普通大豆フクユタカとLOX欠失大豆いちひめを用いて,脂肪酸組成の異なる植物油を添加して調製した豆腐の各種成分含量と官能評価について調べ,LOX反応に由来する脂質酸化生成物及び自動酸化反応のみによる脂質酸化生成物が豆腐の食味特にこく味に及ぼす影響について検討した.添加植物油はオレイン酸含量の高いオリーブ油,リノール酸含量の高いサフラワー油,リノレン酸含量の高いしそ実油を使用した.
(1) フクユタカといちひめの各々に植物油(オリーブ油,サフラワー油,しそ実油)を添加して調製した豆腐の水分含量,タンパク質含量,総脂質含量,遊離糖含量,イソフラボン含量は,各大豆の植物油添加豆腐間及び大豆間において,各々大きな差が認められないことを確認した.豆腐の脂肪酸組成は添加した植物油の脂肪酸組成を反映していた.
(2) 豆腐の総カルボニル化合物量は,普通大豆フクユタカで調製した豆腐の方がLOX欠失大豆いちひめの豆腐よりも高かった,両大豆の豆腐は,不飽和度の高い脂肪酸を多く含むほど僅かに総カルボニル化合物量が多かった.豆腐のTBA値は,両大豆において,リノレン酸含量の高いしそ実油添加豆腐で著しく高かった.
(3) 植物油添加豆腐間のにおいの官能評価では,しそ実油添加豆腐とサフラワー油添加豆腐はオリーブ油添加豆腐より強くにおいが感じられ,フクユタカでその傾向が強かった.こく味の強さは.両大豆の豆腐ともにオリーブ油添加<サフラワー油添加<しそ実油添加の順で感じられた.甘味,不快味及びおいしさ(総合評価)は,フクユタカで不快味がオリーブ油添加<サフラワー油添加<しそ実油添加の順で感じられた以外は,両大豆の植物油添加豆腐間で各々差はなかった.
(4) フクユタカといちひめ間のにおいの官能評価は,サフラワー油添加豆腐,しそ実油添加豆腐ともに両大豆間で大きな差はなかった.こく味(強さの程度)は,サフラワー油添加豆腐ではフクユタカはこくがあり,いちひめは淡白傾向にあると判断され,しそ実油添加豆腐では両大豆ともにややこくがある傾向と判断された.こく味(嗜好)は,両植物油添加豆腐において,フクユタカは好ましいこく味,いちひめは好ましくないこく味と判断された.甘味は,両植物油添加豆腐ともにフクユタカがいちひめよりも強く感じられた.不快味とおいしさ(総合評価)では,フクユタカはいちひめに比べて,不快味を感じず,有意においしいと判断された.
以上の結果から,豆腐のこく味の強さは,豆腐原料に含まれるリノール酸とリノレン酸の総和が多いほど,また,リノレン酸の割合が多いほど強く感じられることが示唆された.LOX反応由来の脂質酸化生成物は豆腐に好ましいこく味を与え,自動酸化反応由来の脂質酸化生成物はこく味を与えるが好ましいこく味を示さないと推察した.
抄録全体を表示