日本食品科学工学会誌
Online ISSN : 1881-6681
Print ISSN : 1341-027X
ISSN-L : 1341-027X
54 巻, 6 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
報文
  • 早見 功, 元村 佳恵, 西沢 隆
    2007 年 54 巻 6 号 p. 247-252
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    リョクトウモヤシの胚軸細胞壁多糖類が持つAsA酸化抑制効果について評価し,合わせてペクチン主鎖のエステル化度と抗酸化活性との関係を調査し,以下の知見を得た.
    (1)AsA酸化抑制効果は,胚軸の成長とともに活性が低下した.
    (2)AsA酸化抑制効果は,低いエステル化度を持つHWSP画分で最も高い活性を示した.
    (3) AsA酸化抑制効果とペクチン主鎖のエステル化度の間には負の相関が見られた.
    (4)以上の結果,リョクトウモヤシ胚軸の細胞壁多糖類には,抗酸化活性が見られ,特にペクチン性画分に比較的高い活性があることが明らかとなった.
  • 和田 淑子, 肥後 温子
    2007 年 54 巻 6 号 p. 253-260
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    市販菓子のクッキーと煎餅を吸湿(R.H. 7.6~R.H. 97%)させ,温度帯別(5~60℃)にテクスチャーを測定して,両試料の破断物性の違いを明らかにした.
    (1)油脂含量が多く糊化度の低いクッキーは,5℃では吸着水分8g, 20℃ 6g, 40℃ 4g, 60℃ 3g(いずれも乾物100g当たり)以上で軟化が開始され,硬さが保持される限界水分量が煎餅に比して低値であった.吸湿による軟化の度合いは,温度が上昇するほど顕著になった.
    (2)糊化度の高い煎餅は,中~高湿度(R.H. 56~80%)で硬化し,特に,40℃・水分11g/乾物100gの時点で応力と総エネルギーが最大値を示した.硬さが保持される水分量は5℃と20℃で20g/乾物100g程度,40℃と60℃で16~17g/乾物100gと,クッキーに比べて軟化に転じるまでの限界水分量が多いことがわかった.
    (3)官能検査の結果,クッキーはR.H. 56%付近(水分7.0g/乾物100g)でもろさが消失したが,かみ砕きやすさが残り,煎餅はR.H. 68%(水分12.8g/乾物100g)になると湿気を感じるだけでなく,粘りがあり,もちっとしてかみ切れないと評価された.機器測定による破断物性と官能評価の間に整合性が認められた.
  • 原田 修, 桑田 実, 山本 統平
    2007 年 54 巻 6 号 p. 261-265
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    開発した高圧熱水抽出装置を用いてイワシ鱗からゼラチンの抽出を行い,ゼラチンの抽出挙動および抽出ゼラチンの性状について検討した.本方法による抽出では抽出管のフィルターに目詰まりは認められず安定した抽出を水だけで行うことができた.抽出管出口温度が温度領域143-153℃以上において加水分解反応が顕著になり,抽出管入口温度225℃ 8分間(抽出管出口温度156-202℃)の抽出でほとんどのイワシ鱗コラーゲンが溶出することが分かった.抽出物中のタンパク質はほぼゼラチンであり,数パーセントのアパタイトと考えられる灰分が含まれていた.またアミノ酸の顕著な熱分解は認められなかった.抽出されたゼラチンの分子量はGPC曲線のピーク地点で443kDa付近から6.5kDa付近となっており,抽出温度が高くなるほど低くなった.入口温度225℃で400-1000mLの画分では,分子量分布の狭いペプチド領域のゼラチンが得られた.
  • 熊沢 賢二, 和田 善行, 増田 秀樹
    2007 年 54 巻 6 号 p. 266-273
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    カンキツ(グレープフルーツ,オレンジ)果汁の香気寄与成分および加熱による香気変化に関与する成分の特性を検討し,以下の結果を得た.
    (1)AEDAによりカンキツ果汁の香気に寄与する41ピークを見出し,GC-MSおよびGC-Oにおける保持指標の比較により33成分を同定した.これらの成分の中でカンキツ果汁より初めてcis-4,5-epoxy-(E)-2-decenalを同定した.
    (2)FD-factorの比較から,各々のカンキツ果汁を特徴づける成分を明らかにした.また,加熱による香気変化の原因物質はいずれの果汁にも共通することを見出し,さらに,加熱による香気変化は減少する成分よりも増加する成分がより重要であることを推定した.
    (3)加熱によるカンキツ果汁の香気変化は,その大部分を加熱により増加した6成分にて説明することが可能であり,それらの中で2-methyl-3-furanthiolが最も重要な成分であることを明らかにした.さらに,この成分の重要性はいずれの果汁にも共通することを明らかにした.
