶきた」および「ゆたかみどり」に変えた場合にも同様の結果が得られたことから,他の品種の識別にも適用可能と考えられた.
  • 伊藤 友美, 安達 卓生, 山田 哲也
    2008 年 55 巻 2 号 p. 56-62
    発行日: 2008/02/15
    公開日: 2008/03/31
    ジャーナル フリー
    3種類の市販の油脂(バター,ジグリセリド,トリグリセリド)と2種類の試薬としての油脂(トリオレイン,トリパルミチン)を用いてクッキー様菓子を作製し,これらの油脂添加の影響を,クッキー様菓子とクッキー様菓子から分離した澱粉の特性面から調べた.
    (1) クッキー様試料の断面は澱粉粒が油脂に覆われた構造であった.油脂の種類による違いは認められなかった.
    (2) DSCによる糊化特性では,分離澱粉は小麦澱粉に比べてエンタルピーがやや低くなったが,結晶領域での変化は小さかった.油脂の種類による違いは認められなかった.
    (3) ヨウ素澱粉反応において分離澱粉は小麦澱粉に比べて低い値を示した.また,GPCにおいて分離澱粉は小麦澱粉に比べて高分子画分が低分子側にシフトしたことから,分子レベルでの変化が見られた.この結果から,分離澱粉中のアミロペクチンが分解されていることがわかり,焼成により澱粉中のアミロペクチンの非結晶領域で分解が主として起きていることが示唆された.また油脂の種類により分解の程度が異なることが判明した.
    (4) RVAによる粘度特性において,分離澱粉は小麦澱粉に比べて粘度が顕著に低下したが,澱粉分子の分解度と粘度低下の度合いは一致しなかった.このことから,粘度低下は澱粉分子の分解以外に別の要因(油脂との包接など)が存在すると示唆された.
  • 千々松 武司, 山田 亜希子, 宮木 寛子, 吉永 智子, 村田 夏紀, 秦 政博, 阿部 和明, 小田 裕昭, 望月 聡
    2008 年 55 巻 2 号 p. 63-68
    発行日: 2008/02/15
    公開日: 2008/03/31
    ジャーナル フリー
    タイワンシジミは肝臓に良いとされ台湾で食されているが,その科学的根拠は乏しい.そこで本研究では,ラットにおいてD-ガラクトサミン誘発肝障害およびエタノール急性投与誘発脂肪肝に対するタイワンシジミ抽出物の効果を検討した.D-ガラクトサミン誘発肝障害に対し,タイワンシジミ抽出物は血清AST値およびALT値の上昇を有意に抑制した.また,エタノール急性投与誘発脂肪肝に対し,タイワンシジミ抽出物は肝臓脂質の上昇を抑制する傾向を示した.また肝臓のコレステロールは有意に低下した.更に,エタノールを急性経口投与したラットの血中エタノールの消失速度を有意に速めた.これらの結果から,タイワンシジミ抽出物は肝炎および脂肪肝に対し予防効果を示し,アルコール代謝を促進する可能性が示唆された.
技術論文
  • 西場 洋一, 鵜木 隆文, 沖 智之, 菅原 晃美, 須田 郁夫
    2008 年 55 巻 2 号 p. 69-75
    発行日: 2008/02/15
    公開日: 2008/03/31
    ジャーナル フリー
    (1) 有色サツマイモ味噌の発酵・熟成による成分変化を解析した.「ムラサキマサリ」のアシル化アントシアニン(YGM類)は発酵・熟成により減少し分解物と思われる非アシル化,またはモノアシル化アントシアニンが増大した.一方,クロロゲン酸は味噌において消失すると共に,カフェ酸が増大していた.YGM類やクロロゲン酸は麹菌による脱アシル化を受け,結果として生じるカフェ酸が味噌に蓄積されると考えられた.市販紫サツマイモ色素にクロロゲン酸エステラーゼを作用させたところ同様の変化が見られ,これらの成分変化におけるクロロゲン酸エステラーゼの関与が考えられた.また,「ジェイレッド」のβ-カロテンは味噌の発酵・熟成において比較的安定であった.
    (2) 「ムラサキマサリ」味噌のDPPHラジカル消去活性は市販味噌より高く,また原材料混合物に比べやや上昇していた.On-line HPLC-DPPH法において「ムラサキマサリ」原材料混合物はクロマトグラム全体に活性が分布しクロロゲン酸溶出位置に活性が検出されたが,味噌では活性成分の組成は大きく変化しカフェ酸の比重が増大した.これらのことから,ラジカル消去成分の体内吸収性は味噌の発酵・熟成により変化している可能性が考えられた.
