日本食品科学工学会誌
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69 巻, 5 号
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総説
  • 米谷 俊
    2022 年 69 巻 5 号 p. 185-201
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    「食を通じて人々の健康の維持・向上に貢献する」ことを目的に, 機能性食品素材・食品の研究開発を行った.

    リン酸化オリゴ糖カルシウム (POsCa) , 高度分岐環状デキストリン (HBCD) およびα-グルコシルヘスペリジン (Hsp-G) を酵素を用いて合成した. POsCaは齲蝕予防に利用され, HBCDは持久力を高め, Hsp-Gは血液循環を改善し, それぞれ実用化できた.

    その後, これらの研究から得られた知識と経験に基づいて, 研究を拡大した. 口腔衛生分野では, 咀嚼, 嚥下しやすい高齢者向けのビスケットおよびたんぱく分解酵素により舌苔を除去し口臭を抑制するタブレットを開発した. 持久力研究は, 血糖コントロールによる糖尿病患者向けのせんべいの開発と食後の血糖上昇を抑制する柿ポリフェノールの研究に繋がった. 血液改善の研究で得られた自律神経の知識を用いて, GABAによりストレスを低減できるチョコレートの開発と睡眠を促進するornithineの探索ができた.

    さらに, DOHaD説に基づく, 栄養不良の母親から生まれた子の成長後の健康に関する研究では, 世代を超えた栄養摂取の状態が非常に重要であることが明らかとなった.

  • 水野 雅史
    2022 年 69 巻 5 号 p. 203-211
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    Anti-inflammatory and anti-allergic activities of dietary fiber (lentinan and fucoidan) are reviewed. We reported that lentinan, β-1,3; 1,6-glucan derived from Lentinula edodes, suppresses intestinal inflammation and ameliorates symptoms of colitis. Furthermore, as a mechanism, our study revealed that lentinan suppresses intestinal inflammation by Dectin-1-mediated regulation of tumor necrosis factor receptor 1 transfer to the surface of the intestinal epithelial cells. We revealed that fucoidan derived from Saccharina japonica inhibits mast cell degranulation through the upregulation of galectin-9 content in the blood. We found that residual amounts of IgE on RBL-2H3 cells were decreased by the addition of galectin-9. Galectin-9 was demonstrated to be capable of removing IgE even if IgE was already bound to mast cells and to suppress the mast cell degranulation induced by antigen. This study shows that lentinan and fucoidan might become effective therapeutic agents for patients who have already developed intestinal bowel diseases and type I allergic diseases, respectively.

報文
  • 山谷 健太, 竹井 亮, 髙橋 肇, 勝野 那嘉子, 西津 貴久
    2022 年 69 巻 5 号 p. 213-224
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    気泡構造をもつ米菓への油の浸透度合いをX線CTを用いて3次元的に可視化する手法を開発し, 油の浸透度合いが食感に与える影響を解析した.

    粳米を主原料とするモデル米菓に油を段階的に含侵したサンプルを用い, しっとりやザクザク等の油系菓子に代表的な食感について官能評価を実施した. 更に同サンプルをX線CTにて7層に切り分け各層の油含量を計算することで油の分布状況を可視化し, 浸透度と食感の相関解析を行った.

    米菓への油の湿潤と食感は完全比例しないことを視覚的に示し, カリカリ, しっとり, しなっとした食感は深層への油の浸透が影響し, 中層への油の浸透はかたさやザクザクした食感に影響を与えることを示した.