  • 山田 勝久, 今田 千秋, 小林 武志, 濱田(佐藤) 奈保子
    2007 年 54 巻 6 号 p. 274-279
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    伊豆諸島の新島沖の海底堆積物中から分離されたTrichoderma sp. が有するチロシナーゼ活性阻害作用について,酵素学的および応用レベルから調べた.本菌はその分類学的性状からTrichoderma属の糸状菌と同定された.本研究ではこの糸状菌を2%グルコースおよび0.5%ペプトンを添加した培地中で4日間培養(27℃,回転振とう培養160rpm)した後,遠心分離を行い,その上清を実験に供した.
    本菌の培養上清は,キノンオキシダーゼの一種であるチロシナーゼの活性を添加濃度依存的に阻害した.本菌培養上清を-20℃および-80℃の条件下で保存しても,阻害活性は50日間以上の長期に渡り安定であった.また本菌培養上清を100℃,30分間の加熱処理した結果,チロシナーゼに対する阻害活性は約50%まで低下したが,プロテアーゼの一種であるパパイン処理では阻害活性は90%以上残存していた.これらの結果から,本菌の培養上清は生鮮食材の鮮度保持に十分応用可能であると考えられた.
    そこで養殖ものの活クルマエビに対する培養上清の黒変防止効果を調べた結果,0.2%の培養上清添加により,顕著な黒変防止効果が確認された.また野菜や果物に対する影響を調べるために,リンゴ,ナスおよびマッシュルームを取り上げ,これらの変色防止効果について検討したところ,培養上清の50%希釈溶液は,これらの変色を70%以上抑制することが判明した.
    これらの知見から,本菌の培養上清は,生鮮食材の新しい鮮度保持剤として応用が可能であることが示唆された.
  • 柴原 裕亮, 岡 道弘, 富永 桂, 猪井 俊敬, 梅田 衛, 畝尾 規子, 阿部 晃久, 大橋 英治, 潮 秀樹, 塩見 一雄
    2007 年 54 巻 6 号 p. 280-286
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    ブラックタイガー由来精製トロポミオシンを免疫原として,甲殻類トロポミオシンに特異的に反応するモノクローナル抗体を作製し,甲殻類トロポミオシン測定用のサンドイッチELISA法を確立した.本法では,甲殻類に分類されるえび類,かに類,やどかり類,おきあみ類のトロポミオシンとは交差率82~102%と全般的に反応したが,軟体動物に分類されるいか類,たこ類,貝類トロポミオシンとの交差率は0.1%未満であった.また,食品全般においても甲殻類以外で反応は認められなかった.検出感度は甲殻類由来総タンパク質として0.16ppmであり,食品表示に求められる数ppmレベルの測定に十分な感度であった.再現性もCV値10%未満であったことから,精度よく測定できると考えられた.さらに,食品由来成分の存在下においてもマトリックスの影響を受けないこと,加熱により変性を受けた場合にも測定可能なことを確認した.したがって,本法は甲殻類由来トロポミオシンに対して特異的であり,加工食品における甲殻類検知法として使用可能であると考えられた.
  • 太田 豊, 船山 誠, 清野 博威, 佐見 学, 神田 智正, 庄司 俊彦, 大竹 康之, 長田 恭一
    2007 年 54 巻 6 号 p. 287-294
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    本実験では,肥満モデル動物であるZucker Fattyラットに対し,APを混合した飼料の摂取がどのような影響を及ぼすかを検討した.AP摂取は内臓脂肪蓄積を抑制し,血清および肝臓トリグリセライド濃度を低減した.また,血漿インスリン濃度と血糖値を低減した.これらの結果より,AP摂取が脂質代謝とインスリン抵抗性の改善を示すことが明らかとなった.
技術論文
  • 西場 洋一, 須田 郁夫, 沖 智之, 菅原 晃美
    2007 年 54 巻 6 号 p. 295-303
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    (1) 全国各地で栽培された大豆20品種・31検体のイソフラボン,ビタミン類を分析した結果,イソフラボン総量は131.6~568.7mg/100gdwの範囲で変動しており,平均値は302.9mg/100gdw, 変動係数は40.7%であった.それぞれの栽培地において,イソフラボンは品種の違いで最も大きく変動する傾向にあった.イソフラボンの組成はマロニル配糖体が全体の72.9~87.6%を占め最も多く,アセチル配糖体,アグリコンは微量であった.アグリコンの組成はGenisteinの比率が高い傾向にあった.イソフラボン総量に占めるアグリコンの割合は平均して53.9%であり,イソフラボン総量とアグリコン換算値との間には極めて高い相関関係が認められた.