研究ノート
技術用語解説
  • 藤崎 享
    2008 年 55 巻 2 号 p. 78
    発行日: 2008/02/15
    公開日: 2008/03/31
    ジャーナル フリー
    「ユニバーサルデザインフード」とは,「利用者の能力に対応して摂食しやすいように,形状,物性,および容器等を工夫して製造された加工食品および形状,物性を調整するための食品」と,日本介護食品協議会の自主規格に定義している.定義中,摂食とは,食品であることを認識し,口中に運び,咀嚼し,喉の奥に送り込み,嚥下する一連の行為をいう.
    近年の急速な高齢者人口割合の高まりの中,咀嚼・嚥下機能に障害のある高齢者向けに家庭内で利用できる介護用加工食品(以下介護食品と略す)が一般に販売されるようになった.しかし,これらの介護食品は供給するメーカーによって規格がまちまちだったり,表示内容も統一されていないなど利用者の選択にとって課題が多かった.
    このような中,介護食品が利用者や指導的立場の方に円滑に受け入れられ,かつ安心して使用できる仕組みの構築を要望する声が加工食品製造業者の間で上がったことから,平成14(2002)年4月,日本介護食品協議会(以下協議会という)が設立された.協議会では,加齢とともに「かむ力」や「飲み込む力」が弱まった高齢者から,歯の治療中などで食事が不自由な一般の方にも食べやすいことから「介護食品」を「ユニバーサルデザインフード」と命名し,自主規格制定,関連する情報の提供,普及啓発活動等を行い業界の健全な発展をめざしている.
    平成19(2007)年6月1日現在の協議会会員数は44社,ユニバーサルデザインフード商品の登録数は233品目(前年同期の登録数は178品目)と年々多くの商品が投入され,また,平成18(2006)年のユニバーサルデザインフードの生産実績は金額ベースで3976百万円,前年対比131.2%と高い伸びを示している.
    「ユニバーサルデザインフード」は「とろみ調整食品」,「乾燥タイプ」,「冷凍タイプ」,「容器包装詰加圧加熱殺菌(レトルト食品)タイプ」,「その他容器包装詰タイプ」と多様な加工食品形態を包含しており,これらは「かむ力」,「飲み込む力」への配慮から,製品のかたさと粘性といった機器で測定できる客観的な指標をもって定められた規格により「区分1~4」と「とろみ調整」として構成している(表参照).区分1~4は主食や惣菜等となる加工食品の各形態を主に分類しており,区分番号の順に物性はやわらかい値となるよう設定している.「とろみ調整」は飲み物や食べ物にとろみをつけて飲み込みやすくするための食品であり,「粉末状」をはじめ,「あん状」や「ゼリー状」などの商品形態がある.
    各区分の物性規格には上限値を設定しているが,区分3および4については「かたさ上限値」の他,「飲み込む力」への配慮事項として「粘度下限値」についての規格も別途定められており,これらを併用して最終的な区分を設定する仕組みとなっている.
    これらの規格基準はその設定のみにとどまらず,協議会会員各社の販売するユニバーサルデザインフード商品に「ロゴマーク」とともに区分数値を表示することで実際に目に見える形で運用されており,これをもって利用者の選択に資するよう配慮を行っていることが大きな特徴である.
    一方,厚生労働省では「高齢者用食品」を「特別用途食品」の表示許可の対象としているが,ここでは「そしゃく困難者用食品」および「そしゃく・嚥下困難者用食品」が定義されており,許可を受けた商品は高齢者の用に適する旨を医学的,栄養学的表現を持って記載することができる.これに対してユニバーサルデザインフードは食品業界(協議会)独自の自主基準による運用であるため,特別用途食品の様に特定の用途に向けた商品であることを商品に表示することはできない.このため,商品によっては訴求点を明確に提示しにくいところはあるものの,「物性に配慮した一般の食品」という位置づけで捉えることで,「ユニバーサルデザインフード」というネーミングの通り,多くの生活者を対象とした汎用性の高い食品として認知を広げつつある.
    人口における高齢化率が着実に高まる中,加工食品メーカーが物性に配慮した食品を利用者に提供していくことは今後の必須用件として見込まれていることから,ユニバーサルデザインフードが今後多くの利用者の商品選択を行う際の一助となることが期待される.
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