  • 勝山 聡, 望月 玲於, 鈴木 雅博, 横澤 賢, 黒瀬 智英子, 髙木 啓詞, 岩原 健二
    2022 年 69 巻 5 号 p. 225-233
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    静岡県由来の微生物を活用したサワービール開発を目的に, 県内分離乳酸菌98株について麦汁モデル培地中における乳酸生成量を評価した. その結果, 属種間および株間で生成量は多様で, 既報10) と合わせ, これらから乳酸生成が良好な3属種4株 (L. plantarum TIG-0372, L. plantarum NMZ-1139, L. casei TIG-0429およびS. harbinensis NMZ-1200) を選抜した. また, 本県ビール酵母S. cerevisiae NMZ-0688について2-DG耐性付与による発酵能の強化を行い, 乳酸含有麦汁モデル培地におけるアルコール生成能が市販ビール酵母と同等のS. cerevisiae NMZ-1242を取得した. これら乳酸菌4株および酵母2株 (S. cerevisiae NMZ-1242および市販ビール酵母) を用い, ケトルサワーリング法による実験室規模サワービール試験醸造を行ったところ, S. cerevisiae NMZ-1242を用いた製成酒は主発酵期間が短く, バナナ様香気成分である酢酸イソアミルを多く含有した. 官能評価では特定の株が高評価を得るとは限らず, 乳酸菌と酵母の株の組合せが重要であることが示唆された. なかでも県独自の乳酸菌S. harbinensis NMZ-1200と酵母S. cerevisiae NMZ-1242を使用した製成酒は評価も良好で, 地域性及び独自性のあるサワービール製造が可能と考えられた.

  • 石橋 ちなみ, 本同 宏成, 上野 聡
    2022 年 69 巻 5 号 p. 235-245
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    本研究では, 油脂にパーム中融点油脂, 乳化剤にソルビタン脂肪酸エステルを用いて, 放射光マイクロビームX線回折法によって乳化剤結晶のラメラ面の配向と格子間隔が油脂の結晶化に及ぼす影響を調べた. STS添加PMFの回折リングは円弧状または同心円状であり, STSとPMF α 型の結晶のラメラ面の配向はすべての位置においてほぼ同じ向きで結晶化していた一方, STB添加PMFでは, PMF α 型の回折リングは濃淡のある円弧およびスポット状のパターンを示し, STB結晶のラメラ面の配向と一致しない位置も認められた. これらの結果から, STS添加PMFではエピタキシャル成長, STB添加PMFでは不均一核形成によってPMF α 型が結晶化し, 乳化剤結晶と油脂結晶の格子間隔 (分子の長さ, 副格子構造) の類似度によって, PMFの核形成機構が異なることが示された. また, それらがPMF α 型結晶のラメラ面の配向に反映されたと同時に, PMFの結晶化開始温度や結晶数にも現れたことが明らかとなった. STB添加PMFにおいて, STB結晶はα 型に類似した構造であったにもかかわらず, PMF α 型が不均一核形成したことについては, STB結晶とPMF α 型結晶の鎖長の違いに加えて, 親水基を含めたSTBの立体構造が影響したと考えられる.

技術論文
  • 硯 弘乃介, 村山 真一, 伊藤 裕信, 吉井 信彦, 中里 孝史, 五十嵐 友二, 安井 明美
    2022 年 69 巻 5 号 p. 247-257
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/15
    ジャーナル フリー

    Folch 法などに用いられるクロロホルムは歴史的に脂質研究において使用されてきたが, 国際的なハロゲン化溶媒削減の観点から使用量を減らしていくべきとの考え方が世界の趨勢となっている. これらの状況を踏まえて成分表マニュアルの脂質・脂肪酸分析法を, クロロホルムを使用しない方法に切り替えるために比較検討を実施した.

    脂質の抽出ではクロロホルムを用いた方法とHex-IPA法で有意な差は認められなかったため, クロロホルム削減の観点から魚介類の脂質分析にHex-IPA法の適用が可能と判断された.

    脂肪酸量および脂肪酸組成の分析においても, 一部の試料を除き, クロロホルムを用いた方法とHex-IPA法の同等性が確認された. ただし, アマエビ等の脂質含量の低い一部の試料においてはクロロホルムを用いた方法とHex-IPA法で結果に差が見られたため, さらなる検討が必要と考えられた.

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