    (2)α-トコフェロール当量(ビタミンE)は,全国の大豆において3.4~13.3mg/100gdwの範囲で変動し,平均値は5.6mg/100gdw, 変動係数は40.5%であった.4つの同族体の中でα-,β-トコフェロールの変動が大きく,各栽培地で共通した傾向であった.特にα-トコフェロール含量はビタミンEとしての生物学的効力を表すα-トコフェロール当量と相関が高く,大豆のビタミンEがα-トコフェロールの変動により大きく支配されている実態が示された.チアミンは0.55~0.89mg/100gdw, リボフラビンは0.21~0.30mg/100gdwの範囲で変動していた.平均値はそれぞれ0.71mg/100gdw, 0.23mg/100gdw, 変動係数は13.0%,10.3%であり,イソフラボン,α-トコフェロール当量に比べると変動は小さかった.
    (3)九州地方の基幹品種である「フクユタカ」について,九州地域11箇所で栽培された大豆を収集し成分分析を行った結果,全国大豆の分析結果と同様,イソフラボンとα-,β-トコフェロールの変動が大きく,チアミン,リボフラビンの変動は小さい傾向であった.
  • 小宮山 誠一, 加藤 淳, 本田 博之, 松島 克幸
    2007 年 54 巻 6 号 p. 304-309
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    ジャガイモのデンプン価は食味や調理・加工適性に大きな影響を及ぼす.各種の栽培条件下でジャガイモのデンプン価は変動し,製品品質や加工工程にばらつきをもたらすため,しばしば消費・実需面からのクレームを生じることがある.そこで,我々は可視・近赤外分光法を用い,実用レベルで,デンプン価の非破壊測定法を検討した.透過スペクトルは,コンベアで分光測定部へ試料を50m/min. の速度で連続的に供給しながら,光源からの光を塊茎にあて,対面するCCDエリアイメージセンサー(測定波長範囲730~930nm)で受光して測定した.比重法により求めた塊茎のデンプン価(実測値)と本法で得られた2次微分スペクトルからPLS回帰分析により検量線を品種毎に作成した.その結果,「男爵薯」,「メークイン」,「キタアカリ」の全規格込みの予測標準誤差(SEP)は,それぞれ0.87%,0.58%および0.86%であった.また,産地,付着土の有無および品温が測定精度に及ぼす影響は小さく,いずれの処理でもSEPは目標値の1%未満に抑えられた.
    以上のように,選果ラインを組み合わせた光学的評価法により,ジャガイモ塊茎のデンプン価の非破壊測定およびデンプン価に基づいて選別(毎秒約3.3個)できることが示された.
技術用語解説
  • 田島 眞
    2007 年 54 巻 6 号 p. 310-311
    発行日: 2007/06/15
    公開日: 2007/10/04
    ジャーナル フリー
    1. 宇宙日本食とは
    世界各国が共同で運用している国際宇宙ステーション(ISS)に,日本が開発を担当した実験施設「きぼう」が2007年度よりいよいよ取り付けられることになった.その作業には日本人飛行士がISSに長期滞在する必要がある.彼らに日本食を提供することが計画され,開発を日本食品科学工学会に委託された.食品メーカーと印刷会社の協力により進められてきた開発が一段落し,2007年にいよいよ第1回目の認証が行なわれることになった.
    2.宇宙日本食の認証の流れ
    宇宙日本食の認証の流れは図1のとおりである.まず,認証を受けようとする企業は,試作品を製造する.ここで注意して欲しい用語として,「原料食品」と「最終食品」がある.加工食品は原材料から製造・加工されるが,できたものを原料食品と定義する.これをJAXA指定容器に包装したものを最終食品と定義する.宇宙食の場合は,製造企業が宇宙食のためのみに食品を製造することは少なく,市販食品をリパックするケースが多いからである.この場合はリパック前の食品が原料食品となる.
    包装された最終製品は,1年間の保存試験が行なわれる.その間,一時的な昇温,低温試験も必要である.原料食品及び最終食品には,図1に示された各種の試験・検査が求められる.なお,検査の実施は,基準を満たした機関ならばどこでも良い.
    検査が終わった食品はJAXAに申請される.JAXAはその評価を審査機関に委託する.現在,日本食品科学工学会が唯一の審査機関となっている.審査の結果,合格したものにJAXAより認定証が交付される.
    3. 宇宙日本食認証基準
    最も重視されるのが微生物検査である.その基準を表1に示した.この内容は米国NASAの基準に準拠している.商業的無菌食品いわゆるレトルト食品の場合は一般生菌数のみであるが,それ以外の食品では,原料食品に多くの基準がある.腸管出血性大腸菌O157は,日本独自の基準である.栄養成分の項目は一般成分と微量成分であるが,基本的に日本食品標準成分表に掲載の項目である.水分活性はその食品の保存性の判断のための参考にする.粘度はゾル状食品にのみ求められる.官能検査は,9点法で行い6点以上が合格である.認証基準の詳細は,JAXAホームページよりダウンロードできる.
feedback
Top